47.
帝国立学園の裏手に広がる、荒れ果てた広大な土地。
むせ返るような土埃と青草の匂いが漂う中、集められた純血貴族の生徒たちはあからさまに不満顔を浮かべていた。
「なぜ高貴な我々が、泥まみれにならなければいけないのだ」
「そうだ。軍事訓練と聞いて来てみれば、ただの農作業ではないか」
生徒たちが口々に文句を垂れる中、教壇代わりの木箱に立ったミシェルが淡々と告げる。
「魔法の威力は基礎体力に依存します。そして、軍を動かす最大の要は兵站、すなわち食糧です。よって、本日の訓練はこの荒れ地を開墾し、畑を作ることです」
前回の農業強化政策と見事にリンクさせ、生徒たちを無料の労働力として活用する無駄のない計画であった。
しかし、温室育ちのボンボンたちにその合理性が伝わるはずもない。
「ふざけるな。農民の真似事などできるか。帰るぞ」
数人の生徒が踵を返し、その場から立ち去ろうとした、その時だった。
「ほう。帰るだと」
地を這うような低い声が響き、周囲の空気が一気に重く冷たくなる。
腕を組んで立っていたのは、本日の特別教官として呼ばれた皇帝ギデオンだった。
「気合が足りないな」
ギデオンは獰猛な笑みを浮かべると、右拳に莫大な魔力を込めて荒れ地を殴りつけた。
鼓膜を破るような凄まじい轟音と共に大地が粉砕され、一瞬にしてふかふかの土へと変貌する。
「道具が使えないなら魔力で耕せ。倒れたら俺が直々に叩き起こしてやる。死ぬ気でやれ」
皇帝が放つ本気の殺気と圧倒的な重圧に、生徒たちは顔面蒼白になった。
彼らは涙目で鍬を握りしめ、ガクガクと膝を震わせながら猛烈な勢いで畑を耕し始める。
泥まみれで泣きながら働くボンボンたちを少し離れた日陰から見て、ティルが長い耳を揺らしながら疑問をこぼした。
「あの、せんせぇ。あんなに文句ばかり言っている貴族の生徒たち、無能な教師たちみたいにばっさりと切り捨てなかったのはどうしてですかぁ?」
読者が抱くような素朴な問いかけに対し、ピクシーは丸眼鏡を押し上げながら静かに答える。
「彼女が用意した実力テストを、彼らはちゃんとクリアしたからさ。学力と、魔法の基礎能力は申し分ないんだよ。ただ、貴族特有の腐った根性が染み付いている。だからこそ、あの二人がこうして物理的に鍛え直しているわけだ。有能な芽は摘まず、歪んだプライドだけを徹底的にへし折って再教育する。実に理にかなっているだろう」
その容赦なくも的確な育成方針に、ティルは「なるほどぉ」と深く納得しつつも、ガタガタと身を縮めて怯えた。
「ただの労働力目当てというわけでもないんですね。でも……ひぃぃっ、やっぱり鬼が二匹いるですぅ」
怯える小動物をよそに、ミシェルは冷めた紅茶を優雅に口へ運んでいた。
「体力もつき、農地も開拓できる。素晴らしい費用対効果ですね」
「どうだ。俺の指導力は」
生徒たちを恐怖で支配したギデオンが、ミシェルの元へやってきて褒められようとすりすり頬を寄せてくる。
ミシェルは無表情のまま、氷のような声で淡々と返した。
「ええ。とても優秀な労働力ですね。トラクターの代わりとして高く評価しますよ」
ティルは「トラクターってなんですぅ?」と首を傾げる。ギデオンはそこ気にしてないようで、得意顔で言う。
「ふっ。いいぞ、もっと褒めてくれ」
「もっと頑張ったらね」
相変わらずの塩対応であったが、ギデオンはご満悦に喉の奥で笑い声を上げるのだった。




