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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第39話 パーティー

ソフィエ様をエスコートして、会場入りをする。

私たちは主人であるため、一番最後の入場だ。

既に招待客は全員入場済みで、30人程度が招待されているようだ。


とはいえ会場は領主邸のホールでの立食形式で、他に貴族がいるわけでもなくそこまで堅苦しいわけでもない。

しかも城塞都市の領主邸という、場合によっては最終防衛拠点になるかもしれない武骨な造りの建物だ。今日のパーティーのために多少会場は飾られているが、規模も装飾も領都や王都の辺境伯邸には遠く及ばない。

シャンデリアは控えめで輝きは少なく、壁や柱はシンプルで彫刻や装飾に乏しい。一方で会場内に花瓶に花を挿したものが多くみられ、少しでももてなそうとする領主邸側の心意気が感じられた。


しかし、そんな会場内の色取り取りの花も霞む一番の花がここにあった。真っ赤な鮮やかなドレスに身を包み、サファイヤブルーの髪を柔らかくサイドにまとめた、若くて美しい辺境伯の娘であり領主代理であるソフィエ様を伴って会場入りをすると、会場内が男性を中心に大きくどよめいた。


それに気付いたソフィエ様は、立ち止まるとにこりと笑いかけ軽く会釈をする。

それに対して男たちが色めき立ったように感じられる。この美しいソフィエ様は未婚であり、現在婚約者はいない。そして普通なら辺境伯の一人娘など、いくらその町の有力者でも、いくら金があっても平民と結婚することなどありえない。しかし口に出すのも腹立たしいが、ソフィエ様は傷物である。

それでも多少の有力者や金持ち程度ではお呼びではないし、先日軍事的才能を示したことで辺境伯家の中ではもはやそれすらも無くなったが、彼ら目線ではチャンスが完全にゼロというわけではないのだ。

そして噂に聞いていたソフィエ様の美貌を間近で拝見した。もうこれだけで、この顔見世パーティーは大成功だろう。今後、ソフィエ様が軽くお願いするだけで、大抵のことは引き受けてくれるに違いない。


パーティー会場の中央に進むと代官の進行でパーティーの開始が宣言された。ソフィエ様が紹介され、それを受けて私の腕に添えられた手が一旦離れ、領主代理として挨拶が始まった。


「ただ今紹介に預かりました辺境伯が娘、ソフィエ・ファン・ライデンにございます。常日頃より、ライデン辺境伯家を支持、支援いただいておりますこと感謝いたします。そしてこの度、この城塞都市ナムールの領主代理として着任いたしましたので、その挨拶としてこの場を設けさせていただきました。

話は変わりますが、先日より我らがオラニエ王国にフランティエ王国が侵攻し、このナムールも……」


ソフィエお嬢様の挨拶が続いている。凛とした雰囲気を保ちながら、流れるように美しい声が響いている。ただ美しいだけの女性ではないのだぞ、と声を大にして言いたい。


ソフィエ様を窺う視線にあまり好ましくない感じが先程からある。

だが、もうソフィエ様は私のもので、お前たちに靡くことは決してないがな!

この笑顔で、夢だけ見させてもらえばいい。

この外行きの笑顔すら独占したくて、護衛という名目でソフィエ様を男たちの視線から背中に隠してもいいのだが、流石にそれはやり過ぎだろうな。



「……では、本日はささやかですが、楽しんでいただけると領主代理としては嬉しく思います。」


――パチパチパチパチ


お嬢様の挨拶が終わると、会場が盛大な拍手で包まれる。私は一歩前に出てお嬢様の隣に進み腕を差し出すと、お嬢様がそれに手を添えた。


――私のところに戻ってきてくれた。


ただそれだけなのに私はそんな風に感じてしまった。すこし女々しいだろうか。


そして会食が始まり、参加者は壁際の食事を取りに向かう。

しかし私たちは主催者で主人であり、本日の主役なのでそうもいかない。


そして料理を取りに行く者の他に、まずソフィエ様に挨拶をしたいという下心が見え見えな参加者たちがすぐに行列を作り始めた。

そのうち、私との交際も広まるだろうが、幸い今はまだ知られていない。辺境伯の未婚の美しい娘として、利用できるものはしておいた方がいい。貴族とはそういうものだからな。

そんなことを思っていると、ソフィエ様がちらっと私の方を見てにこりと笑った。

かわいすぎる。天使か?


……いや、そうじゃない。ソフィエ様が手を置かれている腕に少し力が入っていたようだ。この程度で心が乱れるとは、私もまだまだ精進が足りないな。


そして挨拶が始まる。ソフィエ様の横に代官と守備隊長も並んでおり、ソフィエ様に続いて挨拶を受ける形だ。私はもちろんソフィエ様のすぐ横で護衛として、目の前の挨拶を見守る。

基本的にはソフィエ様に参加者が自己紹介をして、ソフィエ様が「ありがとう、今後のあなたの働きに期待しています」と返すだけだ。辺境伯の娘と平民という立場の違いがあるので、貴族同士のように手の甲にキスをしたり握手を交わしたりはしない。


だがソフィエ様が若くて美しくて、自分にもワンチャンあるかもと思っているのだろう、目に見えてしつこい輩がたまにいる。ソフィエ様も話を終わらせようとしているが、終わらなくて困っているのが伝わってくる。


――パリンッ


おっと、つい手に力が入り過ぎて、グラスが割れてしまった。

メイドに割れたグラスを交換してもらう。


グラスが割れた音で、しつこい油汚れ…もとい、しつこい脂ぎった商人とやらは私に気付いたのか「ひっ。あ、青い死神…失礼しました!!!」という声をあげて退散していった。

青い鎧は身に纏っていないが、青い死神がソフィエ様の傍にいるというのは案外知られているのかもしれないな。物騒な二つ名であまり好きではなかったが、たまには役に立つものだ。むしろこのような席では、すぐに青い死神と分かるような目立つ印を今後は身に付けるべきかもしれない。大鎌でも持つか?


「ディルク、怪我はない?」


心配そうにソフィエ様がこちらを見ている。


「はい、問題ありません。ちょっと力の入れどころを間違えてしまっただけですので。」


「そう、よかったわ。」


その後も力を入れ間違えて、グラスを2つほど割ってしまうというアクシデントもあったが、一通り参加者の挨拶を受け終えた時点で、パーティーはまだまだ続くがソフィエ様は途中退席することにしたようだ。私もそれにならい、退席することにした。

そして会場から出るとすぐにソフィエ様は


「ねぇ、ディルク。私たち、全然食べられなかったじゃない?この後、私の部屋で一緒に食べない?」


もちろん私はその申し出を喜んで受けた。

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