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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第17話 辺境伯の戦略とソフィエお嬢様の戦術

王都にある屋敷を引き払って、辺境伯が帰還した。

とはいえ別に売り払ったわけでもないし、最低限の管理者だけ残して引き上げたという形だが。しかし王家に対して、一歩も引かないという姿勢を明確に打ち出したとは言える。王都は震撼した。王国の南部は人口こそ少ないが、要衝の地を多く抱えていた。南部がなければ王国の防衛が立ち行かないのだ。


帰還された辺境伯によると、王都の……というか王家の対応はかなり悪いらしい。というかまとまっていない。

なぜならデルフト家が王太子を強烈に擁護しているからだ。

デルフト家も分かっているのだろう、王太子が不利な状況であることを。なので必要以上に王宮をかきまわしているようだ。それは王太子の母である正妃も同様だった。

王太子を廃嫡に……という声が無いわけでは無いのだ。

王太子が謝罪だけで済む話だったらデルフト家も王妃も謝罪させたかもしれない。しかしソフィエ嬢の被った被害もそうだが、その場面設定も悪過ぎた。卒業式という多くの貴族やその子弟が目にする前で行われたのだ。これはただの謝罪で済む話ではない。そうすると話の流れによっては廃嫡にもなりかねず、謝罪しない以上強硬姿勢をとらざるを得なかったということだった。


辺境伯は、もちろん東の公爵家グローニンゲン家と連絡をとった。

グローニンゲン家はライデン辺境伯に当初からいたく同情的だった。それはそうだろう、まかり間違えばグローニンゲン家も同じ扱いをうける恐れがあるのだ。

そして表立ってデルフト家が王太子を擁護するならば、グローニンゲン家はデルフト家が大嫌いなので、その逆張りをするのは当然で、しかもそれが正着であるならば何の遠慮もすることがなかった。


しかしグローニンゲン公爵家にとっても、王家がここまで優柔不断な対応をとるとは思ってみなかったようだ。ライデン辺境伯が王都を引き払うことはオラニエ王国全体を考えた際にグローニンゲン公爵家にとっても好ましいことではないが、このままでは埒が明かないので、消極的ながら同意してくれた。道中はグローニンゲン公爵領を通って領都まで戻っており、公爵家は護衛も提供してくれたようだ。


その際に、ライデン辺境伯はグローニンゲン公爵家に一つお願いをした。

ブランデリック帝国へ諸侯として参加可能かの打診の仲介である。もちろん、辺境伯としてはオラニエ王国から離れるつもりはないのだが、オラニエ王家に揺さぶりをかけるための強烈な一手を放つことにしたのだ。

グローニンゲン公爵家は、これに同意した。

王家に揺さぶりをかけるという点において、効果的であるから。

もちろんグローニンゲン公爵家もライデン辺境伯が、オラニエ王国を抜けることを望んでいないし、ライデン辺境伯が抜けようとしていないことを確認した上での話だ。




そんな世界情勢の中でもソフィエお嬢様の従軍訓練は継続しており、何度か敵と交戦もした。その結果、経験を積んだカリスマもあるお嬢様の指揮能力はメキメキと伸びていった。

今はエーヘン伯領との国境のケルミス砦にて駐留軍を指揮下において、エーヘン伯領への攻撃作戦を練っているところだ。


エーヘン伯領との戦いで面倒な点が一つある。

前話でも触れたが、ブランデリック皇帝の義務として、諸侯を侵略から守るというのがあるのだ。そのため、こちらが大軍で正面切ってエーヘン伯領内に攻め込むと皇帝率いる諸侯連合との戦いになってしまう。それはフランティエ本国と戦うのと同レベルの強敵だ。

エーヘン伯が攻め込んできても、基本的にはこちらはライデン辺境伯単体で守るだけ。オラニエ王国の援軍も呼べなくもないが、何かの拍子にブランデリック帝国との大戦に発展する可能性は避けたいためだ。

