表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/82

第80話 一網打尽

私はヘンドリック・ファン・オラニエ。オラニエ王になる男だ。


身の程を知らぬクラーラに王の裁きを加えてやろうと、あと数歩というところで何かが聞こえた。む?この音は無視して良い音ではないと勘が伝えている。私はふと見回して耳を澄ませた。

これは……馬蹄の響き。マズいな、敵の援軍か。しかも近い、すぐにでも来そうだ。

騎兵といえばそれなりの精鋭のはずだ。やはりクラーラなんぞに時間を使うのではなかった。私ともあろう者が判断を誤ったか、ちっ疫病神め。


いや、騎馬ならどちらにしろ追い付かれていたか。私の判断にやはり間違いなどないな。

ふむ。それに私ほどのが、徒歩で進むのもおかしいし、さすがに歩くのも飽きた。ここは馬を奪って、颯爽とリーレに向かいフランティエ軍と合流するか。

これから王になる者が、徒歩の身で保護されるのは少し格好がつかないからな。


なに、私は馬術も自信がある。奪ってしまいさえすれば、誰も追い付けないだろう。

うむ、そうするとしようか。

ならばクラーラなんぞにもう構ってはいられないな。


あと数歩でクラーラというところだったが、さすがにこの開けた場所で敵の騎馬隊と戦うのは分が悪い。先程までいた辺りは木も数本ある。そこまで移動しておくべきか。


「フン、命拾いしたな」


最後にちらりとあの女を見れば、へたり込んだあたりに何か液体で染みが作られていっている。ふん、汚いやつめ。あんなのを斬ってしまっては、あやうく我が剣が汚れるところであったわ。今のところは無事のようだが、あれも王軍にクラーラ本人であるとバレれば命はないだろう。

それでも生き延びていたら、そのころには我が王として裁きを下してやればよかろう。はっはっは。では馬をいただくとするか。


木が生えている辺りまでくれば、いよいよ馬蹄の響きが大きくなり、左手から騎馬の一団が近付いてくるのが見えた。ぼーっと突っ立っているのも芸が無いな。

私は剣を鞘に納めると、辺りには敵兵の死体がいくつもある中で、腕を組みながら何ごともなかったように木にもたれかかった。この余裕こそが王者の気風だろう。

王になればあの騎馬兵たちも我が部下になるのだ。王者の余裕を見せてやらねばな。


そう思っていたら、先頭の騎馬に乗った二人には見覚えがある。我を知る者ならば王の威光も正しく通じよう。

片方はソフィエか。ほう、真紅の鎧をきた騎兵の姿も美しいな。口うるさい女だったが、美しさは我も認めていた。

やはりクラーラのような下賤の者はダメだ。そこは皆の言う通りであったな。

ひざまずいて頭を垂れるなら、もう一度ソフィエを妻にしてやってもいいかもな。

そう思った私は木にもたれ腕を組みながら、こちらに近づいてくるソフィエに声を掛けた。いかにも待っていたぞとばかりに。


「おう、ソフィエ。久しぶりだな。騎馬姿もなかなか様になっているじゃないか。頭を下げて願うなら、もう一度婚約者に戻してやってもいいぞ。その美しさは我が妻にふさわしい。」


ふふ、ソフィエめ。喜びのあまり声も出ないか。ああ、でも調子に乗られても困るから、釘をさしておくか。


「だが次は出しゃばるのは止めるのだな、それさえなければお前はいい女だと思うぞ。クラーラのような下賤な女はもうこりごりだ。ああ、あそこにいるけどな」


そうあちらに座り込むクラーラを指さすと青い鎧の騎士が部下に確保するように指示しているが、なんだこいつは。王の御前というのを理解しておらんのか?


「おい、となりのお前。青い鎧を着ているお前だよ。お前はソフィエの騎士であろう。いつまで王の前で馬に乗っているつもりだ、無礼だぞ!しかも、ソフィエの騎士も気が利かんな。さっさと馬を降りて王である私に寄越せ。見たところこの中ではお前の馬が一番いい。私が乗る栄誉をくれてやる」


と学園でも見たソフィエのお付きの騎士に向かって言い放った。ソフィエも堅くて融通が利かない女だったが、その騎士も騎士だな。気が利かなさすぎる。さっさと私に馬を寄越すべきだろう。


「あ?いつまで王太子のつもりでいるんだ。逆賊ヘンドリック。王より賜いしこの剣にてお前を討つ」


そういうと馬上のままオランダ王家の象徴とも言えるオレンジの鞘に納まった名剣を引き抜いた。は?ふざけるな。それはお前のような下賤の者が使って良いものではない!


「なんだと?そのオレンジ色、貴様のような下賤の者が使うには過ぎたるものだぞ。王たる我こそが相応しい。その剣も早く献上せよ。今なら無礼を見なかったことにしてやる」


しかし、青い鎧を着た騎士は無言で剣を振った。私は思わず一歩飛びのいた。髪が数本はらりと斬れて落ちた。なんだと?確かに避けたはずだが。

しかし目の前の騎士も首を傾げていた。確かに斬ったはずなのにということか?ふざけるな!


「無礼者め、私が誰か分かっていて、王たる私に剣を向けるとは。死にたいのか!?」


私は剣を引き抜いて斬りつける。しかしあっさりと弾かれた。む?手を抜き過ぎたか?ならばと、今度は本気で二回三回と剣を振うが、これもあっさりと弾かれる。

なんだ、こいつ強いぞ。学園の時も下賤の者のくせになかなかの腕だとは思っていたが、学園の時より遥かに強い。まさか、このままでは私が負ける?いや、そんなことがあるわけがない。何かの間違いだ。と思っていると私の内心を見透かしたかのようにソフィエが語り掛けてきた。


「殿下。まぁもう殿下ではないのですが、かつて婚約者であったよしみでお教えしますけど、このディルクは殿下ごときが敵う相手ではないのですよ。ライデンの青い死神という異名をもつフランティエ軍も恐怖するほどの天下一の剣士です。学園ではあなたが不機嫌になるため、私がお願いしてあなたにだけはわざと負けてもらっていたのです」


なんだと!?そんなことはありえない。私の方が上だ!

剣を強く握ると全力で振るった。しかしあっけなく弾かれ、逆に青い鎧の騎士がこちらに攻撃してくる。


――ガキン


右からの斬り付けに対して自分も剣を合わせて弾く。


――ガキン


返す刀で攻撃してきた左からの斬りつけを弾く。しかし、相手の剣筋が鋭くて重い。認めたくないが、このままでは……どうにかしないと。

しかしその想いもむなしく、そのまま数合斬り合うと、私の剣は天高く弾かれてしまった。宙を舞い飛んだ私の剣は、少し離れた地面に突き刺さった。ぐっ、なんということだ!

青い騎士の剣が私に迫る。

そしてそのまま青い鎧の騎士に剣の腹の部分で顔面を二度三度と殴打されると、私はそのまま意識を失うことになった。

失いつつある意識の中で、ソフィエの声が聞こえた。


「ディルクと十合以上も渡り合えるなんて、殿下ってすごかったんですね。初めて尊敬できる面を見つけられました」


なんだと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