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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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54.



 むせ返るような土の匂いが漂う帝国立学園の裏手。

 今日も泥まみれになって畑を耕すマルコーたちの前に、場違いな金属音が響き渡った。


「こんな泥遊びが軍事訓練だと。帝国軍を舐めるなよ。温室育ちの学生どもが」


 ピカピカの豪華な鎧を着込んだ魔導騎士団の将軍が、部下を引き連れてあからさまに鼻で笑う。

 彼は以前、会議室でミシェルに予算を削られた保守派将軍の仲間であった。


「我々本物のエリート騎士が、実戦というものを教えてやろう」


 将軍はミシェルの軍事訓練カリキュラムを白紙に戻すため、模擬戦を要求してくる。

 木陰で視察をしていたミシェルは、手元の資料から目を離さずに淡々と答えた。


「いいですよ。ただし、貴方たちが負けたら次期予算はさらに削ります」


 こうして、マルコーたち学生と魔導騎士団による模擬戦が唐突に開始された。


「さあ、見せてみろ。お前たちの泥遊びの成果とやらをな」


 騎士団の面々が悠長に杖を構え、長々とした魔法の詠唱を始めようとした、その瞬間である。


「畑を荒らさないように、精密に的を絞れっ」


 マルコーの鋭い指示が飛び交う。

 連日の過酷な農作業で培われた圧倒的な筋力と、極限まで圧縮された無詠唱魔法がエリート騎士たちを襲った。


 大気を引き裂く重い衝撃音が響き渡る。

 騎士たちは反応すらできず、一瞬にして泥まみれになって吹き飛ばされ、畑の端で山積みにされて全滅した。


「な、なんだとっ。まぐれに決まっている」


 呆然とする将軍の足元へ、ミシェルが分厚い予算資料を無造作に放り投げる。

 冷たい紙の束が泥にまみれ、残酷な現実を突きつけた。


「これが本物のエリートですか。ただの学生に惨敗する連中が、年間これほどの予算を食いつぶしている。費用対効果が最悪の粗大ゴミですね」

「ひ、卑怯だっ」


「次期の魔導騎士団の予算は七割カットします。浮いたお金は、学園の肥料代に回しましょう。その方がよほど国益になりますから」


 ミシェルは氷のような声で理詰めの連撃を浴びせ、完全に息の根を止める。

 反論の余地を徹底的に奪われた将軍は、ぐうの音も出なくなり、泡を吹いてその場に気絶した。


 物理とデータで完膚なきまでに叩き潰された騎士団を見下ろし、ギデオンが腕を組んで歩み寄ってくる。


「ふん。俺の指導の賜物だな。どうだ」


 巨大な皇帝はこれ見よがしにドヤ顔を浮かべ、ミシェルの肩を抱き寄せようとした。


「貴方は昨日、山を吹き飛ばして畑の邪魔をしただけです。暑苦しいので近寄らないでください」


 ミシェルが氷のような声で容赦なくばっさりと切り捨てる。

 相変わらずの塩対応を受け、ギデオンはガックリと肩を落とした。


「冷徹妃様は今日も通常運転ですぅ」


 呆れたように丸眼鏡を押し上げるピクシーの横で、ティルが長い耳をパタパタと揺らすのだった。


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