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06.君の名は

「次、私、よろしく。」

赤茶色の髪の青年が話しかけて来た。

「私、(てる)です。日本語、上手くない。」

「兄は父の仕事を手伝っていて、こちらの世界ではあまり生活して無いんだ。」

白木が補足する。

「輝さんですね。よろしくお願いします。」

俺はぺこりとお辞儀をした。

座りながらなのでマナーが正しいのかは分からないが。

「君、名前、分からない。名前、つける?」

「兄さん!」

白木が輝さんと分からない言語で話し始めた。

今のうちに飯を食べてしまおう。

もうテーブルの上には俺の食べかけの皿やコップ以外見当たらない。

メイドさん達も俺が食い終わらないと片付けられないし。

しかし何を食べても美味い。

冷めても美味い。

あやめが作ってくれるおにぎりと味噌汁の朝飯も最高に美味いが、白木家の朝食はとても良かった。

メイドさんにコーヒーのおかわりを聞かれたのでありがたくお願いする。

いつの間にか白木と輝さんは静かになっていた。

2人が俺を見ている。

「ごめん。名前。記憶、無い、のに?」

輝さんが悲しそうな顔でそう言うと、白木がちょっと怒った顔で「兄が失礼な事を言ってすまない」と、輝さんが俺の記憶が無くて名前が分からないなら呼び名を付ければ良いのでは?と不躾な事を言っていたと解説してくれた。

兄弟喧嘩させてすまん。

実際記憶はばっちりあるので、騙している俺の方が心苦しい。

「気にしてないです。呼び名はあった方が良いですよね。」と言ってみたものの、さて、どうしたものか。

ふと、愛犬大五郎の可愛い姿が思い浮かんだ。

今朝の散歩はあやめとだろうから早めに切り上げられたに違いない。

大五郎すまん。

帰ったら超ロングコースで散歩してやるからな!

また2人は俺が分からない言語で話し始めた。

どうやら俺を何て呼ぶかでまた喧嘩しそうな空気を醸し出していたので、犬といえばポチだよなあと思って「とりあえずポチとか」と言ってみたのだが。

2人が俺を見て一瞬静かになったものの、揃って顔を顰めて「ポチ?」と言って、また分からない言語で話し始めた。

どうやら向こうの言語でも「ポチ」は人間に対しては使わない名前らしい。

ちなみに大五郎は捨て犬で、遥が高校生の夏休みに外で弱っているのを見つけて、家にいたあやめを呼んで動物病院に連れて行ってそのまま一緒に帰って来たのだった。

晩飯の時に俺が酔っ払いながら「犬だからポチ!」と名付けようとしたら「真面目に考えて!」と遥にめちゃくちゃ怒られたんだよなあ。

結局大五郎という名前は遥が命名したのだが、何故大五郎なのか聞いたらその時俺が飲んでいた焼酎が大五郎で、名前の響きとラベルの書体がかっこよかったからだそうだ。

俺には遥の感性が良く分からないが、こうして大五郎は我が家の一員となったのである。


しかし「ポチ」なる名前が異世界でも不人気となると、我が愛犬大五郎の名を借りるか・・・・。

「あのー、そうしたらだいご」

「ダイゴ!!」

ぱあぁと2人の顔が明るくなって「ダイゴ!ダイゴ!」と連呼し始めたぞ?

「大五郎」の「郎」がまだ言えてませんが?

「もしかすると、ダイゴ様を御存知なのかい?」と白木が言うので俺が「知らない」と答えると、ダイゴ様というのはあちらの世界の神様だそうで、とても信仰されているそうだ。

簡単にまとめると文武両道と言った感じの優れた神様だそうで、男の子が生まれると、良くあやかって付ける名前だそうだ。

こっちで言う太郎みたいな感じなのだろうか?

「じゃあこれからは君の事をダイゴと呼ばせてもらうよ。」

白木がニコニコしながらそう言った後、

「ダイゴ、これから、よろしく。」と輝さんもニコニコしながら言ってくれた。


俺達の会話が一段落したのを察したメイドさんがコーヒーを注いでくれた。

輝さんはミルクを入れていて、白木はブラックだ。

兄弟でも好みって違うんだなあ。

そんな事を思いながら俺もブラックで飲んでいると。

「ダイゴ、ブラック。ヒカリもブラック。私ミルク必要。」と輝さんが俺と白木を見ながら言った。

俺と似たような事考えてるんだな・・・・。


ん?

今輝さん何て言った?

ダイゴは俺。

私は輝さん。

じゃあ「ヒカリ」は?


俺は思わず「ヒカリ?」と口にしてしまった。


白木が「?」という顔をした後、ちょっと上を向いて「ああ」と言ってから「自己紹介がまだだったね」と俺の目を真っ直ぐに見た。

「僕は白木光。こちらの世界では高校三年生だよ。改めてよろしくダイゴ。」


・・・・まさかの恩人の名前が、よりにもよって今日一番聞きたく無い名前だとは。

幸先悪すぎないか?

しかし白木家で世話になっている以上「白木」呼びでは具合が悪いのもまた事実。

仕方無い。

恩人の名前が偶々大罪人と同じだっただけだ。


「こちらこそよろしくな。光。」

そう言って俺はコーヒーを飲み干した。

やけに口の中が苦く感じるが、今は我慢だ。

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