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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第21話 ケルミス砦の戦い・前

エーヘン伯襲撃の報を受けて、私たちは村焼きの手を止めて、国境のケルミス砦へ急ぎ戻った。

さっそく軍議に入る。


「クラース、現状はどうなっている?」


ソフィエお嬢様の質問にケルミス砦の守備隊長のクラースが答える。短髪に少し白髪が混じってきた堅実で名高い壮年の男だ。確か、この砦の隊長を務めて10年近かったはず。


「はっ、ここの砦には常駐守備兵が800おります。戻られた騎兵と併せて、現在合計1,000の兵がおります。エーヘン伯は推定ですが直属の軍が約3,000と傭兵約1,000で合計約4,000ほどの兵を率いてくると思われます。ここからエーヘンまでは歩兵の距離でおよそ3日。明後日には押し寄せてくるかと。」


敵は約4,000らしい。こちらの4倍の兵だ。

この砦もそれなりに堅牢だし、強兵のライデン兵ならばしばらくは持ち堪えられるが、4倍の敵兵を支え続けるには少し心許ないのも事実だ。


「お父様への援軍要請は。」


「昨日既に派遣済です。今頃はもう到着して兵を集められているでしょう。兵が集まって領都リエージュからここまでは6日。少なくとも約1週間ほどは我らだけで持ち堪える必要がありそうですな。」


会議室に緊張が走る。4倍の兵に対して1週間もたせられるだろうかと。微妙なところだ。そして1週間より長くなることはあっても、短くはならなそうなのが、嫌なところか。


「砦の防衛の準備は?」


「そのあたりは抜かりなく。今は、壁の上に矢玉などの物資を運んでおります」


「ディルク、何かある?」


「そうですね。防衛の指揮はクラース隊長にお任せするとして、騎兵の扱いをどうするか、ですか。」


4,000もの兵に砦を包囲されたら、もうそこで騎兵の出番はほぼ無い。200で正面から突っ込むのは自殺行為だからだ。騎兵として運用したいなら、予め砦から出しておいて、近隣の村を拠点にして、敵本隊へ側面や後背からの一撃離脱を繰り返す運用になるだろうか。それはそれで有効だが、ただでさえ少ない砦の守備兵が1,000人ではなく、800人になるのは痛いところだ。


「クラース隊長はいかが?」


「確かに1,000が800になるのは痛いですが、ディルクを砦に張り付かせておくのが惜しいのも確かですな。ふうむ。ディルクはどう思う?」


15歳までの軍属時代にはここケルミス砦にも配属になっており、クラース隊長を上官として一時期戦っていたこともあり、よく知った仲だ。


「そうですね。騎兵で荒らしまわるのも悪くないですが、お嬢様にクラース隊長の防衛指揮を見てもらうのもいい勉強かと思いますので、今回は砦防衛で良いのではないでしょうか。騎兵出撃する機会もありそうな気がしますし。」


「そうか、ならばそうしようか。お嬢様、それでよろしいですか?」


「ええ、クラース隊長の手腕を勉強させてもらうわ。」


「ははは、これは緊張してしまいますな。」


といいながらもぽんぽんと自らの腕を叩いて、クラース隊長は自信の程を見せた。



ケルミス砦はあくまでも前線の砦なので、ソフィエお嬢様に相応しいお部屋などはなく、クラース隊長などと同じく高級士官用の一室を与えられているだけだ。とはいえ、1名だけだが侍女はいるのだが。


「ディルク、防衛戦の基礎を教えてちょうだい。」


「そうですね。正直、あまり奇抜なことはできません。壁の上から、矢を放ち昇ってくる敵を叩き落とし、門を守る。負傷した兵を下がらせ、少ない兵で交代しながら休む。その際、夜襲も警戒する必要があって、夜番を立てる必要と夜襲時の決まりごとを作っておく。そんな感じですかね。

