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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第18話 そのころの王太子たち

その頃、王太子やクラーラ嬢、それとその取り巻きたちは、ソフィアと婚約破棄してのちしばらくは我が世の春を謳歌していた。王都にいると国王である父親や重臣たちがライデン辺境伯に謝罪しろとうるさいので、王妃である母の実家のデルフト公爵家の領都に滞在していた。

そこでは毎晩のように宴会を開いて、山海の珍味を取り寄せては高級酒を浴びるほど飲み、クラーラにはその身を飾る高価な装飾品を惜しげもなく買ってやった。

クラーラは王太子御用達の出入りの商人より献上された(もちろんタダではない)、この辺りでは珍しい大粒の真珠の指輪をうっとりと眺めていた。


――ふふふ、これで私もゆくゆくは王太子妃ね。この王国でもっとも貴い存在も同然よ。


彼女は胸元が大胆に開いた真紅のベルベットのドレスを身にまとい、そのドレスは黄金の糸で大輪のバラと棘のついた蔓が大きく刺繍され、裏地や裾に使われた滑らかな絹の光沢が煌びやかに反射し、胸元や裾に散りばめられたルビーとエメラルドが妖しく輝いた。

そんなクラーラは王太子の光り輝くグラスに高級なワインを注いでいく。


「やはりソフィアなどと婚約破棄してよかったわ。あいつは俺がせっかく宝飾品を送ってやっても王の責務がなんだとか言って受け取らないし、昼間から酒を飲むとうるさかったからな。いまいましい。あんなやつ、思い出すだけで酒が不味くなる。」


「王太子には私がおります、ソフィエなどと違い、私が誠心誠意お仕えいたしますわ。」


クラーラは先日ピータに多少の金を渡して、王都の浮浪者にソフィエ一行を襲わせたけど、失敗に終わったらしい。まぁさすがに浮浪者じゃダメよね。でもあの女も襲われたことで肝が冷えたでしょう。その直後に領地に引っ込んだらしいものね。王都にいられると目障りだったし、いい気味だわ。

着衣の乱れたクラーラは、そのまましなを作りながら王太子に寄りかかる。それを片手で抱き寄せながら、また王太子はワインを飲み干す。



王太子一行の周囲はデルフト公爵家の者が固め、王家内においても王妃が味方であるため、まわりに特に諫める者もおらず、反対意見も多くは封殺された。そのため自分がとった一方的な婚約破棄は次代の王として当然の権力だと思っていた。もちろん、それ以外の者たちはそうは思わなかったが。


オラニエ王国自体に目を移すと、超大国2国に挟まれているため軍事力に不安はあるが、経済的にはとても豊かな国で、王家の予算は多く、王太子が多少遊興につかったくらいでは揺らぎもしなかった。だからそのことに関して、特に表立って王太子に意見する者もいなかった。

なにせ王太子で、次代の王と内定しているのだ。

今の王が退位するのが何年後か分からないが、少なくとも20年程度は国家の最高権力者としてこの国に君臨することが内定しているのだ。そのような人間の不興をすすんで買いたいと思う人間はこの国にはいない。


そして王太子は生まれながらにして王の後継者であり、何もしなくても豊かなオラニエ王国の表面しか見えておらず、王とはその利益を甘受する存在だと考えていたようだ。ただ、その2大国の間で上手く外交の舵取りさえできているなら、それでもよいと考える政府高官や官僚は多そうである。余計な口出しをするだけの無能な上司など、遊んでくれてていいから口出ししない方が嬉しいのはいつの世も同じである。

難しいわけではないが、それだけ2国間との外交バランスが重要であるということの裏返しでもあるが。


そんな潮目がはっきりと変わったのは、ライデン辺境伯が王都を引き払ったあたりからだった。


それまではライデン辺境伯を除けば、公爵家や王妃の権力で王太子の振る舞いに対する不満を押さえつけているので、表立っての王太子への不満は抑えられていた。

しかし、そこにライデン辺境伯という南部の要が王都の屋敷を引き払ったとなると、話は変わってくる。中立という名の日和見を決め込んでいた貴族たちも、南部の要がオラニエ王国を離脱するようなことがあれば、いつ自国が攻めこまれてもおかしくないほどにオラニエ王国は脆弱な状態になることに今更ながらに気付いたのだ。

そしてその原因は王太子であるのは明白だった。それを反省するでもない王太子は、王として相応しくないのではないかという印象が広まりつつあった。


相変わらずクラーラや取り巻きと遊興に耽っている王太子だったが、日ごとに王太子を見る目が厳しくなるのが感じられた。それはデルフト公爵家ですら例外ではなかった。


「くそっ、なんなんだ。俺は王太子だぞ!?」


高級なワインを飲み散らかし、赤い顔で酒の息を吐きながらそう言い放つ王太子。


「本当に。王太子様の高貴な血筋を理解しない蒙昧な者どもですわ。」


そういってクラーラは王太子を慰めた。

しかし、そういうクラーラ嬢の立場はもっと複雑だ。王太子ほど事態に対する責任はないが、王太子をそそのかしたのは明らかだったし、ライデン辺境伯の怒りは王太子だけではないことは容易に想像できた。そして事態をより複雑にするのが、公爵家も王妃も男爵令嬢という身分の低いクラーラが王太子妃となることを望んではいなかったことだ。クラーラの存在を否定することは王太子の謝罪とセット扱いなので、現状半ば放置されているだけなのだ。

そんなクラーラ嬢は、まだ公式に認められていないが、既に未来の王太子妃として振舞い、本来であればこちらが頭を下げなければならない相手からぺこぺこと頭を下げられ、あごで使える状況に満足していた。

ライデン辺境伯家と王家がいくらか揉めているのは把握していたが、王太子の地位が揺らぐわけがないとタカをくくっていた。


そんな時、フランティエ王国からデルフト公爵家にライデン辺境伯と和解しろと直接の圧力がかかった。デルフト公爵家としてもたとえ相手がフランティエ王国であっても、近い将来の権力の源泉ともなる王太子をみすみす手放すつもりはなかったので、いったんは突っぱねたようだが、それに対して予想外の強硬姿勢で更なる圧力がかかったようだった。


居心地の悪さを感じたそんな王太子一行は一旦デルフト領を離れ、また王都に戻ってきていた。それに前後して、フランティエはデルフト領の大都市リーレ周辺で大規模な軍事演習を始めた。


これにはデルフト公爵家は慌てた。フランティエの大軍はデルフト家が総出をかき集めてもその半数にも届かない兵数だったからだ。この状況で他家が援軍を出してくれるかは分からない。放置すればオラニエ王国の危機であるから、最終的には王国軍を始め援軍は来るだろうが、しばらくは劣勢下で放置されてしまうかもしれない。

デルフト公爵家は急激に足元が揺らぐのを感じていた。


王太子一行はそんなデルフト家をすんでのところで脱出したのだった。

王都の住み心地が良いかはまた別問題だったが。

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