第50話 王家の謝罪と第二王子
ソフィエとディルクは一時的に領都に戻ってきていた。
それは辺境伯から呼び出されていたからだ。理由としては王都より、王の謝罪の使者が来るから、臨席せよということだった。
まぁ確かに謝罪の席にソフィエ様がいないのは片手落ちもいいところだからな。
現在は辺境伯の執務室にて、ソフィエ様が帰郷の挨拶をしているところだった。
「お父様、ただ今戻りました」
「うむ、ご苦労である。して、報告は逐一受けているが、領主代理はどうかな?上手くやっていけているか?」
「なかなか面白いですね、今は時勢だけに軍事が中心ですけど、代官と話をして内政も少しずつ触らせてもらっております」
「うむ、あいつは優秀だからな。色々と教わるとよい」
するとソフィエ様がちらっと私を見られたので、ソフィエ様の横に進んで辺境伯に礼をした。何を言われるか分かったのだろう、途端に苦々しい表情になる辺境伯。私はそれがおかしくて少し笑ってしまいそうになったが、表情を引き締めると
「閣下、先日よりソフィエ様とお付き合いをさせていただいております。必ずやソフィエ様を幸せにしますので、お付き合いを認めていただければと思います」
「あーあー、聞こえなーい」
と辺境伯は耳を塞いだ。子供か!
この場には私たちだけではなく、アメリア辺境伯夫人もいたので、もちろん即座に辺境伯は横から怒られることになる。
「あなた?」
アメリア夫人に叱責されて反省させられる辺境伯という一幕があったものの、気を取り直した辺境伯は集まった部下たちの前でこう宣言した。
「ディルクどうこうは関係なく、フランティエの申し出は断る。これは決定事項だ」
「お父様……」
ソフィエ様が目を潤ませている。
「そして、皆も聞いているかと思うが、先日王はソフィエに謝罪しない王太子を廃嫡され、これをもって当家への謝罪とされた。わが家はその謝意を受け入れる。良いな?
既に先程結論は出ているが、謝罪を受けこれからもオラニエ王国の貴族として生きる以上、フランティエ王家と血縁になるわけにはいかない。順序は違うが、これも婚姻の申し出を断る理由の一つだ。我らにとっては一番の理由ではないが、断るのに都合のいい理由ができたとは思っている」
そうだろうな。ただ王子への嫁入りを断るより、オラニエ王国の貴族としてフランティエ王家と血縁になるわけにはいかないといった理由の方が角が立たないのは確かだ。それで先方が納得するかどうかはまた別の話だが。よりこじれないで済むだろう。
その後、応接間にて王の使者が王に代わり辺境伯及びソフィエ様に謝罪するという式典が開かれた。驚いたのは、その謝罪する使者が次期王太子として最有力である第二王子だったことだ。
王の名代としては、次期王太子候補である第二王子であれば辺境伯としては文句のつけようもないが、同時に私は王になった時に人前で頭を下げさせられたと逆恨みされるようなことがないか少し心配になってしまった。噂を聞く限り、先の王太子ヘンドリックのような狭量さはないようだが、権力を持てば人は変わるものだ。
謝罪の式典は、辺境伯の家臣団が居並ぶ中、辺境伯とソフィエ様を前に第二王子が冠を外し、膝をついて頭を下げるという形で行われて、恙なく終了した。
その後は第二王子を歓待するパーティーだ。第二王子に頭を下げさせただけで帰して、次期王に遺恨を持たれても困るからである。
パーティー中には、ソフィエ様と第二王子が話される機会があり、その際に
「王より『ソフィエ嬢さえよければ、戦争終了後に王家でしかるべき良縁を探させてもらう』との言葉を預かってきております。どうされますか?」
その言葉を聞いたソフィエ様は私の腕を掴んでぐいと引き寄せると
「このとおり良縁は自分で見つけましたので、王には『心遣いありがとうございます。ですが、良縁は見つけましたので不要です』とお伝え願えますか?」
「ほほう、しかし見たところ彼は一介の騎士にすぎないのでは……おっとこれは失礼」
ソフィエ様は私の方を見てうなずいたので、「いえ、事実なので構いませんよ」と私は返答した。そしてソフィエ様は私に続いてこう言った。
「確かに一介の騎士でしかないかもしれないけど、ディルクはただの騎士じゃないんです。ライデン辺境伯領で一番の勇士なんですよ」
「おや?……そうすると彼が噂のライデンの青い死神だったりするのですか?」
「ご存知なんですか?」
「おお、本当なのですね。しかしそれを聞くと余計に先程の発言が失礼でしたね。しかし、本物と会えるなんて嬉しいですね。私も剣を嗜んでおりまして、もちろん私自身は大したことないのですが、剣術の先生から各地の有名な剣士の話をよく耳にするのです。よかったら握手してくれませんか?」
私が手を差し出すとさっそく握手をして感動している。
それは構わないのだけど次期王がこれでいいのだろうか。そんな内心が見えていたのか、第二王子は
「ははは、継承順位こそ2位でしたが、兄が早々に王太子として定められたため私が王になる可能性はほぼありませんでしたからね。あまりそういう風には育てられてこなかったのですよ。
ですから、兄とは違い自分の派閥や側近といった者たちがほぼいないので、これから苦労しそうです。今後もお二人とはよいお付き合いをさせていただき、外から何か気付いたことがあれば助言をいただきたいものです」
まぁそれは確かに大変そうだな。
どうせならさっきのことを聞いてみようか。
「先程、式典で謝罪いただきましたが、次期王に一番近いと言われる貴方様が頭を下げられたという行為が、後々辺境伯領にとって不利にならなければよいなと思いまして」
「ああ、なるほど。そういう見方もあるかもしれませんね。ですが、私はあの異母兄が嫌いでして、私が謝罪という形をとるにしろ、大手を振ってあの異母兄を非難できるのですから、むしろ気分が良いまであるのです。ですから、全く気になされる必要はありませんよ」
ふむ、言ってることはおそらく本心に見える。なるほど、そういう考え方もあるのだな。というかかなり気さくな御仁のようだ。このような人が上に立つならとてもやりやすいだろう。まだ気が早いかもしれないが、周囲に優秀な人物がいればうまく回りそうな気がする。
翌日、第二王子は帰路に就くことになるのだが、その最後の会談で
「辺境伯、よろしいのですか?」
「ああ、フランティエは我らがオラニエ王国を侵略する明確な敵。それを討つのにどうして協力しないなどということがあり得ようか。」
と言って、両者はがっちりと握手をして、辺境伯は第二王子にフランティエとの戦いに兵を出すことを約束した。辺境伯から援軍の約束をとりつけるという大きな手土産を手に王都へ帰っていった。
結果的に第二王子は、長らく不和だったライデン辺境伯の懐柔とその援軍派兵の約束の取り付けに成功したのだ。難しい交渉ではなかったかもしれないが、絶対に失敗できない交渉でもあった。この二点は彼を王太子の座に導くよい勲功稼ぎになったに違いない。
フランティエと戦争だ。
こうなったらあとはフランティエをオラニエ国内から追い出すために、戦うしかない。ソフィエ様を守るためにも負けられない。




