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11.記憶力と義務

俺達が小径を歩いて犬舎に着くと、既に美奈さんは日傘を閉じて、入口で大柄で屈強そうな初老の男性と話をしていた。

「あの人が犬飼さんだよ。ラピスの様子を聞いて来るね。」

光が犬飼さんと美奈さんと話をしている間、俺は周りを見渡してみた。

あちらこちらに色とりどりの花が植えられていたり、犬というか、ケルベロスの形をしたトピアリーがあったり、良く手入れされた庭なのだなという印象だ。

御者さんのくれた薬のおかげで具合も良くなってきたので、深呼吸して空気を吸う。

次に馬車に乗る機会があるならば、必ず地上を走る馬車か確認してから乗ろう。

「ダイゴ、一旦家に戻るよ。」

光が俺に声をかけた。

「あれ?出産は?」

「犬飼さんの話だと、最低でもあと1時間はかかるらしいよ。連絡してくれるそうだから、それまでお昼ごはんを食べたりして待とう。」

「・・・・俺、今は飯は無理・・・・。」

「じゃあ私は輝様と話があるからまた後で。」

美奈さんはそう言うと、日傘をさして屋敷の方へ歩いて行ってしまった。

何というか、マイペースな人だなと思って見ていたら、そんな俺を見て光が「多分僕と同じ事を思ってそうだね。」と苦笑いをして「僕達も食堂に行こうか」と歩き出した。


犬舎から屋敷までの間、光は会う人全員に挨拶をしていた。

俺には分からない言語だったが、何度も聞く言葉があったので、おそらく「こんにちは」にあたる言葉の前にそれぞれの名前を言っていたのでは?と推測される。

使用人全員の名前を覚えているのだろうか?

俺は会釈だけしてたが、それでもかなり大変だった。

こういう、人の顔と名前を覚える能力が高いってのは才能なんだろうか?

俺は同じ人間に何度か会って漸く覚えられるので、一目で人の顔と名前を覚えられる奴は凄いと思っている。

同期に相川あいかわという奴がいるのだが、そいつがそういう才能の持主で、今でこそ役職に就いて机に座って部署を取りまとめているが、以前は営業部のエースで全国を飛び回っていた。

一発で取引先の人間を覚えるその記憶力は社内のみならず、数多くの取引先からも一目置かれる位だったのだ。

そういやその相川が不思議な事を言っていた事があった。

10年前にトンズラした上司は俺達と同期で、所謂出世頭だったのだが、確かに俺にも上司の記憶は全く無かったし、あまりにも仕事ができない上にセクハラパワハラは当たり前というとんでもない奴だったので、寧ろ奴の記憶が無い方がおかしいという感じではあったのだが。

営業部に用があった時に相川に呼び止められて少し話をしたのだが、相川は新人研修時に100人近くいた全ての同期の顔と名前を覚えたそうだ。

しかし。

出世頭のクソ同期の事だけは全く記憶に無いと言っていた。

更に相川は、他の同期の奴らにも聞いてみたが、誰もクソ同期を覚えていなかったと言っていた。

相川は元々有能な奴なので、他の同期はいざ知らず、相川があんなに悪目立ちする人間を全く覚えていないなんて事があるのか・・・・?と驚いた覚えがある。

そんな誰の記憶にも残らないような使用人が白木家にいるとは思わないが、接触が少なくて印象の薄い使用人も光は覚えているのだろうか?


漸く屋敷に入ると、見覚えのあるロビーが見えた。

広いロビーには誰も居ない。

外にはあんなに働いている人が居たのに。

とはいえロビーは綺麗だし、既に掃除は完了しているのだろう。

「どうかした?」

立ち止まってロビーを見回していた俺を見て光が声をかけてきた。

「さっき色々な人に挨拶してたけど、もしかして全員の名前を覚えているのか?」

「うん。そうだけど・・・・?」

光が不思議そうに俺を見ている。

「いや、一人一人名前を呼んで挨拶しているみたいだったから、記憶力が凄いんだなと驚いたんだ。」

「・・・・覚えなくてはいけないからね。」

「ん?」

光はロビーを見回して誰も居ない事を確認してから、少し声をひそめて話し始めた。

「昔、まだ兄が生まれる前に他の家で騒動があったそうなんだ。その時に騒動を起こした輩の手のものが使用人に扮して我が家にも入り込んでいたそうでね。父が早く気がついたから我が家は巻き込まれずに済んだそうなんだけど、それ以来使用人は身元をしっかり調べて信用できる者だけになったそうだよ。だから我が家は他の家より使用人の数は少ないし、危機管理という事で、兄と僕も小さい頃から全員の顔と名前を覚えさせられたんだ。」

「覚えさせられた?」

「こう言うと強制的に聞こえるかもしれないけど、それが兄と僕の義務でもあるからね。でも小さい頃はみんなの顔と名前が中々一致できなくて大変だったよ。」

「そうなのか・・・・。俺はそういう才能なのかと思ってた。」

「・・・・父は才能なんだと思うけど、兄と僕は努力だよ。」

努力か・・・・。

白木家の使用人の数が少ないという話だが、小さな子供がその全員を覚えるというのは、並大抵の努力では難しいだろう。

明言はされていないが、今までの話から考えると、おそらく白木家はこの地域を治める領主なんだろう。

生まれながらにして背負う義務か・・・・。

光が天井を見上げながら「今は夏だけど、春や秋や冬しか来ない人もいるから、本当に大変だった・・・・。」と言うのを聞いて俺は思った。

俺、平凡な庶民で良かったよ。


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