第47話 クーデター
王太子の振りかざした小刀がまさに王の身体に届きそうなところで、壇上にいた大臣の一人が身を挺して王と王太子の間に身体を入れた。王に突き立てられたはずの刃は、大臣の身体に突き刺さった。
「うぐっ」
「ええい、邪魔をするな。」
王太子は小刀を引き抜き大臣の身体を蹴とばすと、その身体から血飛沫が飛ぶ。
「キャーッ!」
一方で議会後方にいる武装集団は守備兵を攻撃して前進しながら、日頃の恨みとばかりにそこらで逃げ惑う貴族をやたら滅多に斬りつけた。
先程まで王太子の没落を高みの見物にしようとしていた議会場は、途端に乱入してきた武装集団と兵たちが入り乱れ、悲鳴と怒号が飛び交う凄惨な場となった。
壇上では、追いすがる兵を王太子が文字通り蹴散らし小刀で斬りつけながら、王を追っているが届きそうで届かない。
それを見た王太子の第一の側近であるマールテンは味方の武装集団をけしかけた。
「王だ、そこらへんの貴族などどうでもいい!壇上から逃げようとする王の首を取るのだ!王の首を取ったら、それだけで大貴族だぞ!」
「うおおおおおっ!俺が大貴族になる!」
効果はてき面だった。それまでは数こそ守備兵より多いものの、半ば無秩序に暴れていただけだった武装集団たちが、目的を持って戦い始めたのだ。
「逃がすな!王を討て!逃がせば逆賊、討てば大貴族だぞ!」
おおおおおっ!という声とともに王の下に迫ろうとする武装集団たち。王に一番近い位置にいるのは王太子だったが、王太子と王との間には王を守ろうとする人の波ができていて、すぐには近づけそうにない。
そこを横から武装集団が押し寄せ、王もろとも飲み込まんという勢いだ。このまま王の首が取れれば、もしかすると王権は王太子の手に落ちるかもしれないところまできた。
このような王太子の半ば捨て身の襲撃を仕掛けることに成功したのには、いくつかの要因があった。
まず王太子は傲慢で人の機微に疎いという上に立つ者として重大な欠陥を抱えていたが、学園時代にソフィエにこそ勝つことができず万年二位だったが、確かに優秀であり、純軍事的な才能があったことがまず一つ目の理由として挙げられるだろう。そして二つ目の理由として、配下の離反がなく襲撃が王側に全く漏れなかったことだろう。
王太子が素直に招集に応じた振りをして、議会に二人の側近だけという非常に少ない人数で早々に出頭して見せたのも、警備側の油断を付いたかもしれない。
王太子は王への謀反を決めるとすぐさま議会場近くの廃屋や無人の建物を調べさせ、夜のうちに集めた兵を詰めさせた。そして隠れて議会場を見守っていた手の者が、王太子の会場入りを合図に襲撃を仕掛けさせた。王太子がゆっくりと歩いて壇上に上がったのは、ただ単にふてぶてしい態度をとりたかったわけではなく、ちゃんと襲撃隊が突入する時間を稼ぐという理由があったのだ。あそこまで絶妙なタイミングで議会内に突入してきたのは、ただの偶然だが。
しかしここまでうまく行っていたが、運は最後のところで王太子の味方をしなかった。
王が「もはやこれまでか」と観念したところで、王宮から駆け付けた援軍がかろうじて間に合い、王は命からがら議会場を脱出することができた。
大臣がその身を挺して王を守らなければ、武装集団が最初から王を目指して戦っていれば……仮定の話だが、王を討てていた可能性は高かったのではないだろうか。
近衛兵の支援を受けた王は王宮に戻ると、
「前王太子ヘンドリックを逆賊として討つ。生死は問わない。必ずや我の前に引きずって来い!」
と王太子の廃嫡とその討伐を命じた。
王太子……いや前王太子逆賊ヘンドリックは、あと一歩のところで王を取り逃がしたことを非常に悔やんだが、もはや王にその刃が届かないと悟ると深追いせずに議会を襲撃した部下をまとめ、下水路に逃げ込み王都に潜伏した。