なのにこちらが攻め込むと、ブランデリック皇帝率いる諸侯連合との戦いになるという極めて理不尽な小競り合いの歴史だ。相手にしてみれば、成功すれば儲けものみたいな感覚で侵略戦争ができる。たとえ侵攻軍が大敗して、自領地を守る戦力がなくなったとしても皇帝軍が守ってくれるので、あとの心配をすることなく戦争できるという非常にエーヘン伯に有利な盤面だ。


これを打開するには、エーヘン伯を倒した上で、皇帝軍を単独で打ち倒すか(無理)、もしくはブランデリック帝国の諸侯の一員となるかだ。諸侯の一員となってしまえば、諸侯同士の争いに皇帝は不介入なので、諸侯の一員となったライデン辺境伯がエーヘン伯を攻め滅ぼしても何の問題もない。その前にエーヘン伯は、ライデン辺境伯の帝国諸侯入りに反対するだろうが、50近くある諸侯のうちの1つが反対しても大勢は覆らないだろう。だから、辺境伯が示したブランデリック帝国の諸侯になることは、目下の小競り合いの相手の領地に攻め込めるようになるというメリットもあるのだ。


「ディルクはどう思う?」


ソフィエお嬢様の声でそんな思索から我に返る。

お嬢様はサファイアブルーの髪をポニーテールに結び、真紅の地に金の意匠や縁取りが施された美しい鎧を身にまとい、非常に凛々しい姿でこちらをじっと見ていた。

ソフィエお嬢様の考えた、少数の兵によるエーヘン伯領の襲撃作戦について私の考えを求められているようだ。見るとどれも実現可能性は高そうだが、同時に危険も多く孕んでいる。


「いやがらせとしては効果的ですが、敵地に少数での潜入は危険度が高いですね。ソフィエお嬢様の同行は認められませんが、それでもいいですか?」


「なんでよ!」


「これまでの数か月、ソフィエお嬢様がとられた指揮は非凡です。ライデン辺境伯家のこれからの戦いにおいて、お嬢様は欠くことのできない非常に有用な人材であることを示しました。この程度の小競り合いで万が一にも失うわけにはまいりません。」


他の士官たちもうんうんと頷いている。

我々が大規模に侵攻することは叶わない。ならばできることは、小勢を率いてエーヘン伯領の村を焼いて略奪するか、物資集積所を焼くか、兵の詰所を焼くといった小競り合いの範囲内だ。そんな小勢相手のいやがらせに対して皇帝に援軍を求めるのは、エーヘン伯としてもできない。笑われるのがオチだ。


数百の兵でもって相手の領地に速やかに侵入し、目的を達成して速やかに退却する。相手が千人単位で防衛してきたら、まず勝てない。その場合は極力被害を抑えて一目散に退却することになる。とはいえ、言うは易いが行うは難しい。

逆侵攻してくると思っていないかもしれないので、序盤の奇襲は上手くいくかもしれないがそれ以降は難しいかもしれないな。


「いいえ、それは認められないわ。私は来たるべき大きな戦いのために、この戦いでもっと学んで成長しなければならないわ。だからディルク、私を守りなさい。あなたなら、私を逃がすくらいはできるわよね?」


そう言われてしまっては「はい」としか言えない。

不承不承頷くと、


「よろしい。この戦いの目的はこのような小さな奇襲成功させることではありません。この奇襲の勝利を何度も重ねて、相手をいらだたせて、エーヘン伯軍の大規模侵攻を誘引します。そしてこの砦でエーヘン伯軍を完膚なきまで叩きのめして、来たるべき大きな戦いへ後顧の憂いを断ちます。」


なるほど。

フランティエと戦争になるにしろならないにしろ、後背に位置する小うるさいエーヘン伯を叩いておくのは意味がある。そうなると、たかだかこの程度の小競り合いという認識自体が間違っていたかもしれない。


ここにいる士官たちも自分と同じ考えに至ったのだろう。恭しく頭を下げ、ソフィエお嬢様の作戦が実行に移されることとなった。

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