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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第81話 クラーラの最期

目の前には、縄を打たれ粗末なむしろの上で強制的にひざまずかされた前王太子ヘンドリックとクラーラがいる。しかし神妙さとは程遠かった。顔だけをお互いに向け合い、先程からいつ止むともなく罵りあっている。


「くそっ、貴様のような女さえいなければ、今頃は王だった。かわいがってやった恩を忘れて仇で返しやがって!」


「何よ、最終的にあなたは私を捨てたでしょ?しかも、偽物の美しさとか女性に対する言葉じゃないわよね!?あんたみたいな空気読めない人が王になんてなれるわけないでしょ!?」


「うるさい、男爵令嬢風情が!」


「何よ、クソ王子!いや、既に王子ですらなかったわね、ぷっ」


と、二人は先程から私たちを無視して聞くに堪えない罵詈雑言の応酬だ。

ここはライデン辺境伯軍の司令部だ。なので、隣に辺境伯閣下もいらっしゃるのだが、先程から閣下も呆れて見ている。


「ヘンドリックは、国王の元に連れて行かねばならないだろう。一方で、クラーラは我らの手で処断して構わないはずだ。一応は国王からその身柄を引き渡すという約束があったはずだからな。もっとも前回はその途中で逃げられてしまったようだが、その約束はいまだ有効なはずだ」


その辺境伯と私たちの会話を聞いて、二人がこちらを向いた。それを見てソフィエ様がクラーラに問いただした。


「なんで、あんなバカなことをしたのよ」


「そりゃああなたから見ればバカなことかもしれないけど、王太子の嫁になれば、いずれは王となる人の妻になるわけでしょう?私みたいな貧しい生まれからすれば、そんな道があるなら目指すのなんて当たり前じゃない。それにあなたは生まれも容姿も全て持ってますって感じでなんか気に食わなかったし、罪の意識は全くなかったし、今でもないわよ」


「はぁ、そっちじゃないわよ。婚約破棄の件は当時はそれなりに思うところもあったけど、今となっては私が引いてしまった隣にいるその貧乏くじをわざわざ奪ってくれてありがとうって感じだし。今はディルクとくっつくことができて幸せよ。むしろそっちは感謝したいくらいよ」


ソフィエ様は途中残念そうな顔でヘンドリックを一瞥すると、そう言って私と手を繋いできた。閣下の前なんだけどな。しかし閣下はいつものように怒ったり不機嫌になるようなことはなく、見逃してくれるようだ。あれ、珍しい。

直前にこの二人が醜いやりとりを見ていたからかもしれないな。それともこの場に限って、ソフィエ様が独り身じゃないことでヘンドリックへの当てつけにしたいのか。たぶん後者な気がするな。

そして、隣で「なんだと!私をなんだと思っている!」と目を剥いているヘンドリックを無視した上で、クラーラは私とヘンドリックを見比べると、ため息をつきながらこう言った。


「ディルク?あー、学園の時からお付きでいたあのイケメン騎士ね。……はぁ。こうなってみるとまったくもってそのとおりだわ。こんなのより私もそっちの騎士がよかったわね、私の見る目がなかったわけね」


そのやりとりに対して「こんなのとはなんだ!」とまた王太子が憤慨している。いい気味だ。

そしてソフィエ様はそういって、今度は私の腕をとるとぐっと胸元に引き寄せた。


「ディルクはあげないわよ」


「はいはい、ごちそうさま」


「まぁでもそうじゃなくてうちの領地に火を放ったことよ。無垢な民たちの家がかなり燃えたと聞いているわ。なんでそんなことしたのよ」


ああ、その話かとクラーラはため息をつくと諦めたように


「あなたたちが憎くてただの八つ当たりよ。……ところで私は死ぬのよね?」


と言った。それに対して今度は閣下が答える。


「当然だな。婚約破棄だけの件ならば、そうならない未来もあったかもしれないが、囚人であった身からの逃亡と我が領地と領民たちへの度重なる攻撃。死罪は免れない。特に後者に関しては私も許し難い。我が領民の嘆きと悲しみは大きかった」


「はぁ、まぁ仕方ないわよね」


「領民の苦しみを思えば、今すぐ斬り捨てたいどころか、家を焼かれた領民の前に差し出して領民の憂さ晴らしをさせたいくらいだ。そんなことをしても、意味がないからやらんがな」


「……辺境伯閣下のお慈悲に感謝いたします」


そこまで言われてその状況を想像したのか、クラーラは急にしおらしい態度をとった。


「別にお前に慈悲をくれたわけではない。そんなことをさせてもかえって領民の心がすさむだけで益がないからだ。首魁をちゃんと我らの手で討ち取ったと領民に報告するのが最善と思っただけで、お前に感謝されるいわれもない」


「はい、死ぬ覚悟はできております。ですが一つだけ聞かせて下さい。隣のこの男も処刑されますよね?」


「ああ、当然だな。陛下に弓を引いたこと、今回の売国行為。どちらも処刑が赦される可能性は1ミリもない」


隣の男は「私は王太子だぞ!?」などと言っているが、もうお前は王太子じゃない。というか、少しうるさいから黙らせたい。具体的には腹パンあたりで。やらないけど。


「それを聞いて安心しました。この男より先に死ぬのだけが唯一心残りですが、もはや思い残すことはありません」


といって自ら首を差し出すようにうなだれた。

その言葉にまたもやヘンドリックが憤っている。


「フン、お前のような女の血でこの天幕を汚せるか。あの日から今日まで自らの手でお前を斬り殺したいと何度も思ったことか。だが、むしろ手が汚れるわ。お前たちもそれでいいな?」


閣下のその言葉に対して、ソフィエ様も私もうなずいた。


「では、よし。連れていけ!」


クラーラは最後にヘンドリックに向かって「あなたが無様に処刑されるところが見たかったわ」と言い捨てると、兵士たちに立たされ天幕の外に連れ出されていった。そしてその日のうちに処刑された。

最後までふてぶてしい態度だったと聞いている。


その報告を聞いたヘンドリックは震えていたらしい。

ようやく現実が見えたか。

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