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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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45.



 重厚な円卓が置かれた帝国の大会議室。

 そこには、勲章を胸に無駄にぶら下げた恰幅の良い将軍たちと、保守派の貴族たちがずらりと顔を並べていた。


「学園の生徒に軍事訓練だと。馬鹿馬鹿しい」


 恰幅の良い将軍が、鼻で笑って机を叩く。


「頭でっかちな貴族のボンボンどもを育てるなど不要だ。机上の空論をこね回す輩に無駄金を使うくらいなら、最前線で他国の侵略行為を抑え込んでいる我々、魔導騎士団にこそ更なる予算を回すべきである」


 彼ら自身が特権階級に胡座をかく貴族のボンボンであるという自覚は、完全に欠落しているらしい。

 ミシェルは上座に立ち、一切の感情を排した氷のような瞳で彼らを見下ろした。


 その隣では、皇帝であるギデオンが腕を組み、退屈そうに目を閉じている。


「頭でっかちな貴族のボンボン。なるほど。それはご自身のことを仰っているのでしょうか」

「なっ、なんだと」


「既存の魔導騎士団への予算投入は却下します。費用対効果が全く見合っていませんから」


 ミシェルは手元の資料を円卓に滑らせた。

 ずらりと並んだ冷酷な数字の羅列に、将軍たちの顔色が一瞬にして変わる。


「過去五年間、貴方たちの魔導騎士団が陛下のお力なしで、他国の侵略を単独で防ぎ切った局地戦はゼロ。にもかかわらず、装備の修繕費と遠征費用だけは毎年二割ずつ増加しています」


 ミシェルの冷徹な声が、静まり返った会議室に響き渡る。


「安全な帝都で無駄に豪華な軍服を着飾り、帳簿上の数字だけを誤魔化して予算を貪る。血を流すこともないそれこそが、頭でっかちなお遊戯と呼ぶにふさわしいですね」

「き、貴様っ。小娘が。軍の何たるかも知らぬ事務屋が、口出しをするなっ」


 図星を突かれた将軍が激昂し、腰の剣に手をかけようとした、その瞬間だった。

 ミシェルの隣で目を閉じていたギデオンが、ゆっくりと赤い瞳を開く。


「おい。誰に向かって吠えている」


 ギデオンから底知れぬ殺気と重圧が放たれ、会議室の空気が一気に凍りついた。

 将軍は喉の奥でひゅっと短い息を漏らし、カエルのように床へ這いつくばる。


 圧倒的な暴力の気配を前に、他の貴族たちもガタガタと全身を震わせた。


「若く適性のある生徒たちに最新の軍事戦術と魔法を叩き込み、国全体の防衛水準を底上げする。これこそが他国の侵略行為を未然に防ぐ、最も合理的な軍事力強化の投資です」


 ふぅ、と一息ついて、ミシェルが続ける。


「貴方たちのような、横領しか能のない老害に回す予算は一円たりとも存在しません。異論はありますか」


「ひぃぃっ。ご、ございません」


 ミシェルの冷徹な宣告と、ギデオンの暴力的な威圧の前に、会議室は完全な沈黙に支配された。

 こうして、学園のカリキュラムに軍事訓練を組み込むという抜本的な改革案は、一切の障害を排除されてあっさりと可決されたのである。


 執務室に戻ると、報告を受けた大賢者ピクシーが丸眼鏡の位置を直して深く頷いていた。


「軍事訓練の導入。良い試みだ。生徒たちの規律も育ち、魔力の底上げにも繋がるだろう。早速、カリキュラムを組み直そう」

「ありがとうございます、ピクシー殿」


 ミシェルが頭を下げると、背後からギデオンがこれ見よがしに歩み寄ってくる。

 彼はミシェルの肩を抱き寄せ、最高に得意げな表情を浮かべた。


「ふん。俺の提案だからな。軍事力の強化には、やはり教育が必要なのだ」

「兵站の重要性について、私から一時間も説教を受けた方のセリフとは思えませんね」


 ミシェルが氷のような声でばっさりと切り捨てる。

 痛いところを突かれたギデオンは、ごまかすように視線を泳がせた。


「こ、細かいことは気にするな。結果として防衛のための最高の案が通ったのだから、俺とお前はやはり最高のパートナーということだ」

「そうですね」


 相変わらずの塩対応を受けながらも、ギデオンは嬉しそうにミシェルの肩にすりすりと頬を寄せるのだった。

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― 新着の感想 ―
この世界の通過は円だったんか。
ミシェル、方々で恨みを買っていそうなので、つねにギデオンが傍に張り付いているの、少なくとも諸々の成果と人事の刷新が完了するまでは、安心、安全、効率的ですね。最高に得意げな表情のギデオン、かわいいし、グ…
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