初対面の暴露者
お読み頂き有難う御座います。
ギスギスパートを抜けましたね。
「何故私に!? バレトンネのご当主様がいらしたならお父様にご用事では?」
「どちらにお会いされますか、お嬢様」
どちら、と言われても。
何ならどちらにも会いたくない。ぐだぐだと、小娘相手だと軽んじられた上の御託や言い訳を聞く気は無い。
決定権を持つ者同士で、ハッキリとやり合って欲しいものだ。
「お父様は……」
「本日は、マーリム村の会合で朝早く出られました」
父に話を持っていくよう執事にさり気なく伝えたつもりだったが、物理的にも駄目らしい。こんなモメている時に……とは思ったが、マーリム村で盗難事件が起こったからには仕方ない。その件も、ケンマ・バレトンネが関わっている可能性も高いのだから。
「バレトンネ伯爵家次男のファブリス様って、何方なのかしら」
「次男に当たられるそうです」
「次男……」
バレトンネ伯爵どころか次期伯爵でもなく、会ったこともない次男がお詫びに来たのだろうか? 失礼気味だし意味が分からない。
マガレッタとしては誰が来ようが別にどうでもいいのだが、チューケン伯爵家の面子的にどうなのだろう。
しかも、庭の方ではギャアギャアと金切り声が響いている。あの金切り声オバサン、いやバレトンネ伯爵夫人とは会いたくなかった。
「どんな方だったかしら? ご家族同士での顔合わせでお会いしたことはあったような、無かったような? 記憶に薄い、いえ無いわね……」
「派手なお顔立ちの方で……身なりは慎ましく為さった方ですね」
「お詫びに派手な装いではね……流石に」
マガレッタは結構頑張って考えてみたが、思い出せなかった。
取り敢えず夫人の方は居留守を使って追い返すことにして、次男とやらと会ってみることにする。
地味に薔薇の美しさに絆されたのもある。何気にマガレッタは自領で採れない薔薇が好きだった。
「突然の訪問にも関わらず寛大なお迎え、痛み入る」
「は……はい」
そして、案内されてきたファブリスだが、確かに見目はいい。
ただ……棒読みが凄い。
不出来な朗読よりも酷い棒読みを、マガレッタは今迄聞いたことがない。
それにしても、本当にあのケンマ・バレトンネ様の兄君なの? この方。勘気を解く為にバレトンネ家が雇った役者じゃなくて? とマガレッタは現実なら首が痛くなるくらい、心の中で傾げまくった。
「ファブリス・バレトンネです。あまり弟には似ていないでしょう」
「……マガレッタ・チューケンで御座います」
ファブリス・バレトンネ伯爵令息は実に派手な容姿だった。睫毛一つ取ってもマガレッタより遥かに長いし、よく焼けた肌艶も美しい。その辺の御婦人もクラクラするような色香が漂っている。
争う気にもなりはしない、素敵なご面相ですこと。
それなのに、大柄で男らしい雰囲気もお持ちで、御婦人におモテになりそう。それも、色香を武器になさる方々に! 心の中でやさぐれたマガレッタは、内心歯軋りして半目になった。
有り体に、マガレッタの苦手な部類の殿方で、関わり合いになりたくないご容姿だった。
偏見だが、マガレッタみたいな頭の固い堅苦しい女は、向こうもお嫌いだろう。
私とは無縁の華やかなイケてる界隈にお住まいなのよ。悔しいだなんて思わなくもないんですから! と悪態を心の中で吐いた。
「……お掛けになってくださいませ。バレトンネ伯爵令息」
「かたじけない」
……マガレッタ自身も大概お硬いと言われているが、ファブリスは台本を読んでいるみたいな話し方だった。
少しは抑揚つけなさいよ! 謝ってる風すら装えないの!? 失礼千万な方!
