第71話 ブリティッシュの決断
ブリティッシュ参戦でフランティエに勝てるかということだが、彼らの情報力を甘く見てはいけないだろう。正直に答えるべきだな。
「戦場ではこちらが若干優位に推移しているが、ブリティッシュが参戦してくれたとしても、このまま正面からぶつかったとして、勝ちきるところまではどうだろうか。
上はどう考えているか知らないが、自分の考えではこの戦争でリーレの奪還までは難しいと思っている。まずは侵攻軍を押し返して侵攻自体を頓挫させて講和を結び、まずは王国の安全を確保するのが現実的な目標になるのではないかと。その上でブランデリック帝国も交えて、難しいだろうがリーレの返還が叶えばいい。そういったあたりではないだろうか」
「でも先程テディから聞いたブリティッシュの事情を聞けば、最終目標がリーレの奪還じゃないとブリティッシュ軍は呼べないわね」
ソフィエ様のいう通りである。歯痒いが、無い袖は振れないというやつだ。
「なるほどな。正直に答えてくれてありがとう。だがそうなると確かに我らがブリティッシュの参戦は難しいだろうな」
するとここまで黙っていたホワイト王子が会話に加わってきた。
「まぁ表面上はそうなのだが、我が国の参戦が絶対にないとも言い切れない。戦前の予想ではオラニエの苦戦は免れなかった。ブリティッシュにとって最悪のシナリオは、オラニエをフランティエが併合することだ。
オラニエは海上交易が盛んなため、交易船はもちろん軍船も多い。フランティエがオラニエを併合しその海軍を接収したとすると、そこにフランティエの海軍を併せてもまだブリティッシュ海軍の方が優位だと言えるが、海に囲まれて今までは完璧だった母国の安全が脅かされることは間違いないし、フランティエが経済的に飛躍することも見過ごせないところだ。とはいえ、それはブランデリック帝国も同様に思っているはずなので、みすみすそのシナリオになる可能性は薄いと思っていたがね」
そこでゴブレットのワインを飲むとホワイト王子の後を継いで、テディが話を進めた。
「なるほど。そうするとフランティエがオラニエを全土併合するような展開になるのならば、ブリティッシュは全てを投げうってでもそれを阻止しなければならないが、半分失うくらいで済むなら、ブリティッシュとしては手を出したくない。投資額に見合わないだろうから。
だけどさらに踏み込めば、今はオラニエが優位に進めているのならば、そこそこのリスクでそこそこのリターンが見込めるとも言える……と?」
「そうだ。こういうと失礼かもしれないが、戦前予想ではオラニエ側が不利だったんだ。今は上手くいっているが、今後はどう転ぶかは分からない。上手くいっている今のうちに戦局を決定づけておかないと、完全にひっくり返されてオラニエどころかブリティッシュが後悔することにもなりかねない。だから今支援するのはやぶさかではない。
とはいえ、諸手を上げて助けてもらえるとは思わないで欲しい。ノース海交易の利権などを求められるのは覚悟してくれ」
「そのあたりは私たちは内陸の人間なのであまり詳しくはありませんが。
しかし、戦争の方は私としても現状で上手く行き過ぎている感はあります。ただ上層部がその意見に同意してくれるかはわかりませんね。また違う方面である交易の利権が絡むとなるとそっちの人間は間違いなく反対するでしょうし」
「勝っているうちは気も大きくなるからな。現状では、ブリティッシュの参戦に大枚叩きたくないという気になってもおかしくないな。そこで欲張って負ける展開になるとかえって高くつくのだけどな」
「違いありませんな」
といってみなが笑う。欲の皮が張ると大抵上手くいかないのだ。
「それはそうと、フランティエも動きが少ないな。南でブランデリック帝国とやりあっているのだろうが、そちらも簡単にけりがつくとも思えんし、こちらに主力がいるのだから、あちらは劣勢だろうに」
「確かに。リーレの実効支配だけでよいということでしょうか」
「それならそれでオラニエはいいだろうな。ブリティッシュとしてはあまりよくないが、それでもブリティッシュが戦争に巻き込まれるわけでもないし、最悪の展開ではないとも言える」
――コンコン
そんな時にドアがノックされた。それはホワイト王子への伝令とのことだった。書状を受け取った王子はそれを見終わるとテディに渡した。
「よくない知らせだな。南部でブランデリック帝国とフランティエがぶつかり、その緒戦は少数のフランティエがブランデリックを打ち破ったそうだ。領地を取り戻せると焦ったローレンヌ伯が焦って深入りしたかららしい」
「それは確かによくない知らせですね。まぁ元々の兵数はブランデリック帝国の方が多いので、一回負けたくらいで撤退ということはないでしょうが」
「まぁな。しかし北部がその影響を受けないわけじゃない。よし、わかった。お前たちの意見は大いに参考にさせてもらおう。ブリティッシュもここは欲張るべきではなさそうだ。テディ、これから王都に向かいオラニエの王と会うぞ。程々の条件にするつもりだが、吞んでくれるかな?」
とホワイト王子はニヤリとこちらに笑いかけてきた。
「その辺の判断は王も分かっているとは思いますが、よろしくお願いいたします」
「いやいや、今日は有意義な会合だった。噂のライデンの青い死神にもその美しい伴侶である赤い死神にも会えたしな」
ホワイト王子が手を差し出すと、ソフィエ様は優雅に右手を差し出し、白いシルクの手袋をはめたまま王子と握手を交わした。続いて私も握手をする。
「戦場での働きは二人にかかっているといっても過言ではない。このまま上手くやってくれ。とはいえディルクの強さはよくわかっているつもりだが、深追いし過ぎるなよ。ソフィエ嬢頼んだぞ。ディルクの手綱を握るのは貴女だろうから」
とテディが言って手を差し出したので、続いてテディとも握手をする。
「次に会うのは二人の結婚式かな?是非、呼んでくれよ?」
とホワイト王子が茶化すとソフィエ様は真っ赤になりながらも、二人の婚姻に関してブリティッシュの第二王子の後押しももらえたことに気付くと、嬉しそうに「是非お願いします」と返していた。
「でもその前に戦勝記念パーティーでお会いしたいですね」
「それはそうだな」
と最後に全員で笑ってお開きとなった。




