09:ある意味予想通りの訪問客
「ヒナ~」
「・・・・・」
「ヒーナー起きて!」
「・・・・ん~・・」
「お風呂入りに行くんでしょう」
「ぅ・・・・え?」
「お・ふ・ろ!お父様が寝てるうちに行っちゃいましょう?」
「は!そうだった!おはよう、フィルちゃん!!」
「おはよう、ヒナ。さぁ、顔洗って着替えましょう」
「はい!」
朝からフィルちゃんの輝く笑顔。バッチリ眼が覚めましたとも!
なんと、この家は水道がキッチンにしか無くて、わざわざ外の井戸まで水を汲みに行かなくちゃいけないんだって。今日はフィルちゃんが持ってきてくれたけど、明日からは私もお手伝いすることにした。なんたって居候。朝練で早起きには慣れてるから余裕余裕!
服はフィルちゃんの小さい頃の服を借りました。何から何までありがとうフィルちゃん!
クリーム色のワンピースで所々花のコサージュがついていて可愛い。私にはちょっと可愛過ぎるんじゃないかって言ったんだけど、フィルちゃんに押し切られてしまった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「おぉ~」
「どう?ここが公衆浴場“ユリア”よ」
「でっかいですね~」
「ふふふ・・・さぁ、さっそく入りましょうか」
大理石っぽい真っ白な石で出来た公衆浴場は物凄くでっかかった。東京ドーム何個分?!ってくらい広い。早朝だから人は疎らにしかいないけど、頑張ればうん百万、うん千万人くらい入るんじゃないだろうか・・・分かんないけど。聞いたらこんなおっきい建物がこの国には十幾つあるらしい。すごいなぁ。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「お、おおおおおお~」
「ふふ、どう?気に行ってもらえた?」
「うん・・すっごい綺麗・・・・・」
「良かった。さぁ、入りましょうか。見ているだけなんて勿体ないわ」
「はい!」
外装と同じ白い石の壁にお湯の蒸気が舞ってちょっと幻想的。
お風呂の種類はたくさんあって、50mプール並みの広いものや子ども用の浅いもの、ジャグジーみたいに泡がぶくぶくたっているもの、流れるプールみたいなものやお湯が滝みたいにザーザー落ちているものも、怪しい紫色をしたお風呂もある。奥には水風呂もちゃんと用意されていた。確実に20種類以上あるぞ!
すごい!すごいよ!こんなお風呂なら女の子じゃなくても長湯しちゃうよね。
あ、ちなみの男湯と女湯は別れてた。まぁ、当たり前だよね!
昔のローマやギリシャみたいに混浴じゃなくて良かった・・・。
とりあえず、一番近くのお風呂に入る。
あ!ちゃんと身体洗ったよ!お風呂に入るルールは日本と同じみたい。
「!」
なんか肌がパチパチする。炭酸に指突っ込んだ時みたい。おもしろいなぁ。
「このお湯はね、肌にとても良いのよ。私、このお風呂には毎日入るようにしてるの」
「へ~」
フィルちゃんの美しさの秘訣が今1つ明らかに!
・・・・・・それにしても、ホントにフィルちゃん綺麗だなぁ。
顔は勿論だけど・・・身体も、ほら、ボンキュボンって・・・・・・・・・その凹凸が羨ましい。
チラっと自分の身体を見下ろして・・・眼を逸らした。
いやいや、あきらめるな私!まだ高校生!きっと育ってくれるはず!!がんばれ私の成長ホルモン!!
その後、2,3つお風呂に入って出た。本当はもっと入ってたかったんだけど、そろそろディアさんが朝ご飯を用意してる時間だと言われて諦めた。
1日の元気は朝ご飯から!はやくディアさんのご飯食べたいな!
