第59話 捕虜たち
その日の夜は片付けもそこそこに、兵たちをねぎらうために領主邸のホールと庭を使って宴会が開かれた。
「みんな、よく戦ってくれたわ。見ての通りまだまだ片付いてないけど、それは明日以降にしましょう。今日はいっぱい飲んで、激戦の疲れを流してね。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
とソフィエ様が乾杯の挨拶をすると兵たちは大いに盛り上がった。
挨拶で触れたように、激戦を物語る倒れたままの石像や踏み荒らされた植え込みなど、まだまだ荒れたままの邸内や庭は、宴席ではむしろ酒の肴となり兵たちはお互いの健闘を称え合った。
自分もその輪に入って兵たちと酒を酌み交わす。
ソフィエ様は私と飲みたがっていたが、今日のところは領主代理として兵たちをねぎらう必要があるので、そちらを優先してもらった。二人で飲むのは後日しましょうと約束して。
もっとも邸内で一緒に戦っていた兵たちは傷が深い兵も多く、残念ながら一番ねぎらいたい彼らの半分近くが、療養中でこの場にはいないのだが。
宴会では今日の領主邸での戦闘の話だけではなく、村や街道の警護や森の敵拠点の捜索など、話は多岐に渡った。まぁ酔っぱらいだし、話のタネがあればいいのだ。
しかし、最終的にはディルクと敵の隊長との一騎打ちの話になる。
実際にそれを見ていた兵はここにそう多くはないのだが、多くない分余計に酒の勢いも借りて、噂に尾ヒレや背ビレ腹ヒレがすごい勢いでついていく。
その話が私の耳にも入ってくるが、所詮酒の席だ。否定するのも野暮なので、そのまま無言で飲んでいたが、噂の主でもあるので酔っ払いたちは静かに飲みたい自分を放置してくれず、これではゆっくり飲めないとたまらず端の方に避難する。
するとそこには邸内で隣で戦った兵がいた。応急処置の痕が全身にありとても痛々しい。大丈夫かと聞くと「酒を飲んだら痛くなくなりました」だと。まぁいいか。
隣で戦っていたから、私の戦闘を一番間近で見たこともあり、その強さの秘密を聞かれた。
「狙いはソフィエ様なんだ。惚れた女を守るのに力が出ないわけがないだろう?」
と答えると、やっぱディルク様すげえということになった。
そしてこの回答も侍女たちを中心に噂に背ビレや尾ビレがついていくことになる。
翌日、引き続き戦後処理が行われていたが、同時にフランティエ兵の捕虜たちへの聞き取り調査も始まっており、フランティエ軍は既にほぼこの地から撤退したこと、聞き分けの悪い兵たちが勲功稼ぎに残ったことなどが、特に尋問をしなくても情報が集まった。
一番聞きたかったフランティエ軍の撤退についてだが、こちらも聞き取り調査から確認できた野営地を調査したところ撤退した跡が見られ、フランティエ兵の言う通り撤退したことがほぼ確認できた。
もちろん領都にいる辺境伯にその旨が即座に報告された。
後顧の憂いがなくなり、これで北部への援軍計画が本格的に進むだろう。
数日後、気になっていることがあったので、地下牢に行って捕虜になっているフランティエ軍の兵士たちに話を聞くことにした。フランティエ兵は特に抵抗することもなく聞き取りにも基本的には協力的であったため、こちらの扱いも悪くないため捕虜たちの顔色は悪くない。
「この地に勲功稼ぎのために残ったと聞いているが、やはり狙いはソフィエ様か?」
「あっ、お前は隊長を倒した青い鎧の騎士か。あの隊長が、しかもあの刺突剣を持った一対一で負けるなんてな。すげえやつだな」
「それはいい。それより話を聞かせてくれないか」
赤ワインのボトルを左右に振って見せると
「お前くらいの勇士になら、そんなんなくても話してやるよ。『じゃあ、いらんか』いや、いる。あった方がより口が滑らかになるのは間違いないぞ。
ええと、俺たちの狙いの話だったか。お前のいうとおり、今回の目的はお前のところの領主の娘だよ。第五王子との婚姻話が拒否された話は有名だからな。聞いたところによるとうちの王様は大激怒だったらしいぞ。第五王子自体は別にどうでもよかったらしいがな。でも、王がそれほど感情的になっているなら、その娘を捕まえていけば王からたんまりと褒賞がもらえるだろうって肚よ。
褒賞がもらえるのは確定した話じゃないが、間違ってはないと思うぜ」
「王自身か、やっかいだな」
「そうだな。うちの王は自尊心も高いし強欲だからな。まぁ大国の王なんてそうでもないとやってられんか、はっはっは」
まぁ聞きたいことは大体聞けたか。
赤ワインのボトルを牢内に差し入れるとそこを離れた。
なるほど。フランティエ軍におけるソフィエ様の扱いだが、あくまでも噂や想像の範疇だが、王子との婚姻を拒否したいわくつきの人物として、身柄を確保すれば厚い恩賞が出るという半ば賞金首扱いになっているというわけか。
そしてそれにはフランティエ王自身が絡んでいると。
なるほど、やはりフランティエは完全にソフィエ様の敵なのだな。フランティエは既にオラニエ王国の敵ではある。だが、ソフィエ様の安寧のためにも必ず倒さねばならないと私は心に誓った。




