31.
厳格な筆記試験が終了し、午後は面接試験へと移行する。
そもそも例年であれば、一日目に筆記、二日目と三日目に面接を行う日程である。
残された学園の教師たちは、全員終わるのに三日はかかるとげっそりと項垂れていた。
「何事も効率です。夕方までにすべて終わらせますよ。ティル、資料を」
「はいっ。全受験生の経歴調査データ、準備完了してますぅ」
ティルが手元の分厚い資料を抱え込み、嬉しそうに長い耳をパタパタと動かした。
インクのツンとした香りと古い紙の乾いた匂いが漂う面接室の中央にミシェルが座る。
隣には見学のギデオン、脇にはティルが控えていた。
一人目の受験生が入室するなり、ミシェルは手元の資料に視線を落としたまま告げた。
「筆記は合格点。しかし提出された経歴書の魔物討伐ボランティア参加について、冒険者ギルドの記録に貴方の名前はありません」
「経歴詐称により不合格。次」
「えっ」
「次」
わずか十秒。志望動機など一切聞かない。
事前にティルと洗い出したデータとの矛盾だけを突いていく、超高速面接である。
次に入室してきたのは、筆記試験で隔離部屋に送られていた貴族の息子だった。
彼は傲慢に胸を張り、ミシェルを見下ろしてくる。
「ふ、ふん。筆記は体調が悪かっただけだ。だが僕の実家は伯爵家で、学園に多額の寄付を……」
「貴方の実家の領地は現在、深刻な税収不足に陥っています。学園に裏金を流す余裕などないはずですが」
「なっ」
「横領の疑いがあるので、既に監査局を向かわせました。不合格です。次」
「ちょっとっ」
実家の不正まで暴かれた息子が逆上し、顔を真っ赤にしてミシェルに掴みかかろうとする。
「ふざけるな小僧っ」
その瞬間、ギデオンが指先一つ動かさず、凄まじい魔力の威圧だけで息子を床に叩き伏せた。
「俺の女の面接の邪魔をするな。不合格と言われたのが聞こえなかったのか」
「ひぃぃっ」
息子はガックリと項垂れるどころか、白目を剥いて完全に気絶した。
そのまま衛兵に両脇を抱えられ、床を引きずり出されていく。
ミシェルは表情一つ変えずに次の受験生を呼び込み、予定通り夕方までに全受験生の処理を完了させた。
窓から差し込む夕日が、静まり返った面接室を赤く染めている。
「お、終わりましたぁ。ミシェル様、凄すぎますぅっ」
「フッ。当然だ、俺が見込んだ女だからな」
ティルが目を輝かせて尊敬の眼差しを向け、ギデオンが誇らしげに腕を組んでドヤ顔で頷く。
「陛下の威圧で気絶した生徒の書類処理が一つ増えましたが。……まあいいでしょう。本日の業務はこれで終了で……」
ふらりとミシェルの体が傾いた。
連日の激務による疲労が限界を超え、めまいを起こしたのである。
ギデオンは目を見開き、すかさず彼女の細い身体をふわりとお姫様抱っこで受け止めた。
「ケガはないか」
「…………」
「ミシェル、おいっ。ミシェル……」
「ぐぅ……」
「…………」
ミシェルはギデオンの腕の中で、安らかな寝息を立てていた。
腕の中に伝わる温かな体温と、規則正しい呼吸音。
ギデオンは張り詰めていた息を吐き出し、無事であったことに深く安堵する。
と同時に、自分がどれだけ格好良く彼女を抱き止めたかを、当のミシェルが全く覚えていないであろう事実に気づいた。
微かな不満を覚えたものの、過労で眠りこけるほど働き詰めていた愛しい女の寝顔を見れば、その不満よりも安堵と愛おしさが勝る。
ギデオンは苦笑し、そっと彼女の髪を撫でるのだった。




