第67話 逆転の一手
翌日もオラニエ王国とフランティエ王国の戦いは続く。
仕切り直しになったことで、フランティエ側が盛り返すかと思われたが、ディルクが騎馬隊の先頭に立って戦うとオラニエ側の士気は大いに上がり、フランティエ側は明らかに浮足立った。
そんな私たちの騎馬隊を押さえるために、敵右軍にいた騎馬隊がこちらにそっくりそのまま来たようだ。お陰で半壊した左軍の騎馬隊に加えて、敵の騎馬隊はこちらの約1.5倍。
味方右軍がそれで楽になってくれるならばいいけど。
「祖国を侵略する憎きフランティエよ、我が刃を食らえ!」
今日も青い鎧を身に纏うディルクが先頭に立って突撃する。こちらより多い敵に全く引けをとっていない。私も負けていられない。
「オラニエ兵たち!ライデンの青い死神に続くのよ!」
「「「おおおおおっ!」」」
私も真紅の鎧を身に纏い馬上で槍を構えて、ディルクの近くで敵と戦う。戦いながらも戦場全体を把握することを忘れない。少しでも彼が戦いやすいように、戦況がよくなるように部隊配置の指示を出していく。
「フランティエの腰抜け王子なんぞに、うちのお嬢はやらんぞ!!!」
近くで誰かが叫んだ。
そう、先日断ったフランティエの王子との婚姻話もいつの間にか兵の間に広まっていた。ディルクが自分の婚約者である私にちょっかいを出されたことに、怒りのあまりフランティエを片っ端から薙ぎ倒しているという話が、ディルクの大活躍と相まって面白おかしく広まっている。
まぁそれで士気が上がるなら私はいいけどね。
青い死神と赤い死神の夫婦と言った兵は、思わず槍の柄で軽く叩いたけど。
このようにディルクの活躍もあって、足を引っ張ると思われたオラニエ左軍が優位を築くかたちで戦況は推移していった。
そんな風にオラニエ側が終始優位に戦いを進めているが、地力に勝るフランティエ軍を圧倒するところまではいかない。
両軍ともに何か決定打が欲しいところだった。
とはいえ、オラニエ王国に余力はほとんどなく、一方で現状はやや有利なのでそのまま優勢を積み上げることが勝利への近道だろうか。
一方でフランティエ軍としては、まだ余力が残っている本国からの援軍が欲しいところだが、ブランデリック帝国がアルセーヌ伯領、ローレンナ伯領で反攻作戦を開始したため余力はそちらに割かれたようで、こちらに援軍は来ないようだ。
なので、フランティエとしてはここでできる範囲で何かしら考えなければならないところだった。
そこでフランティエが考えたのは、廃嫡された前王太子ヘンドリックをフランティエ陣営に加えることだった。しかしヘンドリック自身にはもう大した力は残っておらず、彼が参戦したところで私兵が百や二百増える程度だ。大した影響はない。
いやいや、ヘンドリックの価値はそこではない。廃嫡された前王太子ヘンドリックを神輿として担ぎ出し、彼を前面に押し出して侵攻の大義名分とすることだった。
今まではフランティエに占領、併合されてしまえばオラニエの国民及び貴族の扱いがどうなるかわかったものではないが、お飾りとはいえヘンドリックがオラニエ王として君臨するのならば、オラニエの民にとってそこまで悪くはならないだろう。貴族も一部認められるかもしれない。
今までは背水の陣といった感でこの戦いに臨んでいたオラニエ側だったが、負けてもそこまで酷いことにならないと思えば、真剣度も変わってくるだろう。人は全力を尽くせる期間は長続きしないのだ。そこに逃げ道があれば余計に。
そしてもう一つ影響が考えられる。ここに領地防衛のために参戦していないデルフト公爵家はヘンドリックの外戚である。もしヘンドリックが王になるのならば、ある程度の権力を得ることができるだろう。
もしかしたら、フランティエに奪われたリーレを返還してもらうこともあるかもしれない。フランティエとすれば、リーレの代わりにオラニエ一国が属国になるのならば安いものだろう。
もしデルフト家がフランティエに寝返れば、五千余の兵がフランティエ軍に加わるとともに、いま戦場になっているこの地は、まるでオセロの白石がパタパタと黒石に置き換わるように敵地のど真ん中に早変わりする。
大都市ブリューゼルがここから近いため、オラニエにとってそこまで不利ではないが、優位性が一つ消えるのは間違いない。
そんなヘンドリックの現状に注目すると、その苦境の要因はいくつもあるが、その中でも最大の要因はフランティエ侵攻であるため、フランティエに対して良い思いはこれっぽっちもなかったヘンドリック一派だった。普段であればプライドの高いヘンドリックはフランティエの傀儡をよしとせず即断っただろう。
しかしクラーラに定期的に隠れ家を通報され、心の休まる日がないヘンドリック一行にしてみれば、このフランティエからの誘いは天から降ってきた蜘蛛の糸のように思えた。
この両者が結びつくと、今の多少の優位など簡単にひっくり返り、オラニエ王国は一転して危機に陥るだろう。
だが、この両者の急接近に気付いているオラニエ王国側の人間はまだいない。




