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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第13話 ソフィエ・ファン・ライデン(2)

気になっている。

正直にいうと気になっている以上の存在だ。


私の第一騎士ディルクは。


しかし、あの私への反応の無さはなんなのだろう。いや、忠誠心はたっぷりとこれ以上なく感じている。そうじゃなくて、女としての私に対してだ。

もしかして、私には魅力がないのだろうか。


婚約破棄の翌日、グランドマーケットに出掛けた。お父様が私を見かねて何でも買って良いと言ってくれた。出かける時は、


――やったー、お父様がその発言を後悔するような、めっちゃ高いの買っちゃう!


って思ってた。でも、普段なら心が躍るような織物を見ても、喉から手が出るような大粒の宝石を見ても、それを手に入れた私を思い浮かべたけど、何もかもが虚しく思えてしまって、結局何も買わなかったわ。


さらにその翌日、「でもこんな塞ぎ込んだままじゃいけない」って思ったの。

これから先を考えた時、王妃ではなくライデン辺境伯領で生きていくのだから、女だって辺境伯の一族なら武勇が必要よね。

それに身体でも動かしたら、少しは気分が晴れるかもしれないって。ディルクに剣の鍛錬を頼んだの。もちろん快諾してくれたわ。


鍛錬用の服装に着替えながら、ディルクが卒業式で私を守ってくれたことを思い出したわ。あの場面のディルクを思い出すと胸の奥が少し苦しくなったの。着替えを手伝ってくれている侍女のリネケがそんな私を見て、


「お嬢様、どうなされました?」


「よくあなたたち侍女が、ディルクのことをキャーキャー言ってるわよね。ディルクってやっぱりカッコイイの?」


「お嬢様が、ディルク様を気にするなんて珍しいですね。」


「そう…かしら?で、どうなの?」


「それはもう。ディルク様は侍女の中で一番人気がありますよ。若くてカッコいいし、何よりクールなのにお優しい。それにお強いですし、それに学園で上位クラスに居続けるほど頭がよい。そしてお嬢様の第一騎士として出世もしている。そりゃもう結婚したい相手ランキングのダントツの1位ですわね。」


「そんなっ、みんなディルクと結婚したいの!?」


と、ちょっと私が食いつき気味にそう言うとなんかリネケが一瞬悪い笑みを浮かべたように見えたわ。


「あら?お嬢様。…ひょっとして、ディルク様のことが?」


「しょ、しょんなことがあるわけないじゃない!」


「そうですか。でもお嬢様、これからディルク様と鍛錬なんですよね。こんな地味な訓練着ではなく、もっとお嬢様がディルク様に美しいと思ってもらえる恰好にしたらいかがですか?」


「……だからそんなんじゃ。」


「いいじゃないですか。ディルク卿にお嬢様がステキだって思ってもらえることは、悪いことではありませんよ?普通のお嬢様とステキなお嬢様だったら、どっちがより忠誠心が上がると思います?ステキなお嬢様ですよね。殿方とはそういうものでございます。」


と侍女リネケは口ではそう言った。私は一旦はそれに同意したけど、ディルクはそういうところで優劣をつけなさそうだなぁとは思った。とはいえ、


「……じゃあ、ディルクにより守ってもらえそうな恰好にして。」


と私の口はそう言っていた。

それに対するリネケは、「はいはいわかってますよ」とばかりににっこりと笑って


「はい、ディルク様がお嬢様に惚れてしまうような装いにしましょうね。」


「えっ!?いや、そこまでは言ってな…い…。」




その時、リネケは目の前で顔を赤くしてもじもじしているソフィエを見てこんなことを思っていた。


――はぁ…ソフィエお嬢様かわいいわぁ。恋するソフィエお嬢様ってこんなにかわいいのね。王太子もバカねぇ。こんなお嬢様捨てるなんて。まぁもっともあのボンクラ王太子では、このお嬢様を引き出すことができなかったわけだけど。



リネケはさっそく私を鏡台の前に座らせてメイクをしていく。


「ディルク様の好みは恐らく……しっかりとしたメイクより、ナチュラル系の方がよさそうな気がしますがお嬢様はどう思われます?」


「それもあると思うけど、メイクは最低限がいいと思うわ。これから鍛錬という時にバッチリとメイクしていくと『お嬢様は何がしたいのですか?』ってディルクは嫌がると思うの。」


「ああ、確かに。それはありそうですね。じゃあ、こんな感じで薄く…でもお嬢様の魅力を最大限に出していきましょうね。」


とリネケは冷静にそう言いながら内心では、ディルクへの好意を隠し忘れ始めたお嬢様が、かわいくてしょうがなかった。




鏡台に映る私が、段々とかわいくきれいになっていく。

これならディルクにもかわいいって思ってもらえるかな?

