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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第22話 ケルミス砦の戦い・中

2日後、エーヘン伯の軍がケルミス砦に押し寄せてきた。

この砦自体は街道を塞ぐ形で築かれているため、迂回すれば廻り込むことは可能だが、この近くには森の中の獣道はあっても他に街道は無いため、軍はともかく輜重車が移動することは難しい。それにこの砦に敵兵を残したまま敵地に攻め入ることは、いつでも後背を脅かされることにもなるので、それはそれで無理がある。

よってエーヘン伯の軍は初日から全力で砦を攻め立ててきた。


私たちがいる砦中央にある物見櫓から少し先の外壁では、お互いの矢が飛び交う中、砦の外壁を越えようと外壁に取り付く敵兵とそれを叩き落とす守備兵との間で、激しい戦いが繰り広げられている。

このケルミス砦を落とされればライデン辺境伯領の自分たちの街や村が被害に遭うことが分かっているので、砦の守備兵の士気は高い。

しかし、予想に反して人望の薄いエーヘン伯の兵の士気も高かった。


「これは事前に我々が相手の村をいくつも焼いたことが、影響してますかね?」


「そうかもしれないな。」


先程まで矢継ぎ早に指示を飛ばしていたが、今は隣で腕組みをしながら戦況を見つめるクラース守備隊長がそう答えた。


「では、隊長。少し敵の戦意を挫きに出てきます。」


「おお、行ってくれるか。頼むぞ、ディルク。」


「待って、私も行くわ!」


「お嬢様はこちらでお待ちください。私は敵の戦意を挫きに行くのです。お嬢様やクラース隊長が出てしまうと、『この大将首を取ることができれば!』となって、かえって敵の戦意が揚がってしまいます。ですので、ここから私の活躍を見守っていてください。」


と今まで横で聞いていた真っ赤な鎧を着込んだソフィエお嬢様が元気に「私も」と言い出したが、私はソフィエお嬢様を手ぶりで押さえながらそう言った。隣でクラース守備隊長もうんうんとうなずいている。それを見たソフィエお嬢様は、少し残念そうな顔をしたけど理解を示してくれた。


「そうなのね、わかったわ。でも気を付けてね。」


「かしこまりました。では行ってまいります!」



ビシッと敬礼して出て行ったディルク。その敬礼とこちらを見つめる真摯な眼差しに、少し胸が高鳴ってしまったのは内緒だ。

数分後、鮮やかな青い鎧を太陽の日差しに反射させて私の騎士ディルクが外壁の上に昇るのが見えた。そしてすぐさま槍を一振りして外壁に梯子を掛けて昇ってくる敵兵を突き落とす。

すると少し離れたこの櫓にまで、「おおお…」という敵兵のどよめく声が聞こえた。

城壁の上の目立つ青い鎧の主が敵軍の目にも誰だかわかったのだろう。


「隊長、ディルクは学園に来る前の3年間の間にここに所属していた時期もあったと聞きました。どうだったんですか?」


「ティボー将軍によっぽど鍛えられていたのでしょうな。初陣から相手の数人の騎士を倒すなど、戦果も派手でしたよ。そしてライデン辺境伯領で一番戦争が多いのはここエーヘン伯との戦いです。ディルクの――ライデンの青い死神の強さを一番身に染みて分かっているのは、彼の軍でしょうね。」


そうなのね。私は私の騎士がとても誇らしかった。でもそれと同時に私の両手には思わず力が入ってしまう。戦場に絶対はないのだ。あのディルクだって、無敵ではない。そんな私をクラースが微笑ましく見ている。


「ソフィエ様、ご安心ください。ディルクならこの程度の戦場で不覚をとることはありませんよ。しかしこのタイミングでディルクがここにいるとは、私はついていますね。ほら、さっきまで旺盛だった敵の戦意がかなり下がりましたよ。」


確かに見ると、さっきとは戦場から受けるプレッシャーが全然違う気がする。すごい、一人で戦場の空気を変えるなんて。私にはもったいないくらいの騎士だ。

そして隊長は私の力が入った両手を見ながら


「ですがディルクはお借りしているお嬢様の騎士ですし、万が一にも間違いが起こらないように引かせましょう。ここはディルクが縦横無尽に暴れまわれる戦場でもありませんし、彼の役割は既に十二分に果たしてくれました。」


「ええ、お願いします。」


それににこりと応えてくれると、クラース隊長は伝令を呼んで、口頭で簡単な指示を伝えていく。伝令が駆けていって数分後、青い鎧の騎士は一際大きな声で敵兵に何かを叫ぶと、周囲の兵が沸きたった。そうやって最後に味方の士気を上げて、私の青い騎士は外壁からこちらに降りていくのが見えた。

思わず私はほっと胸を撫で下ろした。


横から視線を感じたので、そちらを見るとクラース隊長がにやにやしながらこちらを見ている。


「なんでしょうか?」


「いえいえ、ディルクの奴も隅に置けないなと思いまして。」


「ち、違います。誤解です。私の騎士の無事を安堵してはいけませんか?」


「そんなことはありませんが、お嬢様がとても乙女の顔をしておりましたので、私のような老兵からするととてもとても眩しくて。」


「む。私は普段から乙女ですけど?」


「ははは、それはそうでしたな。これは失敬失敬。」


うっかりしたとばかりに笑いながら自分の頭をぽんぽんと叩く隊長。しかしその直後、隊長は急に真顔になると


「ですがソフィエ様。ここは戦場で、これから辺境伯領は激動に巻き込まれるでしょう。この先は何が起こるか分からないのですよ。人の運命や命すらも。後悔先に立たずという言葉もあります。」


「…そうね。忠言ありがたくいただいておくわ。」


私は外壁の上を見る。

ディルクがいなくなって、敵の士気も少し盛り返したようだけど、一度挫かれた士気はなかなか立て直すのが難しい。一方で味方の士気はかなり高く、今日のところは問題なく防衛できそうだ。



さて、大活躍した私の騎士を出迎えなくては。

でもどうやって出迎えたら喜んでもらえるかな?

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