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「ただいま」
「ただいまー」
「おう!やっと来たか!待ちわびたぜ」
・・・・・ん?今の声誰だ?ディアさんはそんな男らしい声してないぞ。
「ゼオさん、お久しぶりです」
「よう!フィル。相変わらず美人だなぁ。飯はたくさん食ってるか?」
リビングの奥。
食卓のいわゆる誕生日席に、椅子の背もたれを抱きしめるようにして座っている男の人がいた。短髪黒髪に蒼眼で小麦色に焼けた肌、30代後半っぽいのに子どもみたいにキラキラ蒼い眼を輝かしている。着崩した服がこれでもかってくらい似合っていて、矛盾するけど気品のある野生児・・・みたいな。自分で考えておいてなんだけど、うん、おかしい。
「ふふふ、ありがとうございます。たくさん食べてこの通りです」
「そりゃー良かった。・・・お?その子が“渡り人”か?」
「そう。ヒナ・サクマちゃんっていうんです。可愛らしいでしょう?」
「あぁ、そうだな。俺はゼオ・ヘアリッヒ・セルクルだ。よろしくな!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ん~?セルクルって、どっかで聞いたような・・・・・?
「それにしても・・・・・・・・ディア!お前、両手に花じゃねぇか!」
ゼオさんがキッチンに向かって声を上げた。
そっか。ディアさんがリビングにいなかったのはご飯作ってたからか。
「黙れ、穀潰し」
「ひでぇ!」
キッチンからディアさんが出てきた。両手にはホカホカ湯気を上げるパンが入った籠とサラダを持っている。
くっ!お腹が鳴っちゃいそうだよ・・・・・!匂いだけでこの威力。
「ただいま、お父様」
「ディアさん、ただいまー」
「あぁ、おかえり。・・・ヒナ、風呂はどうだった?」
「すごかったですよ!楽しかったです!」
「そーかそーか」
何故か私の言葉にゼオさんが笑顔になった。
「鼻高々だな~。公衆浴場建てさせたの俺なんだぜ」
「え!そうなんですか?」
以外とお偉いさんなのかな?どうみても気の良いおじさんにしか見えないけど。
「まぁ、そこは認めてやるよ」
「うんうん。もっと褒めてくれ」
「調子に乗るな」
「手厳しい・・・」
「あ、あのぅ・・・」
お二人の仲が良いのは分かったので、はやく朝ご飯を!お腹減った!
「・・・あぁ、飯ならできてる。フィル、手伝ってくれ。ゼオ!お前も水くらい汲んで来いよ」
「はい、お父様。ヒナちゃんは好きな場所に座っててね」
「あ、はい!」
「げ。水なら汲まなくてもすぐ用意できるだろ~」
「知らないのか?“働かざる者食うべからず”って言葉があってだな」
「分かった!分かった!誠心誠意働かせていただきます」
「とっとと行け」
「ったく・・・・・王に対してこの態度はなんだよ~」
「なんだ、王様扱いしてほしいのか?」
「・・・勘弁してくれ」
「早くしろよ」
「へいへい」
よ~し。異世界に来て早2日。こういう事態にも耐性がついてきたぞ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゼオさんって王様なんですか?」
・・・・・動揺を隠しきれなかったみたいだ。
そういえば、この国の名前ってセルクル国だったな~。今更。
「お~そうだぞ。今はな」
「・・・今は?」
「そうそう。2カ月後に退位式があるんだ。それが最後の大仕事だなぁ。早く隠居してぇ」
「だからってここに入り浸るなよ」
「え~」
「え~じゃねぇ。いい年こいた男が何言ってんだ」
私が思考停止している間にキッチンからコップとミルク(だと思われる)を持ってきたディアさんが、それを並べながら言った。
この2人の関係って何なんだろう?
・・・・・あと、王様にため口のディアさんって何者なの?
「仲良いですね」
「・・・・・」
ディアさんがちょっぴり嫌そうな顔をした。え?なんで?!
