表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

18.



 その日の謁見の間は、異様な熱気に包まれていた。

 中央に並ぶのは、先日「聖水」の件で経済的敗北を喫した聖王国の枢機卿と、ミシェルの監査によって没落した帝国古参貴族の残党たちだ。


 彼らは最後の悪あがきとして、手を組み、宗教的権威を笠に着てミシェルの排斥を訴えに出たのである。


「陛下! 神託が下りました! その女、ミシェルこそが帝国に災いをもたらす『黒き魔女』です!」


 枢機卿が声を張り上げ、天を指差す。


「星の巡りが示しております。この『加護なき女』が国政を牛耳る限り、帝国は火の海となり、民は飢えに苦しむでしょう! 直ちに処刑せねばなりません!」

「そうだ! 魔女を火あぶりに!」


 貴族たちも口々に罵声を浴びせる。

 神の言葉、星の予言。それらを盾に取れば、皇帝といえども無下にはできないと踏んでいるのだ。


「……ほう。災い、ね」


 だが、玉座に座るギデオンは、退屈そうに頬杖をつき、あくびを噛み殺していた。

 彼は視線だけを横に向け、傍らに控えるミシェルに問う。


「だ、そうだ。魔女殿。何か言い残すことは?」

「……反論の時間をいただけますか? 三分で終わります」


 ミシェルは眉一つ動かさず、一度退出し、すぐに分厚い資料を抱えて戻ってきた。

 彼女にとって、この場は断罪の場ではなく、非科学的なプレゼンテーションに対する「ファクトチェック」の場に過ぎない。


「枢機卿。貴方は私が『国を滅ぼす』と仰いましたね。……こちらをご覧ください」


 ミシェルは従者に命じ、巨大なボードを掲げさせた。

 そこには、右肩上がりのグラフが描かれている。


「これが、私が補佐官に就任してからの帝国の主要経済指標です。GDPは年率一五パーセントの成長、税収は三倍、失業率はほぼゼロを達成しました」

「な、何だと……?」

「物流は改善され、国民の平均所得も二割向上しています。……枢機卿、貴方の辞書にある『災い』や『滅び』とは、国家が富み、民が潤うことを指すのですか? それなら、辞書を書き直すことをお勧めします」


 ミシェルは淡々と数字を突きつけた。

 枢機卿が言葉に詰まる。


「ぐっ……そ、それは悪魔の力で一時的に……!」

「対して、貴国の現状はどうでしょう? 聖水事業の失敗により、インフレ率は二〇〇パーセントを超え、暴動寸前だと聞いていますが」


 ミシェルはさらに別のボードをめくった。

 そこには、聖王国の悲惨な経済状況を示す、真っ逆さまのグラフがあった。


「星の動きや神託よりも、目の前の『数字』と『現実』をご覧になってはいかがですか? 私が魔女なら、今のこの帝国の繁栄はすべて魔法(幻)ということになりますが……国民の満ち足りた笑顔も、幻だと仰るつもりですか?」


 ミシェルの言葉は、鋭利な刃物のように謁見の間に響いた。

 誰も反論できない。

 数字は嘘をつかないからだ。


「き、貴様ぁ! 黙れ! 神への冒涜だ!」


 追い詰められた枢機卿たちが、顔を真っ赤にして暴れようとしたその時。


 パチン。

 ギデオンが指を鳴らした。


「……茶番は終わりだ。ミシェルの実績こそが、俺にとっての唯一の『真実』だ」


 玉座から放たれる冷ややかな覇気に、その場の空気が凍りついた。


「虚偽の予言で国政を混乱させた罪により、全員、北の鉱山送りとする。……そこなら『災い』ではなく『労働』があるから安心しろ」

「ひぃぃっ! お助けをぉぉぉ!」


 衛兵たちが雪崩れ込み、枢機卿と貴族たちを引きずり出していく。

 その情けない悲鳴が遠ざかると、謁見の間には再び静寂が戻った。


「……他国の枢機卿を、帝国の一存で鉱山送りにはできないのでは?」

「無論わかっている。単なる脅しだ。これくらいやれば、もう馬鹿な言いがかりはしてこないだろう」

「左様でございますか。しかし……非科学的な会議でしたね。時間の無駄でした」


 ミシェルは冷めた声で呟いた。

 そんな彼女を、ギデオンは楽しげに見つめる。


「まったくだ。だが、お前が『魔女』というのはあながち間違いじゃないかもな」

「はい? 私は魔法など使えませんが」

「いや、立派な魔女だ。なにせ、俺はお前に夢中にさせられてるからな」

「……はぁ?」


 ミシェルは間の抜けた声を上げた。

 何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

 つまり、「皇帝は君に夢中だ」と、ある意味熱っぽい台詞を吐いたわけだが――しかしミシェルは、単にからかわれたのだと解釈した。


「馬鹿なことばかり仰っていないで、次の議題に移りましょう」


 ミシェルは主君の冗談(?)を華麗にスルーし、事務的に次の書類を広げた。

 ギデオンは肩をすくめ、しかし満足そうに頷く。


「やはり、お前は面白い」


 皇帝は上機嫌に、有能すぎる「魔女」との執務に戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔女ですね。(断言 というか、もう勤めて(?)数年レベルなのかな。 数値的にまとめられるほどの時間がたっているとは思っていなかったわ。
喧嘩の仕方を知らなかったか
護衛兵「おい、見てみろ、『皇帝陛下』が、…ミシェル様に、 『微笑んで』いらっしゃるぞ。」 隊長「我が帝国は安泰だな。」 ╰(*´︶`*)╯♡∩^ω^∩∩^ω^∩∩^ω^∩∩^ω^∩ バンザイ〜♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