04.起床
何処からか、良い匂いがする・・・・。
何の匂いだろうか・・・・?
あれ?
今何時だ?
目が覚めた。
ふかふかの布団が気持ち良い。
良い匂いは布団からだったようだ。
何の匂いかは分からないが、俺の加齢臭とは真反対のとても良い匂いだ。
ずっと包まれていたい。
高級ホテルの布団ってこんな感じなんだろうか・・・・?
出張は毎回その地域の最安値のビジネスホテルしか取ってもらえないからなあ。
こんな布団で寝られるなら出張も頑張るのだが。
いや、布団が良過ぎたら仕事なんてしないでずっと寝てしまうかもしれないな。
それより、何故俺は西洋の金持ちの家にありそうな天蓋付きのベッドの上にいるのか?!
何があったかを思い出す。
頭をぶつけた後の記憶が無い。
結構な衝撃だったと思ったのだが、頭を触ってみてもたんこぶができている様子は無いし、どこも全く痛くない。
部屋は明るいが、光源が分からない。
ベッドから出る。
靴はベッドのすぐそばに揃えて置いてあった。
部屋は土足で良いのか。
寝たからかもしれないが、体が嘘のようにすっきりしている。
立ち眩みした時の体の重さは全く無い。
どの位寝ていたかは分からないが、睡眠は大事だな。
ベッドから少し離れた所に小さなテーブルがあり、その上には、たっぷりと水の入っている美しい細工が施されたガラスの水差しと、この水差しと同じような美しい細工が施されたグラスが置いてあった。
・・・・。
これ使って良いのか?
万が一割ってしまったら物凄い額を請求されそうだが。
恐ろしくて使えない。
天蓋付きのベッドと小さなテーブル以外は、椅子が2脚あるだけだった。
全ての家具がアンティーク調で統一されている。
やたらと広い部屋だが、窓は無い。
天井や壁に照明らしきものも見当たらない。
一体光源はどこにあるのか?
唯一部屋の外に出られるであろう扉はしっかりと重厚感がある木の扉で、その向こうからは何の物音も聞こえない。
ここは白木の家なのだろうか?
家主がインテリアに拘りがある事は分かったが、せめて時計くらいはあった方が良くないか?
もう日曜日になってしまっているのだろうか?
その前に元のおっさんの姿に戻ってるのか俺?!
腹肉が無いから多分まだ戻っては無いだろうが。
色々確認したい。
とはいえ、もし夜中だったらあまり物音を立てない方が良いが、トイレにも行きたいし、今は扉を開けるしかない。
一応様子を伺いながら扉を開けたが、全く何の音もしなかった。
・・・・どんだけきちんと手入れしてんだよ。
そっと扉を閉じる。
扉の前は長い廊下だった。
部屋と同じく明るい。
しかしここにも窓は無い。
光源も無さそうだ。
他の部屋の扉も見当たらない。
もちろんトイレの扉も見当たらない。
これは家なのか?
ホテルだとしても他の部屋の扉くらいはありそうなものだが。
なるべく足音を立てないように廊下を進むと階段が見えた。
上に続く階段が無いという事は、ここは2階以上という事か。
てっきり地下にでもいるのかと思っていたのだが。
階段を降りようとした時だった。
「ゴーン!」と教会の鐘のような音が建物内に鳴り響いた。
それと同時にメイド喫茶か?!と思うようなクラシカルな服装をした女性が数人階段を昇って来た。
どう見ても全員西洋人に見える・・・・んだが。
どうしよう俺日本語しか分からないぜ!
「お客様如何されましたか?」
「あ、あいあむ」
「お客様?」
「あ!あっ!はい!あ、あのトイレを探してまして!」
日本語!!!!!
俺に「如何されましたか?」と尋ねた、先頭にいた年配のメイドさんの後ろにいる若いメイドさん達が肩を震わせながら絶対に笑わないように頑張っているぅ!
恥ずかしいぜ俺!
絶対全員日本語分かってるじゃないか!
顔が熱すぎるぜ!
年配のメイドさんが、若いメイドさん達の方を見ると、1番後ろにいた若いメイドさんがおじぎをして何も言わずに階段を降りて行った。
「大変失礼致しました。どうぞこちらへ。」
年配のメイドさんが階段を昇り切って、廊下を進んで行く。
「いや、さっき廊下、え?!」
「御説明は後程。こちらでございます。」
何で・・・・?
何で扉があるんだよ?
何でトイレがあるんだよ?
さっきまで何も無いただの壁だったぜ・・・・。
漏らさなかった俺偉い!
中年の姿だったら確実に漏らしていたに違いない。
今は高校生の姿で良かった・・・・と洗面台の鏡を見ながら心の底からそう思った。