それに反してゼオさんは満面の笑みになった。
「だろ~。俺とディアは親友で戦友なんだよ」
「え、戦友?」
「一緒に世界を救ったんだぜ」
「えぇ~」
なんでだろう。すごく胡散臭い。
世界を救ったって、そんなファンタジー
あー、そっか、ここ異世界か・・・
「あ、信じてねぇな。本当だぞ!なぁ、ディア」
「まぁなぁ」
「おいおい、そんな返事じゃ信じてもらえないだろ~」
「・・・そんなことより、ゼオ」
「なんだ?」
「水汲みはどうした」
「あ」
ゼオさんは椅子から立ち上がってもいない。
私が話しかけちゃったから?ごめんなさい・・・
「お父様。全て整いましたよ」
「よし。じゃあ、ゼオ。お前出てけ。ヒナ、朝飯にしよう」
「はーい!」
ご飯!ご飯!!ごめんね、ゼオさん!私は自分のお腹の方が大事なの!!
「え、ちょ、ま、待て!」
「黙れ役立たず」
「・・・・・穀潰しと役立たずだと、どっちのがマシなんだろうなぁ?」
「どっちもどっちなんじゃないですか?」
言いながらもパンを千切る私。ちゃんといただきます!って言ったよ。
王様って分かっても緊張しないのは、ディアさんやフィルちゃんの対応を見てるからと、ゼオさんの雰囲気が気安いからかな。
こういう王様いいなぁ。
「え、え~!!ちょ、待てって!ようは水がありゃいいんだろ!?出す!今出すから!」
「・・・・・・・・・・まぁ、いつまでもグチグチ言われたら落ち着いて食えないし。譲歩してやるよ」
「よっしゃ!」
出す?キッチンの水道から持ってくるのかな?
「ヒナ」
「ぅわ、はい!」
「まだ見た事なかったよな」
「?何をですか」
「魔法」
「・・・・・魔法!!」
きた!ファンタジーの王道!
やっぱりあったんだ!よっしゃ!・・・え、生で見れちゃうの!?
「ゼオ」
ゼオさんはフーと息を吐くと口を開いた。
【 我が眷属よ
蒼き息吹をここに在れ 】
呪文を唱えながら、ゼオさんが円を描くように右手を動かす。
すると、そこに水の塊がじわじわと現れてきた。
「お~!すごーい!」
私がパチパチ拍手をするとゼオさんが満足そうな顔で胸を張る。
「で、これどうすりゃいいんだ?」
「適当な樽にでも入れといてくれ」
「わかった」
うーーーわーーー!!
魔法!魔法だよ!タネも仕掛けもありません!すごーい!
思わずパンを落としちゃったくらい、すごかった!
「うわー・・・すごい・・・・・」
「ふふふ、口が開いてるわよーヒナ」
「わわ!」
「ヒナの世界には魔法がないのね」
「うん!話の中にはあるんだけど・・・」
「私は使えないんだけど、お父様も魔法使えるのよ」
「え!そうなんですか?ディアさん」
ディアさんを見ると、キャベツ(たぶん)にフォークを刺しているところだった。
それでも、一枚の絵画のように見えるディアさんマジック。
「あぁ。・・・フィルにヒナの事を伝えた時にも使ったな」
「お父様は風系統が得意で、ヒナが来るって分かった時にそれで伝えてきたのよ」
「え!そうだったんだ!全然気が付かなかったんですけど、いつ呪文唱えてたんですか?」
「俺が風魔法を使うとき呪文は必要ないんだ」
「え?なんでな―――」
「めーーーしーーー!」
「うるさい」
「やっと食えるぜ!精霊の恵みに感謝を!あ、フィル。パン取ってくれ」
「どうぞ」
「はぁ・・・もっと静かにできないのか?」
「何言ってんだ!飯は楽しく食ってなんぼだろ!」
・・・ゼオさんに思いっきり質問を遮られた。
もう一度聞こうか迷ったんだけど、ゼオさんの食べる勢いが凄くて私の分を取られまいと競うように食べてたら、すっかり質問のことを忘れてしまっていた。
陽菜がだんだん慣れてきて素の喋り方が出始めてます^^
王様出てきたと思ったら2カ月後に退任式
王子達も出せたらいいなと思ってます
呪文ってすごく考えるのめんどくs・・・難しいですね
タイトルと呪文に物凄く時間を割いてこのていたらく・・・
総PV10000越え ありがとうございます!!
物語りを書く糧になってます(´∀`*)感謝!