第12話 領都リュージュの休日
辺境伯都リュージュに到着した一行は、公子カスパルに出迎えられる。
ソフィエお嬢様の兄で、辺境伯家の跡取りだ。
部隊長がカスパル様に帰着の挨拶をし、その場で一行は解散となった。
私は軍区画にある寮に向かい、旅装を解いた。今日は休日で良いとお嬢様より伺っている。なので私は職人区画に向かい、馴染みの鍛冶工房に顔を出した。武具類のメンテナンスを依頼するためだ。
「おやっさん、いるかい?」
もちろん自分の父親ではない。孤児だしな。
「おう、ディルクか。戻っていたのか。」
「ああ、いつもので頼む。」
私は持ってきた剣や槍や防具一式をカウンター横の台の上に載せる。
「剣や槍は刃毀れや細かい傷が無数にあるのに、相変わらず防具には傷一つないな。これメンテの必要あるのか?」
「繋ぎの革の部分のチェックや油塗ったりとか、いろいろあるだろ。」
「まぁそうなんだけどよ……」と言いながら、オヤジは装備を一つずつ確認しながら、ディルクと書かれたタグを付けていく。
その間に俺は店内の武器を物色する。様々な剣が壁に掛けられている。細いのから幅広なもの、薄いものから厚いものまで、もちろん剣だけじゃなく、槍や矛、斧なども置いてある。
隅っこには弟子にでも作らせたのか、均一料金のワゴンセールまである。全部の武器をメンテナンスに出してしまったからな、何か一本くらい買うか。どうせメンテナンス期間中だけだからそんな良いものは必要なく、この程度でも構わないんだが……私がこんなのを持つのを、おやっさんは嫌がるだろうな。
お?でも、この剣はなかなか良いんじゃないのか?
ワゴンセールの中でひときわ目を引く剣があり、手に取ってみる。握りも悪くない。剣の重心も自分好みだ。軽く振ってみる。うん、悪くない。
「おやっさん、ワゴンセールで悪いんだが、これいいか?武器が1本も無くてな。というか、これだけワゴンセールの中で物が違う気がするんだが。」
「ディルクなら気付くか。それはわしの一番弟子の作品でな。わしもワゴンセールじゃなくて、表に出して販売していいと言ったんだが、なんかまだ納得言ってないらしい。生意気いうなって言ったんだがな。」
「はは、頼もしいじゃないか。じゃあ、これとこれに合う鞘とメンテ代金合わせていくらだい?」
私は言われた代金を払い、真新しい剣を腰に差して鍛冶屋を後にした。
昼の時間になったので、馴染みの飯の美味い定食屋に入る。夜は酒場になるタイプの定番の店だ。昼の時間には少し早いのだが、さすがだな。店内は結構にぎわっている。
ん、あそこが空いてるか。
「おかみ、久しぶりだな。そこ空いてるけどいいかい?」
「おや、ディルクじゃないかい、久しぶりだね。もちろんだよ。メニューはオススメでいいかい?」
「ああ」と答える。その一連のやりとりで店内が一瞬シンと静まる。少しすると喧騒がまた戻ってくるが、「あれが噂の青い死神……」とか聞こえてくる。戦場で畏怖されるのは歓迎だが、普段は煩わしいだけだな。
そこで横から水が注がれたコップが差し出される。思わず受け取って飲んでから、その差し出し主がこちらをじっと見つめていることに気付く。ん?マスターとおかみの娘か。
「大きくなったなぁ。前はこんなに小さかったのに」
と明らかに小動物程度の大きさを両手で示してからかうと、頬を赤らめたまま分かりやすくぷくぅと膨らまして
「5歳くらいしか違わないし、それにそんなに小さいわけないでしょ!でも、どう?私も大人の女になったでしょ?」
と一丁前に片手を首にもう片手を腰に当て、セクシーポーズをとって見せたが、所詮は10歳そこそこの小娘だ。「全然子供」とデコピンしてやる。「痛っ」と額を押さえているが、少し嬉しそうだ。それを見たおかみさんも苦笑している。
しばらくすると料理が出てきた。分厚い木のトレイに熱々の鉄板、脇には人参やブロッコリーが添えられている。その焼けた鉄板の中央には、香辛料がたっぷりかかった羊の骨付き肉がジュウジュウと音を立てている。
羊肉のスパイス焼きか。すごい美味そうな匂いがする。さっそく骨の部分を手に取って、口にする。ほっほっ、アツアツだ。一口噛むと、まずスパイシーな香りが鼻を抜けて、そのあと肉汁がドバドバと口の中で溢れてくる。おおう、これは美味いな。食が進む。あ、そうだ。
「おかみ!王都からの帰還時に、結構な量のスパイスを持ち帰ったからな。しばらくの間、値段が下がるんじゃないかな。明日にでも市場に行ってみるといいぞ。」
「ありがたいねぇ」という声が向こうの方から聞こえてくる。
その勢いのままに全てを平らげた。美味かった、満足だ。食後のコーヒーを楽しみながら、しばし娘の相手をしてやりつつ、領都の情報収集をした。
ふうむ、特に変わりはなさそうだな。「また来る」と定食屋を後にした。
その後、領都リュージュの目抜き通りを歩く。ご令嬢の私に対すると思われる声が多少煩わしいが、街で青い死神呼ばわりされるよりはマシか。
目的地の高級パン屋でお嬢様へのプレゼント用に、ふんだんにドライフルーツが使われているジンジャーブレッドを買った。その後は警邏隊の詰め所に立ち寄り、ここでも自分が不在にしていたここ一年間の街の様子を聞いたり、治安状況を確認したりした。
細かな事件はいろいろとあったようだが、特筆すべきことはなかったようだ。まぁ平和なのはいいことだ。
大体の予定を済ますことができた有意義な一日だった。
しかしいつも騒がしいお嬢様がそばにいないのが、少し物足りなくもあったことに気付き、そのことは少し私を驚かせた。




