第43話 大国の横暴
フランティエの要求を突っぱねれば攻めてくるかもしれない。
フランティエは強敵で、おいそれと「私にお任せください。全て倒してみせますから」と言える相手ではない。私はソフィエ様の強く握られた両こぶしにそっと手を添えると、その力を緩めさせた。
「ソフィエ様、確かにそういう一面があるかとは思いますが、まだそう結論付けるのは早いですよ。もちろん辺境伯次第ではありますが、状況はそこまで悪くありません。」
と告げると、ソフィエ様はドレスの袖で涙を拭い、その紫のきれいな瞳に少し希望の光を湛えながら私を見た。
「まずですが、ライデン辺境伯家がフランティエ王国と血縁となった場合、ライデン辺境伯家が強化される。確かにその一面はあるかもしれません。ですが、ライデン辺境伯から見れば、ソフィエ様がフランティエに嫁ぐのは人質に等しい。それだけでは一方的過ぎるので、逆にフランティエからの輿入れもあると思いますが、その価値は辺境伯の一人娘で溺愛しているソフィエ様とは比べ物にならない。実際フランティエに対して人質としての価値は無きに等しいでしょう。
そしてその輿入れの当家の相手先は、先日生まれたばかりの公子の男児という可能性もありますが、ほぼカスパル公子本人になるでしょう。その場合、現正夫人の実家と側室の実家のフランティエの力関係を考えれば、側室に男子が産まれれば継承問題に発展しかねない話です。」
うんうん確かに。とうなずいているソフィエ様。一緒に侍女たちもうなずいている。
「他には?」とせがむソフィエ様をなだめると、ちらっと壁際にたたずむリネケさんを見る。すると察してくれてハーブティーの準備を始めてくれた。
室内は緊張感が漂う無音の空間で、皆がリネケさんが淹れてくれるのを見守っていた。私もそれを見守りながら、頭の中をもう一度整理する。
ハーブティーをソフィエ様が一口飲むと「ほう」と息をつかれた。それを見た私は話を再開した。
「そして次にオラニエ王国の立場から考えると、フランティエ王国とは既に交戦中であるため、私たちがこの話を断ったとしても、オラニエ王国としては特に今より不利になるわけではありません。むしろ、辺境伯がこのままオラニエ王国に所属したままの未来を選ぶ場合、オラニエ王国としては頭越しにフランティエとライデン辺境伯が血縁になるのをまず望まないでしょうし、オラニエ王国の南の防壁であるライデン辺境伯にフランティエの息のかかった者が入るのを良しとしないでしょう。」
「そうね、確かにそう。」
ソフィエ様も現状を認識して、少し元気が出てきたようだ。
「もちろんフランティエと血縁関係になれば、経済的軍事的支援が多く発生するとは思いますが、フランティエからするとこの地は飛び地も同然。ここがオラニエ王国やブランデリック帝国から攻められてもすぐに援軍を派遣するのは難しい。
ですのでフランティエにあまり損がない一方で、我々側からすると思ったより旨味のない話なのです。だからこそ、フランティエはそういう仕掛けをしてきたとも言えるのですが。」
「汚い、さすが大国フランティエ。やることが汚いわ」と壁際の侍女たちがざわざわと話している。
「この辺りのフランティエの筋書は辺境伯もすぐにご理解されると思います。
ですので、まずは辺境伯にお手紙を書かれてはいかがですか?
そうしたら、これらのもろもろの理由を加味して、お断りしてもらえる可能性が結構あると思いますよ。」
「ほんと?」
「ええ。賢明な辺境伯ですから、安易に断れない話ですが、同時に安易に受けてよい話ではないことをすぐにご理解されるはずです。ですので、今ソフィエ様ができることは、フランティエの使者が辺境伯に拝謁するより早く、ソフィエ様の想いをつづったお手紙を辺境伯に届けることだと思いますよ。」
「わかった、すぐにパパに手紙を書くわ。リネケ用意をお願い!」
「はい、お嬢様」
リネケさんが文筆の用意をすると、すぐさま元気に書き始めるソフィエ様を侍女を始めとして、みんなで微笑ましく見守った。
もちろん今話した内容が全てではないし、一辺境伯の立場でフランティエの申し出を断るのは簡単なことではないが、そこは今はいいだろう。私もソフィエ様をフランティエなんぞに奪われるわけにはいかない。私にも何かできることがないか、考えないといけないな。
私は藁にもすがる思いで、自身のか細い伝手を頼りにいくつかの手紙を書いた。




