第53話 ナムール市内の異変
その後、十分に心を落ち着けてから会議の部屋にソフィエ様を連れて戻った。
にやにやしながらはやし立てている武官が数人いたが、
「あとで個人特訓な」
と彼らの目を見て言うとピタリと静かになった。
そしてその後も作戦を立てていくが、現状をすぐに打開できるような作戦はなかなか生まれなかった。フランティエとしては、ここでいやがらせを続けて、ライデン辺境伯の軍をここに留めておくだけで意味があるので仕方がないとも言える。
なのでフランティエ軍をおびき寄せるために、ソフィエ様よりご自身を囮にする作戦が出てくるのは仕方がないともいえたが、それは最後にとっておくべきだという話でまとまった。
フランティエ軍が潜んでいると思われるナムール南の森の捜索を密にすることや村や街道のパトロールを強化することなど、特に目新しい作戦はなく今までどおりの現状を強化する方針が確認された。
その後も、街道をいく商人が襲撃されたり、罠を張ったところにフランティエの小隊を捉えて撃滅したりと一進一退の攻防がされていた。
そんなある日、放火と思われる事件がナムール市内で発生した。最近はここナムールも人の出入りが多いため何とも言えないが、基本的にライデン辺境伯領内の都市は治安がよく、それはナムールも例外ではない。
もともとナムールにいる治安部隊がこの不審な火災の調査しているが、刀剣の傷のある焼死体が見つかったようだ。フランティエの影が気になるとして、屋敷に詰めていたアレイレ軍曹が一部隊を率いて現場に向かおうとしたところだった。
ちなみに残りの3人のマシュー軍曹、スコット軍曹、ピエール軍曹は、それぞれ街道や村の哨戒、森林内のフランティエ捜索に当たっている。
「アレイレ軍曹、待ってくれ。フランティエが気になる」
「ええ。ですから、住民の慰撫を兼ねて、その調査に向かおうかと」
「いや、違う。フランティエにしてはこの火災自体にあまり戦術的な意味がない。もちろんナムール市民の不安を煽るという意味はあるが。そう考えると、これは陽動の可能性がある」
「ここを手薄にした瞬間にこの屋敷を襲撃する可能性があると?」
「ああ、そうだ。これがフランティエの仕業だと仮定した場合だが、わざわざナムール市内にフランティエ軍が一部忍び込んでいることを、それに気付いていない我々にわざわざ教える意味は薄い。そうまでしてしたかったことは何だと考えると、ここの屋敷の襲撃、そしてソフィエ様の襲撃しかない。そう考えるとこのナムールに忍び込めたフランティエの兵はそう多くないのだろう。だからここを手薄にする必要があったのだと思う」
「なるほど。確かにそう考えると辻褄が合いますな。では我々はここで待機することにしましょう」
「いや、それではダメだ。隊の一部を屋敷内に潜めさせてくれ。その上で残りで大々的に出撃して欲しい。わざと手薄にしてやつらをおびき寄せる。だから頃合いを見計らって戻ってこい。忍び込んだネズミをまとめて仕留めるぞ」
「かしこまりました」
「今も奴らはここを見張っているだろう。すぐにでも動け。屋敷内に残るものはちゃんと武装させて、2階の前室と1階のホール脇に詰めさせておけ」
「かしこまりました」
「反転時期を見誤って我々を見殺しにしてくれるなよ?」
「はは、わかっておりますよ。一番いいタイミングで必ず戻ってまいります。では失礼。すぐにでも屋敷の外に兵を集めて、動く様子を見せます」
「ああ、任せた」
アレイレ軍曹は数人に声を掛けて指示を出しながら、外へ向かっている。たまたまそこにいた侍従長を伴って、ソフィエ様の執務室に向かって、この作戦の概要を話した。
「分かったわ。リネケ、鎧を出してちょうだい。侍女たちは鍵のかかる部屋で待機しておくように。侍従長はその他の使用人たちを地下室に避難させなさい」
侍従長がちらっとこちらを見たので、うなずいて見せると侍従長は恭しく頭を下げて、ソフィエ様の指示に従う様子を見せた。それに対して、リネケさんは他の侍女にソフィエ様の鎧を持ってくるように指示しながら、黒髪を束ねたリネケさんは手を握り拳にしながら「私たちも戦います!」と勇敢な決意を見せたが、私はそれを制止した。
「それはやめた方がいい。相手はただの雑兵ではない。フランティエの精鋭部隊だ。ただの侍女に勝ち目がある相手ではない」
「ですが、一般人が全て退避してしまえば、そこは生活感が無くなります。雰囲気が変わって、敵が異変に気付いてしまうのではないですか?」
それは確かにそのとおりである。だが、彼女らがいても戦力的に足しになるどころか、足を引っ張るだけだろう。だが、敵に逃げられるのは惜しい。私が黙って考えこんでしまったのを見て、リネケさんは脈ありとみたのだろう。さらにお願いされた。
「お願いします。少なくとも敵襲があり次第、近くの部屋に逃げ込むように他の侍女たちには指示しておきます。だから私たちをここに置いて下さい」
彼女たちの言うとおりなのは確かだ。ソフィエ様を見ると静かにうなずいている。
私はリネケさんに手を差し出して、戦友として握手を求めた。
「貴女がたの勇気に敬意と感謝を。だけど相手は強兵で名高いフランティエの兵たちだ。戦おうなんて絶対に思わないでくれよ」
「はいっ」と元気に返事をすると時間がもったいないとばかりにすぐ動き出すリネケさん。そうこうしている間に、窓の外でアレイレ軍曹が屋敷から軽装の兵をまとめて出て行くのが見えた。
来るか




