13.犬舎に向かう
輝さんが美奈さんを連れて食堂に入って来た。
輝さんの手にはサイコロもどきが乗っている。
「ダイゴ、朝はすまなかった。遥君は昨日お会いしたね。みんな昼食は済んだようだね。犬飼さんから連絡が来たから行こう。」
遥が驚いた顔をして、輝さんの手を見ている。
さっき俺は実体験したが、遥は初めて見るもんな。
そういえばさっき渡されたサイコロもどきをポケットに入れたままだった。
「あの、これさっき美奈さんから預かったままで」
サイコロもどきを通して伝えると、
「そのまま持っていてくれ。犬飼さんともこれで会話できるはずだ。」
俺の言葉は向こうの言葉に変換され、輝さんの返事は俺や遥にも分かるように変換される。
俺達は席を立って、輝さん達の方に向かう。
輝さんがメイドさんに何か伝えた後、光が輝さんに何か言って、輝さんが遥に向かって美奈さんを紹介していた。
美奈さんが遥に何か渡していたが、おそらくサイコロもどきだろう。
簡単な挨拶も済んだようで、輝さんと美奈さんが食堂を出ようとしていたので、俺はミントジュレップのお礼を言おうとメイドさんを探そうとしたら、既にメイドさんがそばに来ていた。
驚いていると、メイドさんが
「ダイゴ様、大変不躾なお願いなのですが夕食は是非召し上がって下さいませ。」
と言うので、
「こちらこそよろしくお願いします!ミントジュレップ最高でした!」
と言うと、メイドさんが物凄くホッとした顔をしながら「行ってらっしゃいませ」とお辞儀をしてくれた。
輝さんと美奈さんは腕を組んで前を歩いている。
というか、美奈さんが輝さんの腕を離さないというのが正しいのかも。
光は「ダイゴと遥ちゃんは僕の後ろをなるべく離れず着いて来てね。」と言って、すれ違う人達に挨拶をはじめた。
遥は光の挨拶に合わせて会釈をしながらも、初めて見る異世界の風景に戸惑っているように見えた。
輝さんは光と同じように何度か挨拶しようと試みていたようだが、その度に美奈さんが腕を引くので会釈だけに切り替えたようだ。
成程。
だから光が2人の後ろを絶妙な距離感で歩いているのか。
そして光のすぐ後ろに遥が、俺はその後ろを歩いている。
遥に話しかけたいが、先程ずっと睨まれていたので何と切り出したら良いか考えてしまう。
光が挨拶した時、何か質問されたらしく、立ち止まって会話が始まった。
先に行く訳にも行かず、会話が終わるのを待つしか無いと思っていたら、遥が振り向いて「あんた、ダイゴって言うの?」と話しかけてきた。
遥!!!
ダイゴは仮の姿で本当はお父さんだよ!!!
・・・・とは言えないので、「本当の名前は分からないんですけど、ダイゴって呼んでもらってます・・・・。」と何故か敬語で返答してしまった。
「エミさんからあんたの事は少し聞いたわ。私と同じ世界の人なのよね?」
「あ、はい。そうなります。」
真っ直ぐな目を俺に向けている。
我が娘ながら可愛い。
その辺の男子高校生であれば、遥に話しかけられたら今日はラッキーだと思うんだろうな。
「そう・・・・。その、家とか学校とか、覚えていないのよね?」
「そうですね。先程光君と一緒に警察署に行ったので、もしかしたら何か分かるかもしれませんが。」
「・・・・何で敬語なの?」
「え?あー、いやその」
「多分高校生でしょ?それなら、」
「学年も分からないので・・・・。」
「私は2年生で光さんは3年生。光さんとは普通に話しているんだから光さんより年下の私に敬語は変じゃない?」
う、うーん。
確かにそうなんだが、遥を呼び捨てにはできないよなあ・・・・。
無言になってしまった俺に、遥が何か言おうとした時、漸く光の会話が終わったようで、
「待たせてごめん。今みたいな事があったら先に行ってもらって良いから。道なりに行けば犬舎に着くからね。」と言われてしまった。
輝さん達の姿はすでに見えない。
光について歩き出そうとすると、遥がじっと俺を見ている。
「あの、何か?」
「私はこれからあんたの事ダイゴって呼ぶから。だからダイゴも私の事遥って呼んで構わないから。」
えっ!?
えええええええええええええええー!!!
おい待て遥!
俺はお父さんだから良いけど、見知らぬ男に呼び捨てされるのは見過ごせないぞ!!!
「いやそれは」
「私だけ呼び捨てで、ダイゴは駄目っておかしいでしょ?」
「じゃあ俺もさん付けで呼んでもらえれば」
「それは嫌。」
何で?
何で即答??
何でですか遥さん???
「じゃあ、君付けは?」
遥は少し考えているようだったが、黙ったまま歩き出した。
俺も遥の後について歩く。
結局、犬舎に着くまで遥は一言も話しかけて来なかった。
光が扉に手をかけながら、俺達に「翻訳機を出しておいた方が良いよ。」と言うのでサイコロもどきを手に持つ。
いよいよケルベロスを見るのか・・・・。
遥の事も気になるが、今はケルベロスに集中しよう。




