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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第16話 二大公爵家

話は少し戻る。

王太子ヘンドリックの母カタリナ・ファン・オラニエは、西の公爵家デルフト家の出身である。そのため、王太子の即位後は外戚として権勢を振るえるであろうデルフト家は、卒業式における婚約破棄を始めとした王太子の振る舞いをほぼ全て擁護した。デルフト家が擁護したために、後ろ盾を得た王太子はさらに態度を硬化させ、オラニエ王以下が要求するライデン辺境伯家へ謝罪する様子を一切見せなかった。

一方でデルフト家と犬猿の仲である東の公爵家グローニンゲン家は、もともと落ち度のないライデン辺境伯家に同情的だったが、デルフト家の対応をみて当然の如く反発し、これら王太子とデルフト家の一連の行動を激しく非難した。


オラニエ王国*は西に大国フランティエと接し、東にこれまた大国のブランデリック帝国と接しており、それぞれデルフト家とグローニンゲン家とは交易などを含めて少なからず交流があった。


※作者注

オラニエ王国……オランダモチーフ(ベルギー、ルクセンブルク含む)

フランティエ王国……フランスモチーフ

ブランデリック帝国……神聖ローマ帝国(ドイツ諸侯連合国)モチーフ

と考えると少しイメージしやすいかも?


王が王太子に対して強硬な姿勢を見せると、フランティエに寄り添う姿勢を見せるデルフト家は厄介であった。とはいえデルフト家としても、あまりにやり過ぎてフランティエが内紛の好機とみてその侵攻を招くようなことがあれば、デルフト家が侵攻の矢表に立ったり、フランティエ進駐によって自治が失われたりするようなことにもなりかねないので、やり過ぎるわけにもいかないのだが。


王としては非が王家にあるのは分かっており、他の貴族や他国の手前も含め早急にライデン辺境伯家に謝罪がしたかった。とはいえ悪いのは王太子であり、王家が謝っても王太子に反省の色がないのでは、とても辺境伯は納得しないだろう。


一向に王家として正式な謝罪がなく、結果的に王家は謝罪を引き延ばしてのらりくらりとかわし続ける格好になり、とうとう堪忍袋の緒が切れたライデン辺境伯は、王都屋敷を引き上げ辺境伯領に戻った。

そしてブランデリック帝国にすり寄る姿勢を見せた。


ブランデリック帝国。

それは50近くもの諸侯(貴族)からなる連合体で、諸侯の投票による選挙で選ばれた諸侯が皇帝になるという「選挙君主制」が、とられていた。諸侯同士で縄張り争いや権力争いがあるので、一丸とはなりにくかったが、それぞれの諸侯が力を持っているので、全諸侯が一致団結すれば、ブランデリック帝国の最大のライバルである大国フランティエを遥かに凌駕する国力があった。もちろん一丸となることはないのだが。


ライデン辺境伯はオラニエ王国を離れ、諸侯の一つになるという選択肢を、両者にちらつかせたのだ。


これにはオラニエ王国中いや、大陸中に衝撃が走った。


もちろんブランデリック帝国への編入が無条件にできるわけではない。帝国の一員となれば、外敵から侵略を受ければ帝国はこれを守護する義務があるから(現代で例えると相互防衛の義務があるNATOの加盟に近いだろうか)だ。編入した翌日にこれを認めないオラニエ王国やフランティエ王国がライデン辺境伯領に侵攻する可能性だって少なからずある。だがブランデリック帝国にはこのリスクを享受してでも、ライデン辺境伯を諸侯に迎え入れてもよい、有り余る多大なメリットがあった。

ライデン辺境伯領は、戦略上極めて重要な位置にあるのだった。


地域の覇権を争うライバル同士であるフランティエ王国とブランデリック帝国は、それぞれお互いが東西の位置で国境を接している。そのうち北半分は間にオラニエ王国があるので、実際には両国は南半分が接している形だ。

そして、そんなオラニエ王国の中でもさらに南半分がライデン辺境伯領である。

なおオラニエ王国の産業や人口は沿岸を含む北半分に集中しているので、辺境伯領は王国全体の南半分と領地こそ広いが、その大半は森や丘陵が多く人口はそれほど多くない。

しかし森や丘陵が多いということは、別な見方をすれば守り易いのだ。


そして問題なのがライデン辺境伯領のさらに南の地だった。ここには良質な鉄が豊富にとれ、現在はブランデリック帝国領であり、フランティエ王国とブランデリック帝国の長年の係争地であるアルセーヌ・ローレンナ地方があった。


これまで中立の立場をとっていたオラニエ王国は、この両国の係争地帯に手を出してこなかった。しかしライデン領がブランデリック帝国の一部となれば、支援が容易になるし、逆にフランティエがここを押さえれば、アルセーヌ・ローレンナ地方を北からも攻め入ることができる。

