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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第55話 領主邸での迎撃戦

来た。フランティエ軍か。

ぞわぞわとするこの感じ。戦場にいたころは毎日のように感じていた、肌が粟立つようなこの感覚。


「ソフィエ様、来たようです」


マリンブルーの髪をまとめ、今日は真紅の鎧を着込んでいるソフィエ様は少し緊張した面持ちのままうなずいた。この執務室内にいる侍女たちも途端に緊張でガチガチの動きになる。


私は身体を隠しながら、領主代理の執務室である2階の窓から外を覗き見る。まだ領主邸の中庭に異常はない。門扉にも異常はないし、衛兵も普通だ。ぱっと見たところ、変わりはない。どこだ?どこから来る?


――!


するとここからは奥になる向こうの外壁を乗り越えて、敷地内に入ってくる数人の侵入者の影があった。邸内に残る兵たちに迎撃の指示をしようとしたところ、


――パリンッ!


窓ガラスが割れて侵入してくる音が階下から聞こえる。それとは別に既に敷地内に侵入者がいたか。

壁を乗り越えた侵入者は邸内の兵たちに相手をさせようとしたが、後手にまわったようだ。その侵入者たちはそのまま門扉に向かい、背後から門を守る衛兵を倒すとそのまま門扉を開けて、邸内にフランティエ兵と思われる侵入者を招き入れている。その数、全部で20弱といったところか。さすがに鎧を着用したまま市内に侵入潜伏する余裕はなかったようで、軽装に帯剣といういで立ちだが、どの侵入者も歴戦の空気を感じさせる。これは楽な相手ではないな。気付いたらソフィエ様も私の横からその様子を窺っていた。


「ソフィエ様、見ての通りです。軽装ですが、兵の質は高そうですので邸内の兵たちが頑張っても、まもなくここに来るでしょう。事前の取り決め通りアレイレ軍曹が戻ってくるまで粘る作戦でいきましょう」


「わかったわ」


「リネケさん、他の侍女のみなさん。直接ここに敵が来ることはないですが、万が一の時はソフィエ様をお願いします」


うなずく侍女たち。表情は緊張しているが、お嬢様を守ろうという気概が伝わってくる。これならお嬢様をお任せしても大丈夫だろう。


「待って!」


私が執務室を出ていこうとすると、ソフィエ様に呼び止められた。少しの間もじもじしていたが、時間がないのが分かっているのだろう。意を決して私の肩に手をやると少し背伸びをして私の頬に口づけしてくれた。


「勝利の女神のおまじないよ」


とそう口で言いながらも顔を真っ赤にして下を見たまま、私と目を合わせてくれない。なので、私はソフィエ様のあごに手をやり、無理やり上を向かせるとそのまま唇を奪った。ソフィエ様は目を瞑って、私に身体を委ねてきた。ソフィエ様の身体を支えながらしばらくそのまま口づけを交わす。侍女たちのいる方からどんどんと壁を殴りつける音が聞こえるが気のせいだろう。唇を離すと、ソフィエ様が「もっと……」とばかりにせつなそうな表情をされるが、そうもいかない。早く兵たちの支援にいかなければな。


「それでは女神様のためにも戦ってきますね」


「絶対に戻ってきてね」


私はソフィエ様とそう言葉を交わすと執務室を後にした。

執務室を出ると廊下の左右を見回した。まだ敵兵はここまでは来ていないようだ。


――キン、カキン!ドガッ!ガシャーン!


しかし、階下からは剣戟が交わされる響きや、戦闘の余波で色々な物の破壊音が響いてくる。


廊下を進み先日歓迎パーティーをした石造りのホールまで出ると兵たちが侵入者たちとそこかしこで戦っている。腕は相手の方が良さそうだが、こちらの兵は完全武装で地の利もあるので、そう悪くはないようだ。

恐らく最初はホールの玄関口で戦っていたのだろうが、兵たちは今は少しずつ引いてホール中央にある2階への階段を死守しているようだ。

私はベルトに差してある投げナイフを手に取ると、今まさにうちの兵と戦っているフランティエ兵に投げた。


「ぐえっ」


不意を打てたのか投げナイフは首に刺さり、そのままフランティエ兵はもんどりうって倒れた。

すかさず第二、第三の投げナイフを別の敵兵に投擲する。


――シュッ!シュッ!


――キン!カキン!


が、不意をつけていないせいか剣で弾かれる。くっ、さすがというべきか。

ただ、私の投げナイフを気にしてこちらの兵との戦いが少し疎かになったのか、苦戦していた兵たちも少し戦いやすくなっているようだ。あと私の姿を見て、兵たちの士気も若干上がったようにも見えるな。


少しずつ敵兵を減らしているが、敵も然る者。

ホール内で戦っている我が兵たちは段々と劣勢になり、武装の差で死者は少なそうだが、1階の左右の各通路に追いやられるようにして、ホール内は次第に劣勢になっていった。そうなると残った階段で戦う兵士たちも少しずつ押され始める。


玄関外や門扉を守っている敵兵もいるのだろうからここにいるのが全てではないだろうが、向こうの生存者数は15人くらいだろうか。でもその一兵一兵が強いな。ホール内に限っていえば、既に兵の数は敵の方が多い。


ホール中央の大階段も比較的広い踊り場まで押し込まれてしまった。

私は腰の剣を抜いて、傷ついた兵たちと入れ替わるように前に出た。入れ替わった初撃で、力を抜いてゆっくりと剣を振る。そしてそのまま空気の流れに逆らわないように力を入れずに斜めに剣を一つ走らせると、目の前のフランティエ兵は肩から斜めに斬り裂かれて、血を噴き出しながら割れた花瓶の破片が散らばる階下に転がり落ちていった。


思わずどよめく周囲の兵と敵兵たち。


「くっ、こいつ強いぞ。油断するな!」


フランティエ兵がそう叫ぶと、倒れた敵に入れ替わるように別の兵が前に出てきた。

私は相手を押し込んで有利に進めようと、そのまま剣を突き入れて3合ほど剣を合わせた。そこで相手の体勢が崩れたところで剣を絡め取り跳ね上げると、そのまま相手の喉に剣を突き刺し、ゆっくりと剣を引き抜くと、敵兵はどうと倒れて階下に転げていく。

またもや容易く倒した私に対して、どよめきが起きる。


こちらは鎧を着込んでおり、鎧がある場所はある程度防御を無視できる。それに対して相手は軽装で、しかもここまで戦ってきて疲労もあるだろう。そして階段の上という高所であるという有利さもある。だから立て続けに二人を割と苦戦せずに斬り捨てられたが、そこまで腕の差があるわけじゃない。

油断はまったくできない敵だ。


とはいえ、そんなことを味方兵に解説する必要はなく、ただ剣を掲げて味方を鼓舞した。味方からすれば頼もしいことこの上ないのだろう。見違えて兵たちの動きがよくなった。

これでもう少し粘れるか。

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