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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第27話 女優の退場

デルフト家から脱出し王都に戻っていた王太子とその取り巻きやクラーラの一行は、周りの目を気にして規模は多少小さくなっていたが、王都に来ても変わらず酒を飲み美食を囲う毎日だった。


「美味い酒、山海の珍味、そして俺に相応しい美女。やはり上に立つ者はこうでなければな。」


私は王太子だからな。それに見合う日常が必要だ。

そんなある日、その宴の場に私の第一の側近のマールテンが、汗で茶色の髪を額に張り付け、太めの腹を震わせて息を切らしながら慌てて入ってきた。


「なんだなんだ、そんなに慌てて。まぁいい、マールテンお前も飲め。かけつけ3杯だ。」


「王太子殿下、それどころではありません。リーレがフランティエの侵攻を受けたようです。」


「なんだと!?」


ほろ酔いが一気にさめた。リーレはデルフト領第二の都市で人口5万人を擁する織物産業も盛んな一大都市だ。


「フランティエめ、何を考えているのだ。それで戦況は!?」


「デルフト家が事前に準備していたこともあり、今のところ抵抗できておりますが、フランティエは総勢約三万とも言われています、リーレは五千、すぐに用意できるデルフト家の増援は五千もあればいい方でしょう。それだけでは遠からず、攻め易く守り難いリーレは強兵フランティエの前に陥落すると思われます。」


「デルフト家だけではそうかもしれん。だが、オラニエ王国として援軍が出るだろう?」


「確かにそうですが、先日よりデルフト家は王家の命に逆らっておりますので。」


「何!?これは国難でそんなことを言っている場合ではないはずだ。オラニエ王国として援軍が出て当然だろう!?」


「確かにそうですが、喜んで増援を出すかと言われると微妙なところでしょう。多少痛い目に遭えばいいくらいには思われても仕方ありません。」


「なんだと。リーレは大都市だ。そこが落ちたら痛いどころの話ではないぞ。」


「ですが、昨今の王家との対立を見るとなんとも言えません。」


「バカな!父王に掛け合ってくる!」


「殿下、お待ちください。」


マールテンはクラーラのことをちらっと見ると、私の耳元でこう囁いた。


「殿下がそのまま向かっても、「ライデン辺境伯への謝罪が先だ!」と取り合ってもらえない可能性が高いです。しかも下手をすればそのまま拘束されて、謝罪を強要される恐れすらありますぞ。」


私はそれを聞くと信じられないとばかりに一番信頼する側近であるマールテンの顔をじっと見た。しかし、その顔はとうてい嘘を言っているように見えない。マールテンは私の顔を見ながら黙ってうなずくとこう続けた。


「ですが、リーレがこのまま陥落するのはマズいです。殿下のデルフト家という支持基盤を失う可能性があり、ひいては王太子の座を失う可能性すら出てくる恐れもあります。ですので、恐れ多いことながら、この辺りで意地を張らずにライデン辺境伯家に謝罪するのも手です。」


王妃である母上はともかくその実家のデルフト家は、フランティエの圧力を直に感じていたのだろう。最近は謝罪すべきという風潮に傾いてきていた。今はもうフランティエ侵攻を受けて完全に謝罪すべきという意見に鞍替えしていることだろう。


「……いや、ならんぞ。私はこのオラニエの王になる男だ。むざむざと一貴族に対して頭など下げられぬ。」


側近はその答えを予期していたのか、ちらっとクラーラ嬢の方を見るとさらに私の耳元に口を近づけて声のトーンを落とした。


「謝罪するならもちろんのことですが、殿下のお望みのとおりに謝罪しないにしろ、クラーラ男爵令嬢を生贄として差し出せば、時間が稼げるのではないですか?もしかすると、それでライデン辺境伯も矛を収めるかもしれませんし。」


私はすぐにうんとはうなずけなかった。しかしマールテンは畳みかけるように話しかけてきた。


「あのような貴族とは名ばかりの身分の低い女は、殿下にふさわしくありません。まだ決まったわけではないのに、すっかり王太子妃気取り。殿下の味方でも苦々しく思っている者が沢山おります。」


クラーラの評判がよくないのは知っていたが、側近たちもそう思っていたのか。


「だがあれはいい女だぞ。」


「ですが殿下。至尊の地位とは比べるべくもありません。」


「うむむ…なんとかならんか?」


「殿下、御決断を!」


仕方ないのか?最後に私はもう一度クラーラを見た。





……凶報をもたらした殿下の側近と殿下が、先程から私の方をちらちらと見ながら何やら密談をしていた。しかし何もないまま30分程が経過した。嫌な予感がすると思ったけど、ただの気のせいだったのだろうか?

そんな風に思い始めたころ、この会場に鉄の鎧を着込んだ兵士が数人駆け込んできた。すると先程まで王太子と話し込んでいた側近のマールテンが私を指差してこう言った。


「オラニエ王国に不幸を呼び込むあの女、男爵令嬢クラーラを拘束するのだ!」


「えっ!?」


そのまま駆け寄ってきた兵士が私の腕を掴んでその場に押さえ込んできた。


「離しなさい、私は王太子妃よ。お前たちごとき兵士が触れてよい身体ではないのよ!」


私はそれを振りほどこうとするが、兵士の力は強く振り払うことができない。


「殿下!?」


そういって王太子殿下の方を見ると、そっと視線を逸らされた。


「なぜ!?なぜですか?殿下!あなたは王の地位に就くお方です!

下々の者のいうことなど、お聞き入れになる必要はありません!王になる者として悠然と構えていればいいのです!」


王太子がピクリと身体を揺らした気がしたが、目を背けたまま私に何も声をかけることはなかった。兵たちが私を部屋の外に引きづっていく。私は床に爪を立てて、抵抗しながら王太子に話し掛けるのを止めない。


「殿下、殿下!?

あなたは王になる人なのですよ?この国のトップになる人です。そんなお人が、他人の言葉に左右される必要があるのですか?

クラーラはもう王太子殿下のものなのです。殿下ともあろうお方が、他者の発言ごときで自分の物を失うのですか!?

さぁ!力強くお優しい殿下のお姿を!

ソフィエから私を守って下さったあのお姿をまた私に見せてください!」


しかし、殿下は時折肩を震わせるだけで、こちらを見ようとしなかった。そこに側近の容赦ない冷たい声がかかる。


「連れていけ!」


「殿下!殿下ーっ!」


私は最後までそう叫んでいたが、そのまま部屋から引きずりだされていった。

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