10.空飛ぶ馬車と日傘の女性
だいぶ間があいてしまいましたが、漸く10エピソードです。まだまだ彼らの夏は終わらないので、よろしければお付き合い下さいませ。
馬車に乗る。
窓は無いが車内は明るい。
白木家と同じように光源が分からない。
この世界ではこれがスタンダードなのだろうか?
光と横並びで座る。
「いざという時はそこの紙袋を使ってね。」
扉にあるチラシ入れみたいな部分を見ると、数枚紙袋が入っていた。
エチケット袋ってやつか。
万が一という事もあるから、念の為一枚手に持っておこう。
「シートベルトをしても、揺れが酷い時は上の手すりを掴むと良いと思うよ。」
正面にある小窓が開いて、御者さんが俺に分からない言語で何か言うと、光が答えて、小窓が閉まって馬車が動き出した。
!!!!!!!!!!!!!!
これジェットコースターじゃないのか?!
なんか浮遊感あるし!!
俺、ジェットコースター苦手なんだよ!!!
昔3人で遊園地に行った時に遥が乗りたいと言うので、一緒に乗ったら俺がフラフラになってしまって、それ以降はあやめと遥が絶叫系アトラクションに乗っている間、俺は荷物持ちと化していた。
飛行機も離陸時のあの内蔵が浮くような感覚が苦手で、なるべく出張は新幹線で行くようにしている。
本来馬車とは地上を走るものでは無いのか?
ずっとフワフワしている感覚が続いている。
そして速い。
絶対速い!
窓が無くて良かった。
今景色を見たら死ぬ。
確実に死ぬ。
ちらっと右にいる光を見たら手すりを掴みながらとても楽しそうにしていた。
俺は左手で手すりを掴みながら右手で袋を開ける準備をしているというのに!
・・・・・・・・・・。
実際どの位の時間乗っていたのか分からないが、スピードが落ち始めて漸く地上に降りた感覚を感じた瞬間、物凄く安堵した。
紙袋は何とか使わずに済んだが、気分は相当悪い。
「速くて楽しかったね!あれ、もしかしてダイゴ顔色悪い?」
「・・・・馬車が空を飛ぶなんて聞いてない・・・・。」
早く馬車から出たいが、気分が悪いせいかシートベルトを外すのに手間取っていると、扉が開いて御者さんが外すのを手伝ってくれた。
馬車を降りて無事地上にいる喜びを噛みしめながら深呼吸をして周りを見回すと、高い塀と少し先に大きな黒い門が見えた。
御者さんが光に何か渡して御者台に戻って俺達に頭を下げて、スレイプニルが地面を蹴ったかと思ったら、物凄いスピードで空を飛んで行った。
呆然と見上げていたら、背後からこちらに向かって何か言う女性の声が聞こえた。
その声に気付いた俺達が振り返ると、日傘を差した女性がこちらに向かって歩いてきていて、光が何か叫んで女性に駆け寄った。
俺が2人を見ていると、2人は何か会話しながら俺の方に向かって来た。
何を言っているのかはさっぱり分からないが、女性が俺を見て何か言うと、彼女の掌にある小さなサイコロのような物体から「はじめまして。馬車の乗り心地はどうだった?」と聞こえてきた。
俺が女性の掌を見つめていると、女性は光に何か言って、女性の掌にあったものとは別のサイコロのような物体を渡した。
光が俺にそのサイコロのような物体と「これ御者さんから。飲んだら多分気分が良くなるよ。」と錠剤を渡されたので、持っていたペットボトルのお茶で錠剤を飲んだ。
飲み合わせなんて気にしないし、早く楽になりたい。
すると女性の声で「薬は飲んだね。ではそれに向かって話してくれ。」とサイコロから聴こえてきたので、
「・・・・・・はじめまして。・・・・・・あれは馬車と呼んで良いものでしょうか・・・・?」
とサイコロに喋ってみると、サイコロから謎の言語で俺の声が聞こえる!
どうやらこれは翻訳機らしい。
「ああ、あれは『空飛ぶ馬車』だよ。急いでいる時は使う人もいるが運賃が高額なのと、君のように苦手な人もいるから、普段は地上しか走らない馬車を使う人が多いね。」
でーすーよーねー!
「それはそうと、君達が急いだのはラピスの出産の為だろう?ひとまず愛しい彼女の元に行こうじゃないか。」
そう言うと彼女は日傘をクルクルと回しながら大きな黒い門の方へ楽しそうに歩いて行く。
俺は何とか気力を振り絞って壁づたいに歩く。
光が俺を気遣いながら「あの方は美奈さん。兄の婚約者だ。美奈さんは王家に連なる家の方で、あの家は発明一家なんだよ。さっきの翻訳機はまだ試作品だそうだけど、完成したら国中に普及させるそうだよ。多分兄が、犬飼さんが君や遥ちゃんとスムーズに話ができるように持ってきてもらうようにお願いしたんじゃないかな?」
「確かに・・・・直接翻訳してくれてたみたいだな。」
あのサイコロもどきは優れた発明品のようだ。
タイムラグが無いのも素晴らしい。
持ち運びはしやすいだろうが、2センチ四方くらいのものだからすぐ無くしそうだ。
俺がどうにか門の前に着くと、既に門に着いていた日傘の女性は門番さんと話していた。
光が門番さんに何か言うと、門が開いて俺達は中に入った。
入ってすぐ馬が繋がれていない馬車が、屋根付きの小屋に収まっている。
俺が馬車の先から聞こえる馬の鳴き声の方を見ていると「そっちは馬舎で犬舎はこっちだよ。美奈さんはもう先に行ってしまってるな・・・・。」と光が犬舎に向かう色とりどりの花に囲まれている細い小径を歩く日傘の美奈さんを見ながらため息をついていた。




