どうでもいいと思えなくなりますように
お読み頂き有難う御座います。
ラストですね。
「おめでとう御座います!」
「誇り高きレレンレーノ侯爵家に栄光あれ!」
抜けるような青空に、真っ赤な花びらと祝いを告げる音楽や声が舞い落ちる。
レレンレーノ侯爵家の惣領娘オジェーヌの荘厳な結婚式の後、広大な庭園で立食式の宴が開かれていた。
高位貴族が中心の方で花婿花嫁を囲み、寄り子の貴族は彼らを囲むように散らばっている。
その中に、マガレッタは父親共々招待されていた。
寄親筋とは言えども、マガレッタはオジェーヌ・レレンレーノと個人的に仲がいい訳では無い。チューケン伯爵である父親だけだと思っていたのだが……やはり、例の件だろうか。
ケンマ・バレトンネが母親共々、古い小屋の倒壊に巻き込まれてしまった事故……の真相というか、命令によって下手人となったが、粗相が有ったのだろうか。
婚約者であったケンマ・バレトンネとその愛人チャンミーが葡萄酒小屋を損壊させた件の処理のやり方がまずかったのだろうか。
チャンミーがレレンレーノの血を引いていることを知らない方が良かったのだろうか。
レレンレーノ前侯爵の兄にケンマの母親の前伯爵夫人が言い寄っていて……等な醜聞を知るべきではなかったと言いがかりを付けてくるのだろうか。
絶対に口外なんてしないのに……何故……。
とマガレッタは内心ビクビクしながらも、隅の方に並べられたご馳走に舌鼓を打っていた。
消化の良さそうな物を主に食べたかったが、ついつい凝った作りの、滅多に食べられない食事に手が伸びる。
「レティ! 今日もかわいーね!」
「……偶然ですわね」
あの場限りの関係だと思ったのに、ファブリス・バレトンネがちょくちょくマガレッタに絡んでくる。
ケンマ・バレトンネとの婚約は白紙撤回されたが、何故かバレトンネ家との交流は続いていた。父親同士でどのような取引が有ったのかは分からない。
このままでは婚約が結ばれかねないのでは、余計なことを……。と地味にマガレッタは危惧していた。
「向日葵色のドレスがよく似合ってるね」
「……畏れ入ります」
「そんなキミに贈り物!」
ずり下がり、ファブリスから然りげ無く距離を取ろうとしたマガレッタの手首を取り、止める間もなく軽い感触が何かが肌に触る。
金色の鎖に向日葵色のような輝石が幾つか付いた、華奢なブレスレットだった。
可愛らしい。
実にマガレッタの好みだったが、受け取るのも癪だった。
「美しいですが……頂く謂れが御座いませんわ」
「チューケン伯爵領の向日葵畑は素晴らしいよね!」
「そうでしょう!」
「花は美しいし、畑の肥料にもなるし、食料にもなる。影に日向に向日葵は素晴らしい植物だよね」
「ええ、その通りですわ。よくご存じで」
「まあ、足りないだろうけど勉強したからねー」
「足りないだなんて。足りないことを補い合って増やしていく事が大事ですのよ」
「だよねー」
ニコニコと笑顔を向けられ、何時の間にか手を握られていたが、マガレッタは何となく振りほどけなかった。
何故か嫌ではない。
領地のことを想ってくれて嬉しい。
それに、まあ……チャラチャラしているけれど、浮いた噂は聞かないし……。
「まあ、バレトンネの末子はチューケン伯爵令嬢と懇意なのね」
「……レレンレーノ小侯爵、小侯爵夫人……。この度は誠におめでとう御座います」
「有難う」
騒いでいたせいか、何時の間にかオジェーヌが夫を連れてマガレッタの眼の前で意味深に微笑んでいた。
マガレッタは、辛うじてカーテシーをしながら俯いたが、その微笑みが恐ろしすぎて生きた心地がしない。
「先日の事故は残念だったわね」
「いえ……」
「遺されたものの処理は大変だったでしょう」
「とんでもないことで御座います」
最早圧力としか思えない言葉に、足がガクガク震え、とうとうよろけたマガレッタをファブリスが支えてくれた。
「大変ですが、マガレッタ嬢と力を合わせましたので」
「そう、バレトンネ伯爵令息の働きはお見事だったわね」
「これからも助け合いよろしく頼むぞ、バレトンネ伯爵令息、チューケン伯爵令嬢」
どうやら、お咎めはないらしい。
殆どファブリスに縋り付く形になってしまったマガレッタは、歪に微笑むのが精一杯だった。
「……認められちゃったね、俺達の婚約」
「は、は……はぁ!?
何故其処まで飛躍するのです!?」
「実はオジェーヌ様と地味に仲良いんだよね、俺」
目を剥いて離れようと藻掻くマガレッタに、ニコッとファブリスは微笑み、ガッチリと腕に力を込めた。
「まあまあ、レティ。俺、契約も守るし、レティとチューケン伯爵領も大切にするよ」
「いえ……いや、ええ!? 大体私、暫く婚約……」
「駄目婚約者をやっつけて、イケてる兄か弟と結婚するって、キミの読んでた恋愛本と似てない?」
「なっ……」
何故愛読書までバレているのか。
マガレッタの上がりきった血圧が急降下した。
「多分、今キミを愛してキミの生まれた土地を愛せる男って、俺だけだと思うよ」
「……な……な、納得……」
「納得出来るまで、付き合うからね」
マガレッタだって、いい条件だと思うのだ。だが、都合が良すぎる。
顔が良くて、チューケン伯爵領と自分を愛してくれるなんて……。
令嬢の癖に領地経営好きなんて真面目ぶってる、なんて陰口を叩く令息も多かったから。
「わ、私は難攻不落ですから」
「うんうん、頑張るからね」
自領以外どうでもいい、なんて思っていたけれどやはり傷付いた。
でも、もうケリをつけたい。
ファブリスを少しばかり信じてみたい。
真面目で意固地なマガレッタが愛を受け入れて、チューケン伯爵領がもう少し豊かになるまでもう少し掛かるのだった。
お寒い中、お読み頂いた貴方に感謝を!




