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08.診察室再び

2人が俺を見ている。


「え?!何?!いきなり人の名前?!」

遥が気味悪そうに俺を見ている。

やめてそんな目でお父さんを見ないで!!!


何とか誤魔化せないか!?

「あー、いやあ『遥か彼方に俺の希望はある!』みたいな?」

「何言ってんのこいつ!?」

「ダイゴ知り合いなの?」

知り合いというか娘だよ。

「私知りませんこんな奴」

はるかーおとーさんだよー。

「一方的な知り合い・・・・?」

光が難しい顔をしている。

「(娘だから)知り合いじゃ無いし、(名前言っちゃったけど)偶々俺の独り言が名前に聞こえただけじゃないか?」

そういや俺記憶喪失設定だったんだっけ。

脇も背中も冷や汗すげー・・・・。

何とか笑いながら言ったつもりだが。

顔が引きつっていたのだろうか?

「・・・・何こいつ気持ち悪い」

遥辛辣過ぎないか?

「遥ちゃんそれはちょっと言い過ぎかも」

光お前馴れ馴れしく『遥ちゃん』呼びしてんじゃねー!!!


「どうしたの?遥ちゃん来たの?」

エミさんが診察室から出て来た。

「エミさんおはようございます。今日もよろしくお願いします。」

遥がエミさんにお辞儀をしている。

「ダイゴどうしたの?凄い汗だけど?」

光が俺の汗の量にびっくりしたようだ。

「また具合悪い?ちょっと休んでから行くかい?」

「ダイゴ君大丈夫?」

エミさんが俺に声をかける。

「大丈夫ですあはは。ちょっと暑いですかね?」

冷や汗なんで大丈夫です。

「ダイゴ君ちょっと待ってて。水を持ってくるわ。ごめんね遥ちゃんもちょっと待っててね。」

エミさんが行こうとしたが、光が「僕が行きます!ついでに犬の様子を見て来ます!」と診察室へ入って行った。


「それじゃあもう一度ダイゴ君診察させて」

診察室のドアを開けてエミさんが言う。

「あーいやあ本当にもう大丈夫ですから。それより遥・・・・さんを」

さん付けなら怒らないだろうと思ったら、エミさんと遥が顔を見合わせて困っていた。

「今遥ちゃんを診ると光が戻って来た時にちょっと・・・・。」

「そうですね・・・・。あんた診てもらいなさいよ。」

俺を見る遥の目が冷た過ぎる。

エミさんが手まねきしている。

仕方なく俺は診察室に入った。


エミさんに言われて診察台に横になった。

エミさんは俺の全身にくまなく手を翳している。

心地良い風を感じるなあ。

「昨日治療はしたから大丈夫なはずなんだけど。うーん。うつ伏せになってもらって良いかしら」

言われた通りうつ伏せになる。

「そうねえやっぱり大丈夫ね。もしかして遥ちゃんが可愛かったから緊張しちゃった?」

遥が超絶可愛いのは間違いありませんが、そういう緊張では無いです!とは言えないので黙っていると、エミさんはふふと笑いながら「からかってごめんなさいね」と勘違いしたまま自己完結させた。

こういう時の若者の反応を側から見るのは楽しいが、実際ターゲットになると困るものなんだな。

俺も気をつけよう。


「今日は光と一緒に行動してね。万が一ダイゴ君に何かあってもあの子と一緒なら連絡取れるから。」

「分かりました。」

「そろそろ光が戻って来るかしら?そういえばダイゴ君も犬の赤ちゃん見るでしょ?」

「あ、はい。輝さんと光君に誘われました。」

「あの子達犬大好きだから。付き合ってあげてね。」

やっぱり白木兄弟は犬好きなのか。

でもここで言う犬ってケルベロスなんだよな。

そういや遥も赤ちゃんの話をしていたような・・・・。

コンコンと屋敷側のドアからノックの音がして、光が戻って来た。

肩にかけたトートバッグに2リットルの水のペットボトルが何本か入っている。

「母上、やはり待合室にウォーターサーバーを置きましょう。」

「そんなにたくさん持って来たの?必要かしら?」

「絶対必要です!特に今は外が暑いですから、ウォーターサーバーがあれば皆さん気軽に飲めますし。」

「でも場所取るし、紙コップだし、お洒落じゃないもの。水差しとグラスで良いんじゃない?」

ん?

