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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第7話 王太子ヘンドリック

俺の名前はヘンドリック。誇り高きオラニエ王家の王太子だ。

12歳になると、俺は王立学園に通うことになった。王家や貴族の子女が集まる王立の学園だ。


最近、気になる娘がいる。

15歳になって高等部から編入してきたクラーラ・ド・ナーゲレ男爵令嬢だ。どうやら周りの者がいうには俺とは身分が釣り合っていないらしいが、いずれ至尊の地位に就く俺からすれば、誰も彼も俺より下々の身分にすぎない。天の上から見下ろせば、2階建てだろうが5階建てだろうが、区別などつかないものだ。


とはいえ、俺には王太子として婚約者もいる。ソフィエ・ファン・ライデン辺境伯令嬢だ。

俺とも釣り合う身分で、確かに王太子妃として相応しい美人だし、優秀な人物だ。しかし常に俺をも上回る優秀な成績を出すのが許し難い。女が出しゃばるべきではないし、夫である王太子を立てるべきだ。

いや、訂正しよう。常にじゃない。あくまでもほんの《《たまに》》だぞ、俺より成績がいいのは。まぁ妃の評価は夫の評価でもあることを考えれば、愚かな人間が妃よりかは良いことは確かだな。

それにあの美しいサファイアブルーの髪といい、あの美貌は悪くはない。だが今一つ面白みに欠けるのよな。しかも堅いのだ。まだ未婚だから婚前交渉はいけないだのと、王太子たる自分に手向かうとは。王太子妃だからある意味同格で、力づくで行動できないのが余計に腹立たしい。


逆にクラーラ嬢のような他では見られぬタイプは、俺にはひどく新鮮に映る。半ば無礼ともとれるような気やすい対応に、俺を誘うようなスキンシップ。ソフィエと違って肉感的なのも魅力的だ。そして俺への好意を隠そうともしない。

そして極めつけはクラーラ嬢の美しさだな。ただの美人は王宮にいくらでもいるが、クラーラ嬢のような美人はいない。

長いまつげを揺らし、くっきりと際立つ瞳で俺を誘惑するように見つめる。大理石のように真っ白な肌が輝き、ぷっくりと艶めく真っ赤な唇が俺の心を激しく揺さぶる。

昨年くらいまではここまでの美人ではなかった、急に美しくなったなどという噂もあるがそんなのはどうでもいい。男爵令嬢という誰もが手が届いたのに、逃した大魚を嘆く愚か者の言葉だ。

クラーラ嬢は他に類を見ない唯一無二の美人だ。まさに王太子たる俺にふさわしい。


まぁ王太子妃は王太子妃として、クラーラ嬢はクラーラ嬢として別物と考えればいいだろう。

クラーラ嬢は遊びでもいいし、気に入ったら側妃にしてやってもいい。

それなら周りのうるさい人間も反対しないだろうからな。



1年後。

クラーラ嬢とはより親しくなった。そして彼女の魅力をより再確認した。あれは魔性の女だな。しかも天然のだ。俺が初めての相手だったのは、シーツに零れていた紅で確かに確認した。

ううむ……王太子として当然性教育を受けており、年上の女の手ほどきを何人も受けたが、あれほどの女はいなかった。

しかも、俺に抱かれるとき、あいつは本当にうれしそうに抱かれておる。

もうクラーラ嬢を手放すことなど考えられんな。



更に1年後。

最近クラーラに対して、ソフィエ本人もしくはソフィエの手の者と思われる、いやがらせが多発しているらしい。クラーラ本人がそう言っていた。あのソフィエも表ではあんな無表情のように見えて、裏では俺様を独占しつつあるクラーラに嫉妬していたのか。かわいらしい一面もあるじゃないか。ふふふ、ソフィエもやっと俺の偉大さに気付いたのか。王太子の寵愛を失うのはさすがに惜しいと見える。

だがな、気持ちはわかるが、最近は少しばかり目に余るようだな。

クラーラの所持品を汚す、落書きする、捨てる。クラーラが使う学園の備品に細工を仕掛ける。偶然を装って足を引っかける、突き飛ばす。

どうやら、犯人は必ずしもソフィエだけではないようだが。まぁある程度のクラーラへの嫉妬は仕方ない部分があるのも理解できる。クラーラがこの俺様の寵愛を一身に受けるともなればな。だがそれがいきすぎると、寛大な俺様とはいえ見逃せなくなるぞ。



そんなある日、クラーラが毒を盛られた。

厨房を調べたところ、毒の痕跡の付いた封筒が発見された。その封筒に中身はなかったが蜜蝋に押された刻印があった。それは潰れて歪んでいたが、ライデン辺境伯家の紋章に酷似しているように見えた。

ソフィエめ、こいつは動かぬ証拠だ!やって良いことと悪いことがあるぞ!

幸い毒の摂取量は少量でクラーラの生命に問題はなかったが、今は医務室で休んでいる。そこでクラーラは毒の影響なのか震える声で健気にもこう言っていた。


「どうか、ソフィエ様を罰することの無いように。私は本当に大丈夫ですから。」


「何を言っているんだ。」


「もしも、もしも、私が王太子の寵愛を分けていただけて、側妃になれたとしたら、あの方は正妃です。末永く王太子を二人で支えていくことになります。だから仲良くしたいのです。」


「くっ、なんて優しいんだ、クラーラは。それに引き換えアイツは!」


そしてその翌週、卒業式を数日後に控えたある日、クラーラが再度毒を盛られた。今度の摂取量は微量ではなく、クラーラは昏睡状態に陥ったと聞き、私は慌てて医務室を訪れた。するとクラーラは高熱にうなされているのか虚ろな目をしながら、震える手で私の袖を掴んだ。


「お、王太子、申し訳なくも私はここまでのようです。王太子もお気を付けください。王太子と天の上で再会できる日が、少しでも先の未来でありますように。」


というとクラーラは気を失ったのか、手が力なくだらんと垂れ下がった。医務員が慌てた様子で「緊急事態だ!緊急事態だ!」と叫び、「急を要する」と俺はその勢いのまま医務室から追い出された。


「くっ、ソフィエめ!なぜ、ここまでのことをできるんだ。」


俺は廊下の長椅子に腰を下ろすと、にわかに激しい怒りを感じた。そして同時に恐ろしくなってしまった。クラーラに私の無事を祈られたが、何かの折にソフィエが俺を弑逆しようと考えたりはしないだろうか。正妃が奴なのは危険ではないのか?

そんなことを考えているうちに、医務員よりクラーラが意識を取り戻したとのことで、入室を許可された。


見ると多少顔色は悪いが、意識ははっきりしているようだ。俺はクラーラに近寄るとその手をとって無事を喜んだ。

聞くとクラーラは熱でうなされていたのか、先程のやり取りは全く覚えていないらしい。しかし俺は、先程生まれたソフィエへの疑心が消えることはなかった。

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― 新着の感想 ―
王道馬鹿王子のデェフォルトみたいで逆に笑える
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