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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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43/56

43.



 大賢者ピクシーを学園の新たなトップに据え、帝国立学園の抜本的な改革が始まった。

 長年凝り固まった腐敗を一掃し、実力主義のまともな教育機関へと作り変える大事業である。


 ピクシーは学長室の広いデスクで、承認印が押されたばかりの書類を見つめて首を傾げていた。

 彼女は教育熱心だが、貴族たちとの政治的な駆け引きや予算の奪い合いといった泥臭い作業をひどく煩わしいと思っている。


「……おかしい」


 丸眼鏡の奥の紫色の瞳を瞬かせ、ピクシーは独り言をこぼした。

 そこへ、書類の束を抱えたティルが長い耳を揺らして入室してくる。


「せんせぇ、どうしたんです?」

「いや。提出した学園の改革予算案が、あっさりすぎるほど通ってね。普通、教育事業にこれほどの金をかけるとなれば、守銭奴の貴族たちから絶対に反対意見がくるものだろう」


 拍子抜けしたように尋ねるピクシーに対し、ティルは「ああ」と深く納得したように頷いた。


「それなら、その時の様子をお見せしますぅ」


 ティルが懐から記録魔法の魔導具を取り出し、空中に映像を投影する。

 そこに映し出されたのは、数日前の重苦しい予算会議の様子だった。


『学園如きにこれほどの予算を回すなど正気の沙汰ではない。我々の軍事費を削るなど』

『正気ではないのは貴方たちの頭部です。その軍事費の三割が、私的な領地開発と愛人への贈り物に消えていることは調査済みです。これらを全額カットし、学園の設備投資に回します』


 映像の中のミシェルは、氷のような冷徹さで反対派の貴族たちをばっさばっさと切り捨てていた。

 感情を交えず、ただ冷酷な数字と事実のデータだけを突きつけ、反論の余地を一切与えずに無駄を削ぎ落としていく。


 さらにその後ろでは、ギデオンが腕を組んで凄まじい威圧感を放ち、反対意見を物理的に封殺していた。


「というわけで、必要な予算が全て通ったのですぅ」

「なるほど……見事すぎる。無駄を切り、必要なものを残す。言葉にするのは簡単だが、それをのしかかる重圧の中で完璧にやってのけるとは」


 ピクシーは感嘆の溜息を吐き、映像の中のミシェルを眩しいものを見る目で見つめた。


「彼女は何者なんだい。神の加護もなく、ここまでの力を持つなんて」

「本人曰く、ただの加護なしなんですけど、そんなことありえないですね。ミシェル様は最高なのですぅ」


 ティルが誇らしげに胸を張った、その瞬間だった。

 ばんっ、と学長室の扉が勢いよく開かれた。


「ひぃっ、鬼」

「誰が鬼ですか。次の仕事に取り掛かります。ティル、ついてきなさい」


 冷ややかな声とともに現れたミシェルに、ティルが慌てて長い耳を畳んで直立不動の姿勢をとる。

 足早に立ち去ろうとするミシェルの背中に向けて、ピクシーは深く頭を下げた。


「ミシェル君。素晴らしい環境を整えてくれて感謝するよ」

「なんのことですか」


 ミシェルは心底不思議そうに振り返った。

 ピクシーはその反応を見て、全てを悟る。


 彼女にとって、必要なものを、必要なだけ揃えることは、賞賛されるべき偉業ではなくただの当たり前の仕事なのだ。

 どこまでも冷徹で、それゆえにどこまでも誠実な少女である。


「いや。君の期待に、全力で応えることにするよ」


 ピクシーが柔らかく微笑むと、ミシェルは小さく頷き、再び忙しなく歩みを進めるのだった。


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― 新着の感想 ―
なんでこの国まともな人間いないの?
テイルがどうしてもエルフではなく、ウサギの獣人に見えてしまうのは私だけではないはずと思う。
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