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02.端終駅

信じられないものを見た時、人は痛みによってそれが現実か否かを判断する傾向にあるらしい。

俺も御多分に洩れず、自らの頬をつねってみたのだが。

鏡に映るのは若い男が頬をつねって痛がる姿であって、それは俺が高校生の時の若かりし姿に間違い無かった。


・・・・・・マジか?

どうなってるんだよこれ??


服装は黒のポロシャツ、ベージュのチノパン、白のスニーカーという何の変哲も無い格好のままなんだが。

腹まわりにあったはずの肉が無くなっている。

どおりでチノパンがずり落ちて来る訳だ。

更にポケットに入れていたはずの携帯電話も財布も無い。

あるのは髪の毛の量だけのようだ。

これは嬉しいが。

いや、髪の量に喜んでいる場合では無い。

携帯電話と財布が無いという事は、改札を出られないという事だ。

交通系ICカードを持ち歩くよりモバイルにした方が楽だよと、遥に勧められたのを機にそうしていたのが仇になってしまった・・・・。

擦られたのなら被害届を出さないとならないが、この姿で色々説明しなければならないのだとすると、どうしたものか・・・・。

まずはどうやって改札を出るべきかだな。

トイレを出て、真っ暗なホームに少し驚きながら改札に向かうと、駅のシャッターを閉めようとしている駅員さんがいた。


「すみません!」

「んあーっ?すまん!まだ人がいたとは!」

「トイレに行ってまして。あの、切符を無くしてしまったようで」

「何処から乗ったの?」

「あ、(きゅう)駅からです」

「え?何て言ったの?何処の駅?」

「いえ、ですからきゅ」


ふと上を見た俺が目にしたのは『端終駅』という看板だった。


「はし・・・・おわり?」

「お兄さん何処から乗ったか覚えて無いの?」

「あ、いや、あの、この駅何ていう駅ですか?」

端終(はしゅう)駅だよ。参ったなあ。何処から乗ったか分からないと始発からの運賃になっちゃうんだけど」


待て待て待て。

俺の最寄駅である九駅や酒屋のある十四駅等、この路線は全ての駅が漢数字になっていて、終点は三十二駅のはず・・・・。

あまり鉄道には詳しく無いが、端終という駅名には覚えが無い。

路線も分からないし、金も無いしどうする俺?!

とりあえず金が無い事を言うしかない。


「その、実は何処から乗ったかも分からないんです。始発からお支払いするのは構わないのですが、今財布も何も持って無くて・・・・」

「へ?君財布擦られちゃったの?」

「実はそれも良く分からないんですが・・・・」

「うーん。そうなるとどうするかねえ。君高校生?名前は?」


この状況だとやはり財布を擦られたという事で駅から警察に連絡を入れてもらえるだろう。

そうなると今の姿で家に帰る事になるのか・・・・?

それは困る、よなあ。

俺が考え込んでいると、改札の向こうから声がした。

「こんばんは。今日は佐藤さんなんですね。どうかしたんですか?」

白木(しらき)君!」


声をかけて来たのは、高校生位の若い男だった。

佐藤と呼ばれた駅員さんがその男に駆け寄って行き、ちらちらと俺を見ながら何かを話している。

白木と呼ばれた男が何度か頷いた後、2人ともこちらに向かって来た。


「こんばんは。」

白木が俺を見て挨拶をして来た。

「こんばんは」

「やっぱり見覚え無いかい?」

佐藤が白木に聞いている。

「そうですね・・・・。この辺りの人では無さそうですけど。君、名前は?」

「あー、えーっと・・・・」


良く考えろ俺。

彼等に俺の住所を言えば、ここからタクシーで帰れるかどうかも分かるだろう。

名前を名乗れば間違いなく同姓同名の人間の住まいな訳だから他人からは疑問を持たれる事も無いはずだ。

とはいえこの姿では家に戻れないし、戻りたくも無いし、考えたくも無いが明日までに元に戻らなかったら遥に怒鳴られる所の騒ぎでは無い。

別に元通りのおっさんに戻ったからといって威厳も何もある訳では無いが、挨拶に来る男より年下の姿で「娘はやらん」とか言っても締まらないしなあ。

あ、いや、今は明日の事より今どうするかだ。


「君、大丈夫?具合悪いんじゃないか?顔色が良く無いように見えるけど」

白木が心配そうに俺の顔を覗き込んで来た。

佐藤はシャッターを閉めていた。


「・・・・分かりません。」


白木という男がこの辺りの高校生だとすれば当たり前だが、高校生でも無い俺の事は当然知るはずも無い。

この後警察に行くにしても何も分からない事にしてしまえば、少しは時間を稼げるのではないだろうか?

最優先事項として、この姿を元に戻さないと家には帰れない。

それならば。


「分からないんです。何処から来たかも、名前も、何も・・・・。」


漫画やドラマで良くある、記憶喪失ってやつを装ってみるしかない。

しかし、佐藤がシャッターから俺達の元に戻って来た時、丁度俺は立ち眩みって状態になっていた。

マジで具合悪くなってどうするんだよ俺!

慌てて白木が支えてくれなかったら、倒れて頭でも打っていたかもしれない。


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