42.
帝国立学園の大講堂。
無能な教師たちは目の下に濃いクマを作りながらも、どこか自信ありげな笑みを浮かべていた。
彼らは生き残るため、この数日間、必死に魔法の基礎理論や歴史を頭に叩き込んできたのだ。
「これだけ完璧に勉強してきたのだ。小娘の試験など恐れるに足らん」
「ああ。我々が束になれば、必ずや合格点を叩き出せるはずだ」
教壇に立ったミシェルは、感情の読めない瞳で彼らを見下ろす。
彼女の合図とともに配られたのは、問題文が一切書かれていない白紙だった。
「題目は『理想の教育とは』。これについて論じてください」
高度な魔法の知識や実技を問われると身構えていた教師たちは、あからさまに拍子抜けした顔をした。
「なんだそれは。魔法のまの字もないではないか」
「ふっ。こんな精神論でいいのか。楽勝だな」
彼らは安堵の息を吐き、余裕の笑みを浮かべながら羽ペンを走らせていく。
カリカリと乾いた音が響き渡り、やがて試験終了の時間が告げられた。
「では、終了です」
ミシェルが淡々と告げると、教師たちは立ち上がり、そそくさと講堂を出ようとする。
「さて、帰るとしよう」
「待ちなさい。今から採点を行います」
呼び止めたミシェルの言葉に、教師の一人が鼻で笑った。
「馬鹿な。こんなに大量の答案があるのだぞ。今すぐ採点など無理に決まっているだろう」
「一行見れば、お前たちの駄目なところが一発でわかります」
ミシェルは回収された答案用紙の束を手に取り、冷めた目でタイトルだけを次々と読み上げていく。
「『伝統と格式による指導』、不合格。『貴族の誇りを育む精神論』、不合格。どれもこれも、具体性に欠けます」
中身のない、あやふやで馬鹿げた精神論ばかりだ。
次々と不合格を言い渡す中、ミシェルの手がふと止まる。
「『個人の魔力特性に依存しない、基礎論理構築と反復演習の最適化手法』。ピクシー殿の理論ですね。これならいいでしょう。合格です」
「ふざけるなっ。論文のタイトルだけで決めるなど横暴だ」
「そうだ。我々を評価するなら、ちゃんと魔法の知識と技術で選べ」
口々に不満を漏らし、自分たちの得意分野での評価を要求する教師たち。
ミシェルは静かに書類から顔を上げ、氷のような視線を放った。
「本当に、その基準でいいのですか」
ひやりとした声色に、講堂の空気が一瞬にして凍りつく。
「魔法の知識と技術で評価すれば、貴方たちは絶対にこの人に勝てませんよ」
ミシェルは傍らに立つ、紫髪の幼女へと視線を向けた。
マギア・クィフから連れ帰った大賢者ピクシーは、ミシェルの意図を完璧に見抜き、小さく肩を揺らして笑う。
「君は優しいね。魔法で競えば命に関わる絶望を味わうことになるから、わざと彼らに退路となるチャンスをやったのだね」
「まさか」
幼女の姿をした大賢者から、じわりと底知れぬ魔力の圧が漏れ出す。
それは長年学園に居座っていた程度の教師たちでは、到底到達し得ない神の領域の気配だった。
さらにミシェルの背後では、ギデオンがこれ見よがしに腕を組み、完全に彼氏面をして立っていた。
絶対的な権力と武力を持つ皇帝が、微塵の隙もなく彼女を守るように寄り添っている。
圧倒的な強者たちに挟まれ、教師たちは顔面蒼白になり、膝を震わせて後ずさりを始めた。
「さあ、どうしますか。魔法で彼女と勝負をしますか」
「ぐぬぬ」
ミシェルに冷たく見下ろされ、一切の退路を断たれた無能な教師たちは、ただ歯噛みをして項垂れるしかなかった。