あれか。

部屋にあった水差しとグラスはエミさんの拘りだったのか。

「あれはこちらの世界でも気軽に使えるものではありませんよ?ダイゴは使ったかい?」

急に俺に話を振られたが、まさに今あの美しい細工を思い出していたのでぶんぶんと思い切り横に首を振った。

「やっぱりそうだよね。あれは使いにくいよね。あ、ごめん。水飲んで。」

光は話しながら手際良くトートバッグからペットボトルを出して棚に並べた後、紙コップを机にいくつか並べて水を注いで俺に渡してくれた。

エミさんにも渡してすぐ待合室にいる遥を呼んで来た。

遥にも紙コップを渡す。

光はひと仕事終えたという感じで、腰に手をあてて紙コップの水を飲んでいる。

「光さん、ワンちゃんの様子見て来たんですよね?どうでした?」

遥が紙コップを持ったまま光に聞く。

やはり遥も誘われているのか。

「まだ産まれて無いよ。今は犬飼さんが付きっきりで見てる。多分昼過ぎになるみたいだけど、遥ちゃんはどうする?」

「待たせてもらえるのでしたら私も見たいです。昨日私を助けてくれた子の子供なんですよね。」

「そうだよ。ケンシロウの子だよ。さっき見たらずっと犬飼さんの近くをうろうろしてた。お父さんになるから落ち着かないのかも。」

・・・・俺も遥が産まれる時は立ち会い出産だったが、分娩室であまりにも右往左往してしまって「邪魔です」と看護師さん達に追い出されたんだった・・・・。

後であやめには物凄く怒られた。

ケンシロウとやらは俺みたいに追い出されないと良いが。

光と遥の話も終わったようで、エミさんから「ダイゴ君は大丈夫だし、そろそろ遥ちゃんの診察をしたいのだけど、男の子がいたら診られないから2人とも退室願いたいわ。」と言われてしまったので、俺達は診察室を後にした。


待合室で光が「ちょっと待ってて」と受付カウンターで何かを書きはじめたので、俺はソファに座って遥の事を考える事にした。

何故遥は高校生の姿なのか?

これは我が家に起きた異変なのか?

もしかしてあやめも高校生の姿になってしまっているのだろうか?

それなら大騒ぎになるだろうから遥が朝からここには来ないだろう。

ならばあやめはそのままの姿なのだろうか?

そもそも今日は我が家に災厄がやって来るはずだが、遥はここに居て良いのだろうか?

既に災厄にキャンセルの連絡をしてくれているなら良いのだが。

いや、それより昨日遥が怪我をしたという話だったが、昼間遥が出かけた様子は無かったし、そもそも俺は知らない駅に終電で着いて白木家に世話になった。

じゃあ遥はどうやってここに来たのか。

色々考えてみたが全く分からない。


「ダイゴ、お待たせ。」

「ああ。もういいのか?」

声をかけられたので、俺は考えるのを中断してソファから離れた。

「受付の人が分かるようにペットボトルと紙コップの事をメモしておいただけだから。多分母は伝えてくれないだろうし。」

「ふーん」

光が近くにあった卓上カレンダーの下にメモを置いた。

「これなら風で飛んだりしないよね。」

「大丈夫じゃね?」

俺は卓上カレンダーを見た。


あれ?

おかしい。

このカレンダーはおかしい。

西暦がおかしい。


「じゃあ今度こそ行こうか。」

「なあ・・・・、聞いてもいいか?」

「どうかしたかい?」

記憶喪失のふりをしながら西暦を確認するのは難儀だが、疑問は解決したい。

「このカレンダー、今のだよな?」

「え?うんそうだね。間違いないよ。」

「今日は何曜日だ?」

「火曜日だけど・・・・、ダイゴ何か思い出したの?」

「・・・・いや、そういう訳じゃないんだが、光は学校に行かなくても良いのか?」

「もう夏休みだからね。遥ちゃんも昨日は部活で山に来てたそうだから。多分この辺りの高校は夏休みのはずだから、ダイゴも夏休み中だと思うよ。」

「そうか・・・・。ならいいんだ。」


良くない。

良くない!

全然良くない!

掌がじっとりと湿っている。

光がドアを開けてくれている。

俺は外に出た。


カレンダーが正しいなら、ここは昨日までの俺がいた世界では無い。

カレンダーは10年前のものだった。

10年前、確かに遥は高校生だった。

ならば俺は?

10年前、40歳の俺はどうなっているんだ?!

そして目の前のこいつは?

光は?

恩人は10年後大罪人となるのか?!

俺に災厄をもたらすのはお前なのか?!


「今なら丁度バスの時間に間に合うよ。ちょっとだけ急ごう。」

木々に囲まれて目立たない『白木医院』の看板を背にして坂道を降りながら、俺は前を歩く光の後頭部を睨む事しかできなかった。


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