第48話 王の外交
黄金がふんだんに使われた豪奢な玉座に腰かけたオラニエ王は、オレンジ色のガウンを上下に大きく揺らしながら大きくため息をついた。
「そうか、逃げられたか。」
「はっ、誠に申し訳なく」
オラニエ王は、玉座の間にて武官の報告を受けていた。
王太子……いや、逆賊ヘンドリックは謀反に失敗した後、逃亡に成功した。
すぐにでも捕まえられるかと思われたが、王都アントオラニエの地下下水路を巧みに使い、行方を眩ませたようだ。
「仕方ない、今は命が助かっただけでもよしとしよう。だが、追及の手を緩めてはならぬ。必ずや見つけ出し、後顧の憂いを断つのだ。いけ!」
「はっ」
その武官は王に命じられると短い返事を残し、軍靴の軽快な音を響かせて玉座の間を後にした。
王の命こそなんとか無事だったが、あの混乱の最中に2人の大臣が命を落とし、大勢の貴族や官僚が死傷した。オラニエ王国にとってはかなりの痛手だ。
王は自分の座る玉座の左隣を見た。そこには自身の玉座と対になる、しかし誰も座っていない空の玉座があった。王妃のものだ。生母でもあり、一貫して擁護していたことから、ヘンドリックの謀反の責任の一端があるとして、しばらく謹慎となったのだ。
「王よ、廃嫡を公表した今、まずはライデン辺境伯との関係改善をいたしましょう。彼らもフランティエと接しているとはいえ、フランティエとの戦に勝つためには、彼らの精兵の力は到底無視できるものではありません。」
目の前にはパリッとした真っ黒なスーツに身を包みながらも、真っ白な包帯でぐるぐる巻きにされた左腕を吊るされた痛々しい姿の宰相がいた。王を守るためにヘンドリックに掴みかかろうとして、壇の下に蹴落とされ、その際に左腕を骨折したのだ。名誉の負傷である。
もっとも本人は文字通り一蹴され、ほんの1~2秒しか稼げていないので、褒められるような功ではなく、むしろ恥ずかしいとすら思っているが。
「そうだな。辺境伯に使者を立てる。まずは王として、遅れたものの王太子はライデン辺境伯令嬢に対して誤った行動をしたため廃嫡した件と改めて王家として詫びを伝えねばなるまい。草稿の用意はあるか?」
そう、あくまでも廃嫡になったのは、謀反を起こしたからではなく、婚約破棄をしたからになる。王太子が謝罪しない以上、代わりに王家が王太子の座を剥奪することによって謝罪するという形が必要なのだ。
廃嫡を不服とした前王太子が謀反を起こした。
順番としてはこうである。
一見無意味だが、貴族にとっては大事なことだった。
「はっ、こちらに用意があります。」
辺境伯に王太子を廃嫡したことと、前王太子の無礼及び廃嫡までの対応が遅れた件を詫びる文章をつらつらと書いていく。そして、以前と変わらぬ付き合いを王家として欲しい旨を綴っていく。
「宰相、現在はフランティエとの戦争中で、今すぐ賠償を払う余裕はないが、戦争が終わったらなんらかの形で辺境伯にもソフィエ嬢にも詫びねばならないだろうな。」
「そうですな。しかし、それには少し猶予をもらう必要がありますが。
次はグローニンゲン家にも使者を出しましょう。王太子を廃嫡し、ライデン辺境伯と関係が改善されれば、あの家も兵を出してくれましょう。」
「そうだな。ブランデリック帝国はどうなっておる?援軍要請はしているのだろう?」
「フランティエからの妨害工作でなかなか帝国内の意見がまとまらないようですが、なんとか先遣隊は派遣できそうとのことです。」
「そうか。これからは我らも一つにまとまって反攻できるだろうが、我らだけでは、なかなか勝つところまでは難しい。早く来て欲しいものだな。」
リーレを落としたフランティエ軍は、リーレから先は進軍していないとはいえ、それで終わりにする様子もまた見せていない。
リーレを安定化したら、そこを拠点にさらに攻めてくるのだろう。
それまでになんとか国内をまとめて反攻態勢を整えたいとオラニエ王は思っていた。




