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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第37話 来訪者

領主邸に戻ると、一旦解散となった。

本日のディナーは町の有力者を呼んで、領主代理のお披露目会としてソフィエお嬢様主催のささやかなパーティーが開かれる予定となっている。辺境伯が目に入れても痛くないほどかわいがっている一人娘だ。招待された者はこぞって参加することだろう。


もちろん私は第一騎士として、お嬢様のお傍に侍ることとなる。

旅の埃を落とした後、小ぎれいな軍服に着替えた。パーティー開始までの時間を自室で小休憩をとっていると……


――コンコン


と部屋の扉がノックされた。

まだ自分が呼ばれるには早い時間だがと思いながら扉を開けると、そこには真紅のドレスを身に纏ったまぶしいほどのお嬢様がいた。そんなお嬢様と目が合うと、顔を赤くして顔を伏せてしまわれた。素敵なお嬢様に赤面するのはこちらの方だと思いながらも、思わずぼーっと見とれたまま言葉を失っていると、


「コホン」


とお嬢様の隣から咳払いが聞こえた。侍女のリネケさんだった。あ、いたんだ?


「ディルク様、いつまでお嬢様をこのような廊下に立たせておくのですか。」


「あっ。すみません、お嬢様。中にどうぞ。」


と自室に招き入れた。リネケさんもティーセットが載ったワゴンを転がして、続いて部屋に入ってきた。やっぱり二人きりにはなれないのね。まぁ結婚前の娘が男の部屋に二人きりというわけにもいかないか。と思っていると、


「ご安心を。お茶の用意だけしたら、出ていきますので。」


と言われ、思わず心を読まれたかとドキッとした表情でリネケさんを見ると、すぐさまにこりと返されてしまった。


今日はここに到着したその日で、与えられたこの部屋は無個性でお嬢様を迎えるに相応しいとはいえないが、数日経っても別に変わらないだろうから、その点では初日で良かったかもしれない。


窓際に設置された小さなテーブルと二脚の小さな椅子。そのうちの片方の椅子を引いてお嬢様に勧め、もう一方に私が座った。

その小さなテーブルで、さっそくリネケさんが二人分のお茶を注いでくれている。そしてお茶の用意が終わると


「では、邪魔者は退散いたしますね。でもお部屋のお外でお待ちしておりますので、お部屋の外まで声が聞こえるような行いは謹んでいただけますと。」


とにやにやと笑いながらそう言ったので、私は立ち上がると「しっしっ」と手で出ていくように促した。


「もちろん私は、お二人の間でそのようなことがあっても口外しません。ですが、この後パーティーもございますし、お化粧や髪が乱れてしまいますと、それを直すお時間も必要ですので、万が一ことに及ばれるようなら、手早く……」


と、なおもくだらない話の続きをしようとするので、リネケさんの肩を押して力づくで部屋から追い出した。リネケさんはまだ言い足りないとばかりに残念そうな表情を浮かべながらも、部屋を出て行ったので私は扉を閉めた。絶対に入ってこれないように鍵をかけたいくらいだが、そうもいくまい。


「まったく、何を想像しているんだか。」


と言いながら、私は席に戻って座ると、何やらお嬢様は先程よりさらに顔を真っ赤にしている。


「あの……私はディルクが求めるなら、甘んじて受け入れるわ。」


今のリネケさんの言葉から想像したのだろうが、何を言っているんだろうか、このお嬢様は。急にポンコツになってしまわれた。普段の才女はどこに行ってしまったのだろうか。

はぁ。と大きくため息をつくと目に見えてびくっとするお嬢様。

うーん、まずは話し合いが必要だな。


「お嬢様。まず言っておきますが、『待って!』はい、何でしょうか。」


「お嬢様じゃなくて、名前。名前で呼んでくれるって言ったでしょ?」


まぁ確かに言ったな。


「ソフィエ様。これでいいですか?」


うん、とお嬢様……ソフィエ様はいまだ少し赤いお顔をにっこりされた後、


「様はいらないけど、時間が惜しいから今はいいわ。」


「そうですね。まず、ソフィエ様は私が離れていく可能性を不安に思われているようですが、それはまずご心配なさらず大丈夫です。」


「だって、あんな騙し討ちみたいに告白を了承させたのだから、不安にもなるわ。ディルクは気付いてないというか気にしていないでしょうけど、ディルクは多くの女性に人気なのよ。うちの侍女たちの中だけですら、ディルクと結婚したいって人は大勢いるのよ?」


「そうなんですか?物好きな人が世の中には多いのですね。まぁそれは置いておいても、2私から袖にするのは、現状のソフィエ様のお立場を考えると、絶対にできないことです。」


ソフィエ様はほっそりとした白いあごに手を当てて少し考えたあと


「確かにそうね。そう思うと余計にディルクに申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい。」


と少し寂しそうな表情でソフィエ様はそう謝ってきた。ああ、これは私の言い方が悪かったな。そういう言い方では、ソフィア様には義務感としか聞こえないだろう。


「いや、そうじゃないです。違うんです。

ええと、そうですね。子供の頃のことを覚えていますか?」


「ええ、私たち以外にもたくさんの子供がいたけど、一緒に遊んだり学んだりしたときのことよね。よく覚えているわ。」


「ここ最近思い出したことがあるんです。あの十数人がソフィエ様のご学友として初めて集められた日のことを。とてもかわいらしいお顔をしたサファイヤブルーの髪の女の子がいて、私は一目で恋に落ちました。帰ってから義父であるティボー将軍にあの女の子は誰かって聞いたんです。」


「え、それってまさか……」


「はい、ソフィエ様でした。ですが、義父はいいました。そのかわいらしい女の子は主家筋に当たるお方でお前が恋心を抱いてよいお方ではない。その上、王太子妃となることが既に決まっているお方なのだから、その気持ちは今すぐ捨てて、誠心誠意お仕えしなければならないと。」


かすかにギィと扉が軋む音が聞こえた。リネケさんは部屋の外で待機しているとは言っていたからそこにいるのだろうが、これは扉に耳をつけて聞き耳を立てているな。まったく。


「え、そんなことディルクから少しも感じたことなかった……」


「はい、義父からその感情をソフィエ様にもってはいけないとくどく言われましたので。ですので、私はその気持ちを心にしまい蓋をしました。ですが当時は幼かったのですぐには難しく、間違いを起こさぬよう常に心の中で自分に言い続けていたのです。そしていつしかソフィエ様のことを女性として意識しなくなりました。これで家臣として十分に仕えることができると安心したものです。

そうでもなければソフィエ様のような素敵な女性に、男としてときめかないなんて無理があります。」


ギィという音がさっきよりはっきりと扉から聞こえる。聞き耳立てるならもう少しバレないようにしてほしい。


「ですので、ご安心ください。私はソフィエ様が初恋の人で、その気持ちは一旦封じておりましたが、その心は今も変わりありません。そしてこの数年、ソフィエ様のお傍にいてその行動やお人柄に触れてきました。この恋心を思い出した今、それらを振り返るとその全てが愛おしくて仕方がありません。」


お嬢様は両手で口のあたりを覆い、信じられないといった表情と目を潤ませてこちらを見ている。


「ソフィエ様、私は貴女のことをお慕いしております。私から離れることはありませんし、むしろもう離すつもりもありません。」


そう言った瞬間、ソフィエ様の目から零れるものがあった。

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