01:はじめまして
「・・・ぅ」
身体の右側が冷たい。ていうか硬い。痛い。
「ったぁ」
何故かとてもダルイ身体に力を込めて、ゆっくり起き上がる。
陽菜がいた場所は薄暗く、そこはかとなく妖しい雰囲気を漂わせていた。
でも、いかにもな感じの赤黒い染みが壁に付いていたり、生贄に使われる動物が吊るされているようなことはなかった。一安心。
わたしはこの部屋の床に寝転んでいたようだ。
「・・・どこ、ここ」
私の足元には、あの時に見た魔法陣が描かれている。
「・・・・・」
小説の中だけだと思っていた異世界召喚を、まさか私が体験することになるとは・・・・・。
人生なにが起こるか分からない。
もしこれが小説と同じなら、私は勇者になって魔王を倒しに行かなければならないのだろうか?
・・・無理だ。
私は剣道を習っているわけでも、柔道を体得しているわけでもない。身体能力もまさに人並みだし、頭も良くない。ただ1つ、5年間続けているバレーボールのサーブの威力だけは自信があるが・・・そんなものが役に立つ日が来るとは思えない。
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それにしても、全く人が来る気配がない。
まさか忘れられてる?!
・・・・・・・・・・。
「なんなのよ」
あぁ、涙がでそうだ。
『・・・っ!』
「え?!」
今、人の声がした!!
『召喚式が輝いてるのに、そのまま放って置く馬鹿があるか!!』
『す、すみません~!まさか、ぁ、成功する、と、は思わなく、て・・・けほっ』
『お前が喚んだんだから最後まで責任を持て!』
『だ、だって、化け物が、っ、出てくるかも、と、思ったら、怖くなっ、ちゃって・・・!』
2人いるみたいで、走っているのか、片方は息も切れ切れだ。
声はどんどん近付いてくる。
ていうか、“まさか成功するとは”ってなんだ。“化け物が出てくる”ってなんだ。
勇者様を召喚したとかじゃない事は分かったけど、何か腑に落ちない。
嬉しいような、残念なような・・・。
・・・・特別な力が授かってるかもとか、ちょっと、ちょっと期待してたのに。
『・・・入るぞ』
『はいぃぃ・・・』
バタン!
「ん?」
「え?」
「・・・はじめまして」
扉から入ってくる光が眩しくて眼を細めながら、よく見えない2人の異世界人に向かって、私は小さく頭を下げた。