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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第69話 やり返されたクラーラ

少し薄暗いが高級な家具が揃う部屋で、クラーラは最近王都で美味しいと評判のお菓子を食べながら、クラーラ付きの侍女たちと噂話に花を咲かせた。その内容はもちろん現在王都で話題もちきりである、先日から本格的に始まったオラニエ王国とフランティエ王国の戦いの話だ。

大方の予想では苦戦必至とされていた中、ライデンの青い死神の活躍でオラニエ王国が有利に戦争を進めているというニュースは王都でも鳴り響いており、王都での青い死神ことディルクの人気は凄まじいものであった。

そして一介の騎士でしかない青い死神ディルクが、ライデン辺境伯令嬢のソフィエを射止めたという噂のラブロマンスは、フランティエの横槍からソフィエを守るために奮闘しているという話も含めて、王都での女性たちを中心に大いに盛り上がっていた。

クラーラとしては、フランティエが勝って万が一にも王都が戦場になるのは困る。

だがディルク……というよりはソフィエのイケメン騎士であり、噂によれば婚約者になったディルクが活躍するのは、悔しくて堪らないといったところだ。

人足派遣会社の社長であり、忠実な腹心でもあるピータを呼ぶと私はこう指示した。


「ピータ。全てに順調なライデンなんて許せないわ、むしゃくしゃするから少し早いかもしれないけど、ライデン辺境伯領の都市で破壊活動を行いなさい。でもくれぐれも慎重にね」


慎重な破壊活動なんてあるのかしらね。けれど苛立ちが収まらないのだから仕方ないわ。ダメならダメでも領地を離れている彼らへの嫌がらせにはなるでしょう。


「はっ、かしこまりました」


ピータは文句ひとつ言わず、部下を数人呼ぶと私の指示を伝えていく。

労せずして全てを手に入れていたと学園当時から感じていたソフィエのことは大嫌いで、自分のためにも王太子を奪ってやった。だけど結果的にあんなクズ王子を回避して、イケメンで王国一の騎士と婚約者になるなんて、今となってはソフィエのためにババを引いてやってしまった気分だ。いまいましい。

王太子じゃなくなったヘンドリックとソフィエがよりを戻して、私があのイケメン騎士ディルクとくっつけないかしらなどと夢想してみるが、どう考えても無理なのは分かっている。


そんなとき、表の方から不穏な声や音が聞こえた。


「表が騒がしいね。何かあった?」


「確認してまいります」


店の奥のさらに奥に位置するここまで、騒ぎが聞こえるのはよっぽどのことだ。ピータは店の方に向かってしばらくすると少し慌てた顔で戻ってきた。


「クラーラ様、お逃げください」


「うん?何があったの?」


「王都の警備隊が店に現れました。ちらっと聞こえたところによると、彼らのところに『クラーラ様がここに隠れている』と通報があったようです。今は表でちょうど王太子用に詰めていた若い衆にモメさせて時間を稼いでいますが、簡単には引き下がらなそうで、奥まで見せないと納得しなそうです」


「なんで?私はこの建物から一歩も出ていないのに、なぜバレたのかしら?」


「分かりません。ですが、今は時間がありませんので、急いで裏口からお逃げください。場所はこの者が分かっていますので、ついていってください。私は表で彼らの相手をします。この会社の長である私が出ていけば多少は時間も稼げるでしょう」


とピータは普段身の回りの世話をしてくれている下女を指し示した。それにぺこりと頭を下げる下女。


「わかったわ、ピータ。上手くやりなさい」


「はい。クラーラ様、どうかご無事で。私もすぐに参ります」


下女の手引きを受けて、からくも本社の裏口から脱出するクラーラ。石壁の隙間をくぐり抜け、暗くて汚い狭い路地裏を通りながら逃げた緊急避難先は、本社から数分離れた位置にある会社が所有する社員用の寮の一つだった。そこに案内されて、クラーラは下女に飲み物を要求し、差し出された水を一杯飲むとようやく人心地つけた。


「裏切り者でもいるのかしら」


クラーラは爪先でコツコツとテーブルを軽く叩いた。


「……まぁ所詮はスラム街の出身者たち。お金で靡く人間がいても不思議はないか」


数時間後、ピータがこの避難先を訪れてきた。


「とりあえず、本社内を一通り立ち入らせて、満足いくまで見させた後に、いくらかの小銭を握らせたら帰りました」


「ピータ、ごくろうだったわね」


「その時に聞いたんですが、どうやら内通者ではなく店を訪れていた人物が、たまたま店の奥から出てきて番頭と話すクラーラ様を見かけたようで、それで通報したみたいですね。もちろん他人の空似だろうと主張しましたが、どうでしょうね」


「なるほど、そういえばそんなことも先日あったわ。それなら少なくとも裏切り者が身内にいたわけじゃなかったのね。それが分かっただけでもよかったわ。でも私が指名手配中で、私の顔を知っている人間なんてそういないと思うのだけど、どこの人間かしらね」


「さすがにそこは教えてもらえませんでした」


「それは当然よね。私が番頭と話したのは……直近だと二日前かしらね。怪しい人間がいなかったか、聞き取りして貰える?」


「はっ、必ずやクラーラ様の敵を探し出します」


「そういえば前王太子はどうなったの?」


「最近は、あまり精度の良い情報が入っておりません。次の移転先と言われた場所にも動きがないようでして……申し訳なく」


「はぁん、なるほど、そういうことね。ピータ、私たちは嵌められたのよ」


「はい?」


「今回のこれらの件、偶然にしてはタイミングが良過ぎだわ。恐らく事前に伝えてきた前王太子の次の移転先はダミーで、それに過剰に反応してしまった私たちが、あいつらの敵であることがバレたのでしょう。それでうちの本社を張り込んでいて、そこにたまたま私が姿を現してしまってバレたんでしょうね」


「なるほど……では、これからどういたしましょうか」


「そうね。私たちがやったように、ここも遠からずバレる可能性もあると思って行動しなさい。それとこんなことをしてくるからには、もちろん私への嫌がらせもあるでしょうけど、それにしては少々手が込んでいる気がするわ。もしかしたら近々前王太子側に何か大きな動きがあるのかもしれないわ。アレへの監視の手を緩めないようにしなさい」


「かしこまりました」


ピータはそう答えると指示をしに出て行った。

この部屋は先程まで侍女たちと楽しくお茶をしていた部屋と違い、本当に緊急避難先といった感じで、家具もロクになく殺風景だ。あるのはみすぼらしい小さなテーブルとその上に水差しだけ。どちらかというと先日拘束された際に収容された独房に近いと感じた。

そんな自らの凋落ぶりを少し笑うと、クラーラは反撃を誓った。


「ライデンだって、前王太子だって、このままでは済まさないわ!」

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