第56話 乱戦
大理石の広大なホール中央の大階段で敵と斬り合う。最初は1階フロアで戦っていたが、大階段まで押し込まれた。大階段とその踊り場から壁に沿って左右に分かれる2階へ続く階段を死守する。左の階段はソフィエ様の執務室に続き、右は客室へ繋がっている。兵たちに被害を出さないように少しずつ下がりながらも引き続き敵兵と斬り結んでいると
――うおおおおおっ!
すると屋敷の外から大きな雄叫びが聞こえてきた。
これはアレイレ軍曹が戻ってきてくれたか?
だが確認しに行くことはできないし、現状は目の前の敵を倒すだけだ。
無心で剣を振るう。
だが、敵もさきほどの喊声をそう感じたのかもしれない。一気に勝負をつけるべく前掛かりに攻めて来た。ホールから1階の左右の通路に攻め込んで、我が兵たちを押し込んでいた敵兵もこちらに戦力を集中すべくホールに戻ってきたようだ。
すると2階の左側の廊下から真紅の鎧に身を包んだソフィエ様が姿を現して
「ディルク、アレイレ軍曹が兵を連れて戻ってきてくれたわ。今は敵兵が守る門を破ろうとしているわ。みんな!あともう少しよ!」
「おお、それはありがたいですな。もう少し粘れば我々の勝利だぞ!」
なるほど、やはりそうだったか。ソフィエ様の声を聞いた味方の兵は士気が上がる。私も便乗して味方を鼓舞する。
が、敵も覚悟を決めたのだろう。フランティエの隊長らしき一際目立つ格好の男が、ソフィエ様を指さしてこういった。
「わざわざ敵の目標が出て来てくれたぞ!あいつだ、あの女を捕らえろ。あの女を人質にしてここを脱出するぞ。それで本国に帰還すれば恩賞は思いのままだぞ!」
――うおおおおおっ
ガラの悪い叫び声が上がり、敵兵も大いに士気が上がった。ソフィエ様は強者たちからの自分に直接かかる視線と敵意の雨にビクリと反応してしまい、少し及び腰になってしまったようだ。
ソフィエ様もなかなかの剣の腕をもっている。こいつら敵の精鋭が相手でも引けはとらない腕前だが、今の腰が引けた状況では少し危ないかもしれないな。元より一兵たりとも通す気はないが、絶対に通さない。
ホール中央の大階段踊り場で戦っていたが、そこからさらに少し押される形で踊り場より壁に沿って左右に分かれた階段を少し上ったところでそれぞれ戦っている。二人分のスペースがあるので、私と兵士で2対2という形だ。1対1なら圧倒できるだろうが、味方の兵士も頑張ってくれているが、どうしても1対2という形になってしまい、倒せそうで倒せない。
反対側の階段は更に劣勢だが、そちらからはソフィエ様がいるところには辿り着けないので、こちら側さえ防げればなんとかなる。
まぁそれでも待っていれば援軍が来てくれるのだから、このまま膠着状態を続けても良いのだが。だが、隣の兵士がじりじりと押されて、階段を1~2段上がる。そうするとそれに合わせて少しずつ自分も退く形になってしまう。
そしてなかなか来ない援軍。門を上手く使われて防がれているのかもしれないな。
私に焦りはないが、兵たちは少し焦りが見えるようだ。
「落ち着け、時間は我々の味方だぞ」
「はっ」
「くっ、そこをどけっ!」
「どけと言われてどくわけがなかろう」
むしろ敵に焦りが出たか?剣筋の乱れをついて、正面の敵兵に畳みかけようとするもまたもや横の敵が邪魔をしてくる。ふむ、少し目先を変えてみるか。
体勢の崩れた正面の敵を攻撃すると見せかけて、邪魔してきた兵に剣を全力で振るうと、途端に慌てるが、敵もさすがの精鋭でなんとか防がれてしまう。しかし、その大きな隙を味方兵士が見逃さずに横から、無防備な身体に斬りつけると軽装な敵はたまらず倒れて、割れた花瓶の破片が散らばる階段下に落ちていく。
「よくやった」私はそちらに目をやらずに声だけで兵を褒めると目の前の体勢を立て直しつつある敵兵に迫る。体勢を立て直されても1対1なら十分にやれる!
後続が穴を埋める前に階段を降りつつその勢いをもって斬りつけるとたまらず大きく体勢を崩した敵兵を尻目に、空いた穴を埋めようと上がってきた敵兵を蹴りつけて階下に叩き落とす。そして体勢を崩していた敵兵に対して上段から振り下ろし、確実に倒す。
その余勢を駆って、2階近くまで下げさせられたラインを踊り場まで押し戻すと、また次の敵兵に斬りかかった。
ふむ、蹴り落とした敵はまた立ち上がってくるだろうが、今ので二人倒せたな。あと10人くらいか。
周りの兵たちもにわかに活気づき、高低差を利用して敵兵に斬りかかっていく。
そのまま二人ほど斬り捨てると、
「ええい、替われ!そいつは俺がやる!」
と敵の隊長らしき人物が、斬りかかってきた。