リネケに白を基調とした、美しい鎧を着せてもらう。


「少し遅れちゃったかしら?さぁ行きましょう。」


さぁ出陣よ!ディルク、私に見惚れるがいいわ。覚悟しなさい!



中庭に出ると、既に来ていたディルクは軽くストレッチをしていたようだ。

その出で立ちは、濃紺のチュニックに茶色のズボンといったいかにもこれから訓練といった軽装だ。ディルクは私が来たのに気付くとこちらを見た。

柔らかな黒髪に、意志の強さを秘められた――でも私にはいつも優し気なその瞳。柔和な雰囲気をもちながら私のことを見ていた。

あれ、ディルクってこんなにカッコよかったっけ。あ、やだ。顔が赤くなりそう。

やめて、私の顔、落ち着きなさい。

なんて思っていたら


「お嬢様、素晴らしいですね。いにしえのワルキューレもかくやとばかりに、とても勇ましくカッコイイです!」


は?勇ましい?カッコイイ?こんなに頑張っておしゃれしてきた私に!?


――カチーン


私は思わず剣を抜くと、ディルクに駆け出した。そのまま思い切り真剣を叩きつける。しかし、ひょいひょいと刃引きの訓練の剣でこともなげに躱された。

すると言うに事欠いて「準備運動してからがいいですよ」だって。


「うるさいっ!」


頑張ったのに!ディルクにきれいだってかわいいって思って欲しかったのに。悔しさを叩きつけるかのようにディルクに連続攻撃を加えていく。

右に左に打ち込み、さらには緩急をつけてと私の全てを尽くして斬りかかるけど、ディルクはフォークで朝ごはんのおかずを次々と食べるように、ひょいひょいと私の攻撃を躱していく。


くっ、ディルクが強いのは分かってるけど!

せめて一太刀!


しかしその願いはかなわず、私の足元が疎かになったところで、足払いを掛けられて私はステンと転んでしまう。あいたたた。

そこにすっと差し出される手。


思わずその手を取る。そのままぐっと力強く引き上げられ、私は立たされた。

あっ。手袋越しだったけど、ディルクの手の温かみが感じられてちょっといいかも。なんて思っていたのに、ディルクは私の手をあっさりと離すと、少し距離をとってまた構えた。もうちょっとだけ手を繋いでくれていても良かったのに。

…ううん、いや集中よ。こんなんじゃディルクの運動にもならない。


「もう一本!」


まだだ、まだ終われない。私はディルクにそう声を掛けると、左右に小刻みにステップを踏みながら、少しでもディルクの隙をつくろうと、工夫を凝らして繰り返し斬りかかった。でもまさに暖簾に腕押しといった感じで、ディルクはまるで堪えていない。そのうち少し考えことを始めたようだ。くっ、余裕ね。こちらは真剣だというのに。


少し経つとディルクの視線が変わった。なにやら私の身体をねっとりと見ているようだ。学園でもたまに感じた視線だ。いやらしい男の視線。あら、やだ。ディルクったら考え事をしているのかと思ったら、この鍛錬を利用して私の身体を堪能しようだなんて。やっと私の魅力に気付いたのかしら。ディルクも男なのね。

ふふん、でもディルクなら許さないでもないわ。


その後、長いこと打ち込んでいたけど、さすがに疲れてしまって中庭のガゼボで休憩したわ。

で、その時にちょっと勇気を出して聞いてみたのよね。「私の身体を見てなかった?」って。ふふん、男のチラ見は女のガン見なのよ。ディルクがどんな反応するか楽しみで。チラ見がバレて慌ててしまって、顔が真っ赤になっちゃったりするのかしらね。もしかしたら私も顔が少し赤いかもしれないけど、これだけ剣を振っていたらわからないわよね。でも、そしたら


「全体的にちょっと線が細い気がします。実戦を目指すのであれば、もう少し全体的に筋肉をつけられた方が良いと思いますね。」


はぁ!?

私の身体を見てたってそっち!?

私は思わず今まで自分が汗を拭いてたタオルを投げつけてしまったわ。

冷静に考えると、それってとっても恥ずかしいことよね。

……汗、臭くなかったかしら。


はぁ。結果的には、あの堅物には私の魅力を伝える大作戦が、全く効いてなかったのだけど!

リネケも横で苦笑してたわね。敵は思った以上に手ごわかったわ。

もうこうなったら、なりふり構っていられないわ。リネケに全面協力を頼んで作戦を練らなくては!

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