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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第72話 馬車の中のデート

私とソフィエ様はブリューゼルでの目的を果たしたので、二人は戦場に戻る馬車の中にいた。

フランティエの作戦は守勢に回っており、こちらが攻められる心配は少ない。だが、私が戦場を離れていると知られればどう出るか分からない。だから馬に乗らず、目立たぬよう馬車を使った。

なので逆に帰りは馬で素早く戻ってもいいのだが、行きが馬車だったので帰りもなんとなく馬車になった。ソフィエ様がそう望んだからではあるが、護衛的にもその方が助かるのだ。弓矢で狙撃されないとも限らないから。


ただソフィエ様がそう望んだのは、馬車の中で二人きりになれるからというのが大きいようだ。以前兵たちの前でいちゃつくのはやめましょうと注意したのをちゃんと守ってくれている。先日以来ずっと戦場にいるわけで、そうすると二人で仲良くできる時間も空間も限られてくる。今もソフィエ様は私によりかかって肩の上に頭を乗せており、私は命令によりずっとマリンブルーの髪を撫でさせられている状態だ。

節度を守ってくれているのは嬉しいし、私ももちろんソフィエ様と触れ合うのは嫌ではないのだが。


「このように命令して撫でられるのでもいいのですか?」


「いいの。もちろん自主的に撫でてくれるのはもっと嬉しいから、今後は自発的な行動を期待するわ」


「善処します」


大都市ブリューゼルからの道は舗装されており、ガラガラと軽快な音を立てて馬車が走る中、私はひたすらソフィエ様のマリンブルーの頭を撫でており、ソフィエ様は目をつぶってうっとりとそれを受けている。


――ガタッ


「キャッ」


小石でも車輪が踏んだのだろうか、少しガタッと揺れたので、思わず私はソフィエ様の肩を抱き寄せた。

ソフィエ様もされるがままに抱き寄せられると、むしろそのまま積極的に私の胸に顔をうずめた。これから戦場に向かうので二人とも鎧を着用しているため、あんまり感触はよくないと思うんだけどな。そう思っているとソフィエ様は抱きついたまま私を見上げてきた。

視線が合い、しばらく無言で見つめ合う二人。

ソフィエ様がそっと目を閉じたので、私はソフィエ様のあごに手をやると少し上を向けさせ、唇を重ねた。

しばらくそのままにお互いが求めるように唇を合わせていたが、しばらくして唇を離すとソフィエ様は目を開けて少し名残惜しそうに私を見てきた。なのでソフィエ様の頭を撫でてやると、目を細めてまた私に抱きついてきたので、しばらくそのまま撫で続けた。



もう少しで軍の陣地というところで抱きついたままのソフィエ様が話し掛けてきた。


「そういえば聞いた?うちの領地の主だった都市で、いくつかの同時に不審な火災が発生して、ナムールは一部の火災で済んだみたいだけど、領都では結構焼けてしまったそうよ。無辜の民を狙うなんて許せないわ。でも私のディルクにこの戦場から離れて国元に帰って欲しいフランティエの工作かしら?」


「どうでしょう。それにしてはタイミングが早過ぎな気がしますね。とはいえフランティエ以外は考えにくいですが」


「そうなのよね。今頃会談中でしょうけど、ブリティッシュは兵を出してくれるかしら」


「どうでしょうね。ブリティッシュ側の援軍派兵に関する条件提示とそれを王が受けるかどうかというところですが、先日の会談を踏まえるとブリティッシュ側もそこまで高圧的な条件にはならなさそうですし、王としても多少は譲歩するのでは上手くいくのではないかと思います。というか上手くいってくれないと困りますね」


「ふふ、フランティエなんてこれまでどおり俺が全部やっつけてやるとは言わないのね」


「正直今の現状ができすぎですね。一人で全体を圧倒するなど、普通は無理なことで一時的なものに過ぎないでしょう。むしろ大国フランティエに仕切り直されたら、今後は厳しくなるのは目に見えております」


「だけど、ブリティッシュが参戦してくれたら、だいぶ有利に戦えるわよね?ふふ、この戦争勝ちましょうね。勝ったら……私たちの結婚式かしら?オラニエ王にもブリティッシュの王子にも承認されたのだし」


「それは少し気が早い気もしますが、ただ戦勝記念とともに結婚式を挙げるのは婚姻を要求してきたフランティエに対するよい戦勝アピールにもなりますので、オラニエ王あたりがやりたがらないとも言えませんね。ただその場合は、主催がオラニエ王になりそうで大変派手になりそう……いや、やめましょう。勝たないうちにこういうのを考えるのはよくない」


「それもそうね」



まさしく実はこの時、先日会談したブリティッシュの第二王子とオラニエ王との間で援軍派兵に関する会談が設けられていたのだが、危うく破談になりかけていた。ノース海交易の利権を守りたい貴族たちが大反対をしていたからだ。「現状勝っているのに、譲歩する必要など無い」と。

負け始めてからでは高くつくし、そこで援軍をもらってもそのまま負けてしまった場合、自身の命を含めた全てを失う可能性があるのだが、欲の皮の突っ張った人間にはそこが理解できないのだ。


しかし、ここでまた一つ動きが出た。

フランティエが前王太子と接触を図っていることが王宮にタレコミがあったのだ。オラニエの王宮サイドは前王太子の足取りを完全に見失っており、それが虚偽だと判断することができなかった。また両者が結びつくことの意味することが分からない愚か者もさすがにおらず、先日の議会への襲撃で身を危うくした者も多くいたせいもあり、それまでブリティッシュとの同盟に反対していた者の多くも賛同する側にまわることとなり、最終的に同盟は締結されることになる。


しかし、同盟が締結されたとしても前王太子とフランティエの両者が手を組むことは非常に不味いことになる。オラニエの王宮側としても今以上に王太子の行方を追うことになった。

前王太子がフランティエ陣営――恐らく陥落したリーレに駆け込むならば、最終的にはディルクたちがいる主力軍の近くを通るはずなので、それを阻み捕獲するように指示が飛んだ。


膠着状態だった北部の戦場は、どこからか来るであろう前王太子を迎え入れようとするフランティエ軍とそれを阻止しようとするオラニエ王国側で、各地で衝突が起きるようになった。もちろんソフィエ隊もその哨戒の網に参加することになった。


フランティエが前王太子と接触を図っていると聞いた時は驚いたし、その狙いをなるほどと思った。

二人の関係は婚約破棄という形で終わりを迎え、もう二度と交わらないと思っていたソフィエ様と前王太子。しかし、陣営を変えてまた運命の糸が交わることになるときが来るとは。だが、恨み骨髄の相手だ。直接手を下せる機会があるのなら、私としても望むところだった。

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