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冤罪令嬢と青い死神の逆襲  作者: 崖淵


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第11話 船旅

マース川の水面が陽光にきらめき、両岸の森が静かに揺れていた。

ゆるやかな川の下りの船旅は快適だった。

辺境伯領であることから、もともと何者かの襲撃を危惧する必要はあまりない。とはいえ賊が出ないとも限らないが、川の上の船は賊を寄せ付けない。船の上からクロスボウで撃ち放題だからな。


森の中を流れるこの川は比較的大きいので両岸の木の上から船に飛び乗れたりはしないが、木陰から狙撃がないとも限らず、お嬢様が船上に出るときは注意する必要があるな。


目の前でお嬢様は森林浴を楽しんでいるようだ。

本当に元気になられたようで良かった。

むしろ、心なしか以前より明るくなられた気がする。故郷に帰れるのが嬉しいのだろうか。

そうやって、お嬢様を見ていたら「なぁに?」と尋ねられてしまった。


「元気になられたのは重畳ですが、むしろ王都で学園に通っておられたときより明るくなられたような気がして。」


「あら、ディルク。超がつく鈍感な朴念仁だと思っていたのに、そういうのは気が付くのね。」


くっ……いきなりか。主君にのっけから罵倒されるとは。

隣の侍女がお嬢様に紅茶を淹れているが、かすかに顔を背けながら、手が小刻みに震えているのはわかっている。まさか侍女にまで笑われるとは。

じろっという私の視線に気付いたのか、侍女は完全に私に背を向けた。

それはそれで失礼だと思うのだが。

しかも今や肩まで震えてるし。


「そうね。確かに王都で学園に通っていた時より、もしかしたら今の方が楽しいかもね。王妃教育は確かに大変だったわ。10年以上にも及ぶ努力が無になったのは確かに悲しいし悔しい。でも全てが無駄になったわけではないわ。」


そこで話を一旦区切ると、ソフィエお嬢様は両手両足を広げ、「うーんっ!」とまるで何かから解放されるかのように思い切り伸びをした。ちょっと辺境伯令嬢としてはややはしたない気がして、私は確認するかのように横の侍女を見た。すると一瞬視線が合ったが、またもや視線を逸らされた。侍女も黙認するということなのだろう。まぁ自領地内だし、よしとするか。


「でもね。王太子との婚約、ひいては国母になることに、今考えるとすごいプレッシャーを感じていたのかもしれないわ。それから解放されたのが今はとても嬉しいの。」


そうか。ならばよかったと思うべきなのかもしれないな。あのような王太子と結婚しても良いことは何も無かっただろうし。


「だから、これからはこの辺境伯領で辺境伯の娘として、役に立とうと思っているの。ここは紛争や小競り合いが多い地で、その方面でも役に立ちたいと思っているわ。それこそ王妃教育のほとんどは無駄になってしまうかもしれないけど。でもそのためには更なる鍛錬が必要だと思うから、ディルクも先生役をよろしく頼むわね。」


その心意気は、お嬢様だけでなく辺境伯領の全ての者にとって良い結果を生むだろう。そしてそういう心づもりならば、教師役に力も入るというものだ。


「はっ、そういうことでしたら、これまでと違って厳しくお嬢様を鍛えさせていただきます。」


「えっ?今までも結構厳しかったと思うのだけれど、手加減されてたの?

あの……一応か弱い令嬢が主君であるということを念頭においてお願いするわ。」


お嬢様が顔をわずかに引きつらせて答えた。

そうだな。お嬢様は確かにか弱い令嬢で、そこは考慮に入れないといけないな。


「かしこまりました。お嬢様が戦場に出るにおいて懸念されている”か弱さ”が解消されるように、《《ビシバシ》》といかせていただく所存。」


「違う!そうじゃない!」


ガタンと立ち上がりテーブルを叩くお嬢様で、ティーセットがカチャッと音を立てた。

元気があり余っているな。これは鍛錬が楽しみだ。思わず笑みを浮かべてしまった。

そんな私を見て疲れたようにまた椅子に座るお嬢様。

お嬢様はしばらく船からの風景を眺めていたかと思ったら、


「……私はもう貴族としての幸せな結婚は諦めているわ。

貴族の相手を求めようと思ったら、年取った貴族の後妻とか妻が何十人もいる好色貴族の妾の一人とかでしょうけど、それは嫌だしお父様もそんなところに嫁げとは言わないと思うわ。

だからもし結婚するのなら、そのうちどこかの身内の下級貴族とか騎士とかに、嫁ぐことになるのかもしれないわね。」


といって私をちらっちらっという感じで見ている。

お嬢様の頬が心なしか上気しているような。ふうむ。だが、今後の主君のためにも心を鬼にして、間違いは正しておくべきだろうな。


「お嬢様は割とお金がかかる女性なので、相手が大貴族ではないなら、下級貴族や騎士といった収入が少ない相手より、豪商の妻とかの方がよいのではないですか?」


――バーン!


「違う!だからそうじゃない!」


先程のシーンを巻き戻すかのように、ガタンと立ち上がってテーブルを先程より強く叩くお嬢様。ティーセットが衝撃でほんの少し浮いた。


そうかな?お嬢様は大貴族の娘として今まで育ってきたし、自然と金銭感覚もそのようになっていると思うのだが。同意を得ようと横の侍女を見たが、彼女は俯いていたのでそれは叶わなかった。


まじめな話をしているつもりだったが、侍女の肩はまたもやぷるぷると震えていた。

一連のやり取りでおもしろい場面なんてあっただろうか。

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