大事なのは兵の士気です。兵の士気を保つこと、これに尽きます。」


「それだけ聞くと簡単そうだけど、クラース隊長は防衛が上手いのよね?何が違うのかしら。」


「そうですね。やはり兵の信頼が高く、士気を高く保つことにまず優れています。それと、私は防衛戦より野戦の方が得意なので、私もそこまでは分かっていないのですが、恐らくクラース隊長は兵をよく見ているのでしょう。それで少ない兵でやり繰りする管理や運用が上手いのだと思います。」


「なるほどねぇ。で、私はそれを見て学ぶと。ここで私にできることは?」


「お嬢様は兵から人気がありますからね。激励してやって、兵の士気を高く保つ手助けをするのが良いと思います。」


「あら、そうなの?ディルクも私に激励されたら嬉しい?」


「それはもちろんですよ。お嬢様のような美人に激励されて嬉しくない男はいないでしょう。」


「えっ」


「えっ?」


なんか変なことを言っただろうか。お嬢様はびっくりした後、暑いのか手でぱたぱたと顔を扇いでいる。少しお顔が赤いようだ。というか侍女までびっくりしている。


「リネケさんがそんなに驚いているなんて、こんなにお美しいお嬢様に失礼じゃないですか?」


「えええええ。ディルクさんだけには言われたくないんですけど。」


侍女のリネケさんに何か失礼なことを言われた気がするけど、そこをお嬢様がリネケさんを押し退けて食いつき気味に話掛けてきた。


「ディルクは私が美人だと思うの?」


「男性なら、お嬢様を見たらみんなそう思うのでは?」


「そうじゃなくて、ディルクもそう思っているのか聞いてるのよ。」


「私も世の男性の一人なので、お嬢様のことは美しいと思っておりますよ?」


「えええ。今までそんなこと、おくびにも出したことなかったじゃない。」


「それはまぁ。特に聞かれたこともないですし。」


「ええー?」


お嬢様がなぜかがっくりと肩を落とされている。そんなお嬢様に侍女が苦笑しながらお茶を淹れている。


「ディルク様は、お嬢様以外に他に美しいとかキレイだなって思う女性はいないのですか?」


リネケさんが聞いてきた。


「アメリア様はいくつになってもお美しいですよね。もちろんリネケさんもお美しいと思いますよ。」


「あ、ありがとうございます」と言って照れるリネケさんをソフィエお嬢様が睨んでいる。


「その他の方では?」


「お屋敷にいる侍女の皆さまはみなさんお美しいと思いますよ。他は特には…あまり意識もしませんし。」


すると今度はお嬢様が聞いてきた。


「ク、クラーラ男爵令嬢は?」


「は?あいつは、私の、いや私とお嬢様の敵でしょう。」


「そうよ。もちろんそう。でもキレイとかかわいいとか思ったこと、ないの?

それと学園にいた他の令嬢とか?」


「一度もありませんね。あんな石膏像みたいな女性。

それと学園ですか…言われてみればそれなりにキレイな人はいた気がしますが、基本的にお嬢様しか見ておりませんでしたので、あまり記憶に残っていませんね。」


というと、お嬢様は「うう…」と言いながら胸を押さえて倒れるフリをしている。リネケさんもそれにのって「これは致命傷ね」と言って、お嬢様の看病を放棄した。二人とも仲が良いな。

そんなリネケさんはこちらを見ると、


「じゃあディルク様は、現在気になっている女性とかいらっしゃるんですか?例えば……お嬢様とか?」


その瞬間、空気が張り詰めた気がした。

しかしリネケさんが続けて「それとも私?」といった瞬間、お嬢様に「どさくに紛れて何言ってるの」と横から突き飛ばされていた。ははは、二人とも仲いいな。


「ははは、特にはいませんね。お嬢様はお嬢様ですし。」


その瞬間、二人ともがっかりしていた。

ははは、お嬢様たちは私に何を期待しているというだろう。私のような人間の恋バナなんて聞いても何も面白くないのに。

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