今までは中立国の領土であったために視野に入っていなかったが、これだけでも2国にとっては戦略上重要な地方だ。


そして逆にオラニエにとってみれば国防の危機だ。

南にある辺境伯領は守り易い土地だが、北部の低地地方は平原が広がっており、一部の都市は河川を利用して要塞化されているとはいえ、ほとんどの土地が平地で守りにくい。そして、オラニエ王国は西にフランティエ、東にブランデリック帝国に挟まれている。西のフランティエが攻めて来れば東のブランデリック帝国を頼り、東のブランデリック帝国が攻めて来れば西のフランティエを頼るといった東西両国のバランスで保っているようなものだ。


ここで大事なのは、南から侵攻されることがないから成り立っているともいえる。

辺境伯領がフランティエ、ブランデリック帝国いずれについても、東西バランスが崩れ国防が成り立たなくなるだろう。これに王家は動揺した。


今までは王太子を廃嫡する方針をチラつかせて王太子の謝罪を引き出そうとすると、西の公爵家が擁護して却ってフランティエに接近する素振りをみせたために、それ以上の話には進まなかったが、西の公爵家を無視してでも王太子を廃嫡し、辺境伯に謝罪せねばならなくなるかもしれない。



そんな国際情勢の中、まず動いたのはフランティエ王国だった。

フランティエとしては、ライデン辺境伯領がみすみすブランデリック帝国の一部になるのを見過ごすわけにはいかなかった。フランティエ王国悲願の地であるアルセーヌ・ローレンナ地方の攻略がより困難になるからだ。


フランティエはまず友好関係にある西のデルフト公爵家に圧力をかけた。

現状の王太子を擁護する方針を即座に中止しろと。

ライデン辺境伯をブランデリック帝国に走らせるようなことをするなと言っているのだ。ただ西のデルフト公爵家としても、この要求はとても飲めなかった。現王に逆らってまで王太子を擁護していたのは、王妃としてもかわいい息子の廃嫡など飲めなかったし、公爵家としても次期王のもとで外戚として大きな権力を振るう機会を逃せなかったからだ。

それにいかにフランティエ王国が大国であっても、その脅しにすぐに屈するのは公爵家の威信が地に墜ちることを意味し、この要求は体面を考えてもとてもすぐに首を縦に振ることはできなかった。

とはいえ正面切って拒否もできず、公爵家の方針としてはのらりくらりと回答を避けることとなった。


しかし、公爵家はフランティエ王国のアルセーヌ・ローレンナ地方への本気度を読み間違えていた。フランティエ王国はすぐさま西のデルフト公爵家のフランティエ国境にある大都市であるリーレ近くで3万の兵に及ぶ大規模な軍事演習を行った。ぐずぐずしてるとこの兵でリーレを攻め落とすぞとばかりに。

これには公爵家も青くなった。公爵家の兵を総動員しても1万強が精々といったところだろう。そうなると公爵家としては、このような苦境に追い込んだ王太子とその愛人に対する視線は厳しいものになっていく。王太子はそれでも捨てられないが、原因になったどこぞの男爵令嬢をライデン辺境伯に生贄に差し出して、許してもらうのはどうかという意見もちらほらと出始めるほどに。


そしてフランティエは、ライデン辺境伯にも圧力をかけた。ライデン辺境伯領の要塞都市ナムールの近くで不審なフランティエ部隊がいくつも見かけられるようになったのだ。

ブランデリック帝国に走ろうものなら、フランティエは即座にナムールを攻撃すると暗に示したのだ。フランティエからナムールまでは道が細く大軍は動かせないが、フランティエはすぐに直属の小部隊をナムール近くにちらつかせ、その本気度を示した。そして同時にその鞭に対する飴として、ライデン辺境伯が望むのならば、独立国となることをフランティエ王国として保証、もしくは保護国化する用意があることも伝えた。


一方でブランデリック帝国だが、こちらは皇帝がいるので統一意思は出せるものの諸侯の連合体であるため一枚岩ではない。


先日、ソフィエとディルクが着いた任務の相手はブランデリック帝国の諸侯の一人エーヘン伯だ。もう数十年も小競り合いを続けている相手である。彼らはライデン辺境伯がフランティエ王国に攻められても絶対に援軍などくれないだろう。むしろ火事場泥棒を狙ってくる可能性が大きい。


一方でアルセーヌ伯、ローレンナ伯は大歓迎するだろう。フランティエ王国との戦いが激化する中で、援軍の派遣元が増える可能性があるのだ。今までも少量の輸入という形でライデン辺境伯領との物流はあったが、フランティエ王国に遠慮していた部分があり、ブランデリック帝国の一員となればたとえ兵は来なくても補給が手厚くなるのは確実だった。


そして皇帝は帝国が大きくなるライデン辺境伯の帝国への参加は歓迎する意向だった。憎いフランティエ王国の苦境は歓迎しかなかったからだ。


大陸の情勢はライデン辺境伯領を中心に、今まさに大きく動こうとしていた。

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