第76話 上には上がいる
王都を脱出した後の前王太子の行方は依然として知れない。王国軍も手を尽くして捜索しているが、上手く行方をくらまされているようだ。
最終目的地はリーレなのだから、そちらを中心に網を張っていれば問題はなさそうだが、フランティエの妨害もあるしそう一筋縄にはいかないようだ。先日より、数カ所で怪しい一団を捕らえており、「すわ前王太子の一行か」と確認してみるが、確かに前王太子の一味ではあるが、そこに前王太子が含まれていることはなかった。
王国軍本隊は、それらの陽動部隊の位置から前王太子本隊の動きを推測して追っているようだが、どうやら上手くいっていないようだ。とはいえ話を聞く限りでは、私がその立場だったとしても同じような方針だっただろう。悔しいがあのクソ王子一行の方が一枚上手のようで、上手くやられてしまっているらしい。腐っても学園を次席だっただけあるか。
とはいえそのままにはしておけない。ならばここは、学園でその上をいったお方に聞いてみるのがいいのではないか。
「ソフィエ様はどう思います?」
今日はライデン辺境伯幹部が集まり、王軍からの情報を元に王都リーレ間の地図を眺めながら、前王太子を捕縛するためそのルートを検討していたのだ。その中には先程から一言も発せず無言で、美しいお顔を険しくしながら地図とにらめっこしていたソフィエ様がいたので、そう尋ねてみた。
するとソフィエ様は美しいマリンブルーの髪をかき上げると、地図を指さしながらその推測を語ってくれた。
「そうね。まず王都から西に直進する最短ルートはとらないでしょうね。万が一とっていたとしてもそこはオラニエ軍本隊が上手く捕まえてくれるでしょう。少し南からまわるルートもあるわね。大都市ブリューゼルを経由するルートだから、ブリューゼルに上手く入って紛れることができれば、だいぶ距離を稼げると思うけど、ブリューゼルの出入りが大変よね。だからこちらのルートもとらないと思うわ」
その後も次々と前王太子の取りうるルートと前王太子がそのルートを使わないであろうその根拠を説明し潰していく。そして最後にそのほっそりとした白い指を地図に置くと海岸近くまで北に大きく回るルートをなぞっていった。
「ディルクの機転もあって、ブリティッシュ軍がこのククレカレーの街を中心に哨戒活動をしてくれているはずだから、これより西には行けないわ。もしかしたら、それを知らずにその手前まで行ってしまうかもしれないわね。だから北を大回りした一行は、このククレカレーの手前の数kmから十数kmほどで南下してリーレに向かうと思うわ。私が思うにこのルートが一番可能性が高そうね」
なるほど……確かにこれならばそこまで無理もないし、言われてみれば説得力がある。実際このルートであれば前王太子が現状捕捉されていないのにも説明がつく。恐らくこれが正解なのだろう。
「あの方とは学園時代に何度か戦術論を戦わせたり、駒を使って模擬戦をしたことがあるから、考え方の傾向的にもそう大きくハズレてはいないと思うわ」
「なるほど、それは心強いですね。ちなみに当時の勝敗はどうだったんですか?」
私は部下に出陣の準備を指示しながら、ソフィエ様にそう聞いた。
「初めてやった時、かなり僅差だったんだけど私が勝ったわ。でもその直後にすごい不機嫌になったから、その後はわからないように手を抜いて、負けてあげるようにしていたわね」
と苦笑されたソフィエ様。
悔しいがあのクソ王子の戦術眼は私より上のようだから、そこでソフィエ様と競ってもっと上達していたら、また違ったのだろうけどな。
「ソフィエ様、行きましょう。今度は手加減してやる必要もありません。私たちの手で全ての引導を渡してやるのです」
「ええ!?読みが合ってるとは限らないわよ?」
それに対して私はゆっくりと首を左右に振った。
恐らくこのソフィエ様の読みは当たっている。
クソ王子め、年貢の納め時が来たようだな。




