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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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49.

 


 過酷な農作業という名の軍事訓練が終わり、日はすっかり傾いていた。

 泥まみれになった荒れ地では、マルコーをはじめとする生徒たちが魔力と体力の限界を迎え、地面にへたり込んでいる。


「ふん。情けない奴らだ」


 ギデオンが腕を組み、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 ミシェルは木箱を開け、黄金色に輝く液体が入った小瓶を生徒たちに配り始める。


「お疲れ様です。これを飲んでください」

「な、なんだこれは……」


 マルコーが震える手で小瓶を受け取り、不思議そうに首を傾げる。

 その光景を遠巻きに見ていた無能な教員や保守派の生徒たちが、あからさまなブーイングを飛ばし始めた。


「おい、それは世界樹の雫ではないか」

「たかが農作業で泥まみれになった生徒に、国宝級の回復薬を使うなど正気の沙汰ではないぞ」


 外野が口々に文句を垂れる。

 ミシェルが冷ややかな視線を向けるより早く、ギデオンが凄まじい殺気を込めて彼らを睨みつけた。


「うるさい。俺の女のやり方に口を出すな」


 喉元に刃を突きつけられたような重圧を受け、文句を言っていた者たちは一瞬でカエルのように床へ這いつくばる。

 静寂が戻った荒れ地で、ミシェルは淡々と説明を始めた。


「魔力を限界まで枯渇させた状態で世界樹の雫を飲ませると、魔力の最大値が飛躍的に向上する。これは学会で発表されたばかりの最新論文に基づく処置です」

「ボ、ボクらのために、そんなに高いものを……」


 マルコーが目を丸くし、泥だらけの顔を上げる。

 周囲の保守派の生徒たちは、まだ納得がいかない様子で歯噛みしていた。


「いくらなんでも、見込みのない者にまで高価なポーションを与えるのは無駄だ」

「無駄ではありません。貴方たちは国を担う未来の将校です。未来の軍事力へ投資するのは、為政者として当然の判断です」


 ミシェルが氷のような声で説き伏せると、反発していた者たちもぐうの音も出なくなる。

 マルコーは小瓶を握りしめ、縋るような視線を向けた。


「それは、ボクのような位の低い没落貴族でも、いいのか……」

「階級など関係ありません。能力と結果がすべてです」


 ミシェルの冷徹で平等な言葉に、マルコーの瞳に熱いものが込み上げる。

 彼は泥水の中に両手をつき、必死に立ち上がろうとした。


「聞いたか、お前たちっ。皆、立とう。ボクらは期待されているのだ。頑張るのだっ」


 しかし、足がガクガクと震え、ふらふらとよろけて何度も泥にまみれる。

 それでもマルコーは決して諦めず、歯を食いしばって見事な根性を見せつけた。


 その泥臭い姿を見て、ミシェルはほんの少しだけ口角を上げる。


「ふっ。面白い男子ですね」

「ミシェルっ。それは駄目だっ」


 不意に、横に立っていたギデオンが血相を変えて叫んだ。

 突然の皇帝の取り乱しように、ミシェルは不思議そうに小首を傾げる。


「ああ。貴方のセリフを取ってしまったからですか」

「そうじゃないっ」

「何ですか」


 本気で焦りを見せる巨大な皇帝と、全く意図を理解していない冷淡な事務官。

 噛み合わない二人のやり取りを前に、マルコーは泥だらけのまま呆然と立ち尽くすのだった。


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