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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第6話 男爵令嬢クラーラ

私の名前はクラーラ。

男爵令嬢クラーラ・ド・ナーゲレ……ということになっているわ。元は違ったのだけれどね。


私は王都の掃きだめともいえるスラム街――廃材を集めて雨風を凌ぎ、食べるパンがひとかけらでもあればその日はツイている――の、どこにでもいるただの孤児の一人だったわ。

ある日、男爵令嬢とは名ばかりの非常に貧しい女の子マリーケと運よく出会い、一緒に遊んでみたらすごい気が合ったのよね。それからは仲良くなって毎日のように遊んだわ。


ある日、私はこの状況がとても幸運なことに気付いたわ。

このチャンスを逃してはいけないと、それからはマリーケの貧しい家に押しかけて、部屋を片付けたり掃除したり、飲んだくれのマリーケの父親の世話だって、今思い返せば吐き気を催すようなことだって、私は何だってした。この貧乏生活から抜け出すためだったら!

そのお陰で、私はこの男の養女としてナーゲレ男爵令嬢になることができたわ。


私をはじめスラムの孤児なんてその日暮らしで、数日おきにでもなんとかわずかな食べ物を得て、食いつないで生きていくのみ。食い繋ぐのに失敗したら、そこで終わり。飢えて倒れても誰も見向きもしない。スラム街の隅で誰に看取られることもなく、ただ朽ち果てるだけ。

そんな孤児はスラム街では最も力がない圧倒的弱者だ。だから群れて横の繋がりを大事にする。だから私にもスラム街の孤児仲間がたくさんいた。

そんな孤児仲間たちの中でもピータ、こいつは見込みがあるわ。何でも気が利くし、頭の回転も早い。だけどスラムの孤児に仕事なんてないし、お金を稼ぐ手段ももちろんない。気が利いても頭の回転も早くても、何の意味もなかった。でも今の私なら違う。


「ねぇ、ピータ。あなた働きたいのよね?いいわ。私が保証人になってあげる。ついてきなさい。」


ピータはボロ布をまとった痩せた小柄な少年で、一見ぼーっとしているようでも常に周囲に視線を飛ばしている抜け目がないタイプだ。私の提案に目を輝かせ、激しく頷いた。

翌早朝、王都アントオラニエの正門の外にピータを連れて行く。そこでは隣の大都市ブリューゼルとの間の公道整備の人足の募集をしていた。そこの人足頭を捕まえて話しかける。


「ああん、なんだぁ?働きたいだと?

こきたねえスラム街のガキなんて信用ならねえし、いらねえんだよ、帰れ帰れ。」


男は私の話になど興味が無いとばかりに、しっしっと追い払うような仕草をしたわ。


「そう邪険にするものではないわ。身分保障が必要ならこの男爵令嬢の私がしましょう。今日一日でいいから、雇ってみなさい。それに今日のピータの賃金、銀貨3枚はそっくりそのままあなたのもので良いわ。それで可否を判断しなさい。」


「ああん?」


「あなたにとって悪くない選択よ。使い物にならないならそれで終わり。それでもあなたの手元には銀貨3枚は残るわ。使い物になると思えば、今後も雇ってやれば良いし、その時は銀貨3枚だけでなく、ピータはあなたに深く感謝して今後あなたの手足となって働くでしょう。」


横を向くとピータが激しく頷いている。


人足頭は少し考えたあと、損はないかと同意したわ。そしてマジメなピータは期待通りいや期待以上の働きを見せて、その現場で継続して雇用されるようになったわ。

こうしてピータは念願の仕事を手に入れたの。なぜかすごく私に感謝していたわね。

でも感謝なんてしなくて良いのに。だって私は彼の日給である銀貨3枚のうち1枚を、これからずっと労せずして受け取るのだから。


そしてピータが完全に人足の現場で信用を得た後、私はピータを元締めにして、私とピータが信用がおけると判断したスラム街の孤児にのみ新たに保証人となったわ。ピータと同様に毎日銀貨1枚を私に納める契約で。

こうして私は資金を手に入れることが出来たわ。

ああ、もちろん働く孤児が10人に達した時点でピータの上納金は無しにしてあげたし、以後10人増えるたびにピータの給金に銀貨1枚足してあげたの。私って寛大でしょ?


それから私は12歳になった時、これから貴族として生きていくために、双子の姉という設定のマリーケと一緒に王都内の公立学校(中等部)に通うようにしたの。孤児からの毎日の上納金で二人分の学費と制服等は問題なく揃えることができたわ。


この王国のこと、貴族のこと、そしてこの世界のこと、たくさんのことを公立学校で学んだわ。多少のお金はかかったけどやっぱりこれは私に必要なことだった。

そしてその公立学校で過ごしていくうちに、大貴族ばかりが通うという王立オラニエ学園があるということを知ったわ。

こ、これは、お金の匂いがプンプンするわね。玉の輿を目指すのもいいわ。

そこからはその学園の高等部からの編入を目指して、私は死に物狂いで勉強したわ。その甲斐あって私は王立オラニエ学園の高等部に編入することができたわ。(マリーケは不合格だったけど、そのまま公立学校の高等部に通わせてあげているの)


王立オラニエ学園は貴族の子弟がいっぱいで、きらめくような場所だったわ。磨き上げられた大理石の床に柱、なんでもない床に敷かれたふかふかな絨毯。

そしてお金がある大貴族たちは、心に余裕があるからなのか、私みたいな貧乏貴族にも優しかったわ。

でもね、私は違うわ。そういうお前たちから全てを奪ってやりたくて仕方がない。金も地位も余裕も全てを!


入学すると私は一つの噂を耳にした。

ふうん、この学園の同学年には王太子がいるのね。もし彼と結婚できたら、それって私、王妃になれるじゃない。イコール私がこの国のトップになれるということ。


そしてある日、その噂の王太子を遠目から見る機会があった。一瞬で目を奪われたわ。

あれが王太子!カッコいいわ。しかも金ピカでとても華やか。さすがは王太子、お金持ってるわね。決めたわ、次の私の目標はあれね。


――ドンッ!


「キャッ」


私は王太子に見とれていると、誰かにぶつかって倒れたの。すると横から手が差し伸べられたので、誰の手かを確認すると、そこには黒い髪のイケメンが!

その手を取るとそのままイケメンに助け起こされされたわ。

ふうん。スマートだし、なかなかイイ男じゃない。王太子に会う前だったらホレていたかもね。と思っていたら、そのイケメンは言ったわ。


「失礼、お嬢様にぶつかりそうだったので、間に入らせていただきました。御怪我はありませんか?」


お嬢様……?そのイケメンの後ろには青髪ストレートの目も眩むような美人がいたわ。心配そうにこちらを見ているけど、確かこの女は大貴族の娘で……王太子の婚約者!


私の中でメラメラと炎が燃え上がる!

大貴族の娘でハナから有り余る金を持っていて、こんな恵まれた美貌をもち、こんなイケメンを引き連れて、更には王太子まで自分の物にしようというのか!


――こいつは私の敵だ!



明確な目標ができたその日から、私は孤児たちからの上納金をもとに化粧品となりそうな原料を集め、現代仕込みのメイクをマリーケを実験台に、少しずつ化粧品の改良をしていったわ。

実験台とはいえ私のメイクのお陰で、マリーケもそこそこみられるようになったから喜んでもらえているわ。マリーケには一応感謝もしているし、私の姉の設定なんだから、少しは見られる格好になってもらわないとね。


そして私は見違える美しさを、この時代では決して手に入らない美しさを、現代メイクで手に入れたわ。これで王太子を墜として見せる!

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