第68話 フランティエと王太子
ところ変わってこちらは前王太子であるヘンドリック陣営。
王都の守備隊に隠れ家がバレて逃走。なんとか新たな拠点に移動して、まだ数日しか経っていないのに、また王都の守備隊に居場所がバレて次の拠点に逃げるように移動するという日々を強いられていた。
もちろんクラーラが暗躍した結果である。
「くそっ、何なんだ。つい先日逃げだしたと思ったら、また逃げないといけないだと!?なぜに私ほどの存在が、こんな無様な姿を何度も晒さねばならないんだ。ふざけるな!」
マールテンのとなりで王太子が他の側近に怒鳴り散らしている。マールテンだって怒鳴って当たりたいくらいだと感じていた。安全な拠点など、簡単に用意できるものではないのに。王太子はそういうことに無頓着で、手配は全て自分一人がやっているにもかかわらずだ。それでもなんとかなっているあたりマールテンも優秀なのだろうが、ギリギリでもある。
そんな中で先程王太子に当たり散らされたため、マールテンは思わずイラっとして睨み返してしまった。それに気付いて慌てて不敬を詫びたが、王太子もマールテンの苦労を察してくれたのだろうか。それ以降、私に当たり散らすのは止めてくれた。
そんな割と精神的に限界な中、大事な話があると言われフランティエの使者と残り少ない隠れ家の一つで会談した。
フランティエからもバレるくらいにザルな隠れ家……というわけではない。フランティエと繋がりのある貴族から連絡があったのだ。どうせなら、こんなみすぼらしい隠れ家ではなく、その貴族の家でフランティエの使者と会談したかったのだが、さすがにその貴族に断られた。
お尋ね者の前王太子と絶賛戦争中のフランティエとの会談の会場を提供したと判明したら、貴族家の断絶どころでは済まず、一族郎党処刑台行きだろうから。
フランティエの使者が王太子に伝えたことは、驚くべきことに王太子にフランティエ軍のオラニエ侵攻の旗頭――つまりは総大将になって欲しいというものだった。そして勝利のあかつきにはそのままオラニエ王になるようにとのことだった。
さすがにそれをそのまま額面通りには受け取れないが、それでも現状よりはだいぶ良いだろう。たとえ傀儡だろうと王になれるのだ、今のままではその可能性すらゼロに等しい。
一瞬、王太子がフランティエの傀儡になるのをよしとしない反応を示したが、マールテンは「王太子こそがフランティエを使ってやるのだ」と説得すると、割と素直に説得された。王太子も今のままでは厳しいことがわかっているのだろう。
しかしそうなると問題になる点が一つある。
マールテンとしてもここ何度か連続している隠れ家の通報から恐らく内通者がいるのだろうということは分かっている。しかし、腰を落ち着けて内通者を炙り出す暇もないままに、逃亡先を転々と変えざるをえなかった。
内通者に関しては特に目星もつけておらず、褒賞金目当てくらいに思っていて、よもや面白半分に嫌がらせでクラーラが仕掛けているなどとは思っていなかった。
しかしフランティエの元に走るとすれば、マールテンもこのまま内通者を放置はできず、内通者を炙り出すべく罠を張ることにした。フランティエとの合流を邪魔されてはかなわないし、内通者を抱えたままフランティエ軍に身を投じるのもできないことだ。
そこでマールテンは怪しいとマークしていた数人に対して、フランティエのことは隠しつつ、王都からの脱出をほのめかしながら、それぞれ違う次のダミーの逃亡先を示し、その反応を見たのだ。
そのうちの一人が怪しい動きを見せた。逃亡先に食糧などを運んでくれていた協力者だった。彼自体は王都の守備兵に接触するなどはなかったのだが、人足派遣会社に入っていった。監視人もその行為自体は、その会社に食糧の搬送を頼むのかなくらいに思っていたのだが、その後から明らかにダミーの逃亡先に食糧を運び込む以外の動きがみられたのだ。
それはダミーの逃亡先を監視するような人員の配置と、いかにもごろつきといった人相の人間が派遣会社に集まる動きを見せた。
一方で他のマークしていた数人は、王都外への脱出という今までの支援の踏み倒しの可能性を考えたのか、多少の動揺は見られたがそこまで怪しい動きは見せなかった。
手駒に余裕のないマールテンは調査をこの食糧支援の協力者に絞って、人足派遣会社を張り込みし、周辺を調べた。するとそこにクラーラが匿われていることが判明した。
「何!?クラーラだとっ!あんなにかわいがってやったのに!」
「くそっ、あの女狐か!あの女のせいでこんな苦労させられるとはっ」
ヘンドリックもマールテンも意外な名前が出てきて驚くとともに、自らより遥か格下と考える相手に手を噛まれたとあって怒り心頭である。もっとも初めに罪を着せて切り捨てたのは王太子陣営側なのだが。
マールテンの調査では、クラーラが人足派遣会社の実質的なオーナーであることまでは分からなかった。しかしそこにクラーラが存在し、怪しい動きを見せている以上、これまでの密告や通報はクラーラの仕業だというのは容易に想像できた。
そしてどんな繋がりがあって人足派遣会社がクラーラを支援しているのかわからないが、王太子に敵対する陣営であることは明白であり、その動機も判明した。
マールテンの眼鏡がキラリと光る。
「そうだ、確かあいつもお尋ね者だ。殿下、ここでフランティエとの合流をあの女狐に邪魔されてはかないません。先んじて王都の守備隊に連絡してやりましょう。クラーラが人足の派遣会社に匿われていると。いい意趣返しだと思いませんか?」
クラーラの逃亡と王太子の謀反で有耶無耶になっているように見えるが、クラーラはライデン辺境伯と王家の離間を企てた罪で拘束された身だ。
今もなお、前記の罪状に加え逃亡犯として指名手配されている。
「あはははは、それは傑作だな」
「そうです。正に人を呪わば穴二つといったやつですね」
ヘンドリックも「確かに!」と膝を叩いて大笑いしている。
マールテンはさっそく部下にそう指示をした。明るい話題……というわけではないが、久しぶりに王太子の笑顔を見た気がする。
ここに、王太子陣営とクラーラ陣営の壮大な足の引っ張り合いが始まる……!




