36.
魔法国家マギア・クィフの裏路地。
ティルの恩師である大賢者ピクシーが私塾を開いていたはずの場所に、ミシェルたちは到着した。
しかし、そこにあったのは無残に取り壊された建物の瓦礫と、焦げた木材のツンとした匂いだけだった。
「塾が……なくなっちゃってます……」
「これは、どういうことですか?」
「わからないですぅ……」
ティルが長い耳を力なく垂らし、ガックリと項垂れて涙目でパニックに陥る。
ミシェルは瓦礫の表面を指でなぞり、残滓としてへばりつく魔力の冷たさを確認した。
ギデオンがずんずんと重い足音を立てて歩き出し、運悪く通りかかった男の胸ぐらを軽々と掴み上げる。
「おい貴様。ここに私塾があったはずだが、どうなってしまったんだ?」
「ひぃっ」
男は首が締まって白目を剥き、両足を宙でジタバタと暴れさせた。
「あ、ああ……魔導王がピクシーを捕らえ、そして私塾は取り壊されたのだ」
「なに? どうしてだ」
「魔法は、神が人に与えた奇跡。選ばれた人間にしか教わり、広めてはいけない神聖なものなのだ」
「だというのに、ピクシーは半魔や獣混じりどもに魔導を教えた。それは死刑に値する大罪……よって潰されたのだ」
才能よりも血筋や種族を重んじる、魔法国家の腐敗した差別の実態。
そのひどく前時代的な理由を聞き、ミシェルは氷のような声で吐き捨てた。
「なんと愚かな」
優秀な人材を不当に弾圧する国のトップに対し、ギデオンは不敵に笑ってミシェルを振り返る。
「もちろん、行くよな」
「無論です」
「ど、どこへ行く気だ……?」
男が顔面蒼白になり、ガクガクと震えながら尋ねる。
ミシェルは表情一つ変えずに、淡々と答えた。
「このマギア・クィフの王、魔導王のもとへ」
「ええっ。や、やめとけ、魔導王は恐ろしい人だぞ」
必死に止める男に対し、ミシェルとギデオンは全く感情の動かない顔で首を傾げた。
「恐ろしい? 誰が?」
相手が他国の王であろうと、微塵も恐れる様子はない。
圧倒的強者の振る舞いを見せつける二人の背中を見て、ティルは目を輝かせた。
「た、頼りになるですぅっ」
涙を拭ったティルは、頼もしい上司たちの後ろを、見えない尻尾をパタパタと振るような勢いでついていくのだった。