と、マガレッタは何から何まで気に食わない。ポット憎ければ粘土まで憎いとはよく言ったものだ。
半目になっているのを自覚しながら、マガレッタは眼の前のファブリスに向き直る。
「それで、御用向きの程はなんでしょう? 鉱山の契約のことでしたら」
「……いや、違う。貴女に我が愚弟の愚行を詫びに来た。
決して貴伯爵家との仰々しい決まり事の為に来た訳では……えーと何だっけ」
何処までも棒読みで台本を読んでいるような様子が気になって、話が入ってこない。
美男である兄が、婚約者に邪険にされたマガレッタに心より謝罪して、何とか利益を守ろうと。そういう小芝居なのだろうか。
……不愉快だわ。後、お詫びの言葉位ちゃんと覚えてなから来なさいよ!
とマガレッタは更に苛ついた。
「あの、お言葉遣いが」
「何? 崩していい? 意外と話分かるね、レティ嬢」
ちょっと! そんなこと許してないんですけど!? 急に馴れ馴れしいのよ!
それに勝手に愛称迄作って、気軽に呼ばないで欲しいのですけれどおおおお!?
何なのよ!? バレトンネって、失礼千万な殿方しか生産していないの!? とマガレッタは長めに叫ぶところだった。
「あの」
「本当に、ウチの母から甘やかされ倒した弟がゴメンなあ。本当は長男様って威張ってる兄貴が、それっぽく謝れって話なんだけど」
「バレトンネ伯爵令息」
「あ、ファビでいいよ。弟と被ってややこしいだろ」
「……いえ、ファブリス様とお呼びしますわ」
名前なんか呼ぶ気は無かった。
弟君とかそういうので良い筈だし、別に混ざったって構わない。
マガレッタは悔しかった。美麗な殿方に良いようにされるなんて小説みたいで悔しかった。キチンとした令嬢の自負は山よりも高かったので大変悔しかった。
「我が親ながら、母親がイカれててなー……」
「はあ……」
何故マガレッタに愚痴るのだろう。バレトンネ伯爵家を代表してお詫びに来たのではないのだろうか。
愚痴聞き屋じゃないのに、と調子が狂ってしまう。
「弟って、推しとの子供なんだってさ」
「オシトの子供? ケンマ様の父君はオシト様という方ですか?」
聞いたことのない名前だった。
どうも貴族年鑑が改編されてから、肖像画が見辛くて新興の方は覚えにくい。
絵師の癖が強いと言うか、有り体に下手というか。巨匠の親戚の画家だそうだが、絵の才能に血筋は関係無いのだろうか。
「違ーう違ーう。
レレンレーノの前当主の兄貴は、貴族学校の教師だったんだー。それも、未成年の生徒を毒牙にかける屑股がけ野郎。
うちの母親は自主的に絡みに行ったけど」
「ば……な、まあ」
バレトンネ夫人の素行はまあ置いておくとして、まさか、当時未成年であられた夫人とソレとの間のご子息がケンマだと言うのか。バカじゃないの、とかなり動揺してマガレッタは言葉が乱れそうになった
そう言えば、バレトンネ伯爵夫人の歳は幾つなのだろうか。マガレッタは内心若作りを極められた方だと思っていた。
会う度に、お肌も性格もどんどん荒れてドス黒くてなっている。
……性格は元からかもしれないが。
ケンマ様がレレンレーノの血を引いているって、本当に本当だったのだろうか。
噂を信じている風を装ってはいたけれど、マガレッタはよりよい穏やかな未来の為に目の当たりにしたくなんて、無かったのに。
「そんで俺、次男扱いだけどアレの弟なんだよね、本来は」
「はい?」
ファブリスが、更に意味の分からない事を言い出した。
「一年違いなんだけど、出生届書き換えさせて入れ替えやがったんだ、母が」
「どうやって!? そ、そんなこと可能なのですの!? 国王陛下への……って、どうしてそんなことを聞かせますの!?」
そんな事をブチ撒けるファブリスの目的は何なのだろうか。
ケンマ・バレトンネがレレンレーノ侯爵家の領地内でワインを盗んだって疑惑だけではないのか。
マガレッタとの婚約を軽んじたこともだが。
「母親の愛人が役所にいてねー。しかも、アレと異母兄妹疑惑で番わせようとしてるからさあ」
「やめてください! 気付かないフリをしてましたのに! わたくし、そういう生々しい痴情の縺れ、嫌いなんですっ!」
「え? でもドローッとしたやっやこしーい恋愛小説が好きなんじゃないの?」
「何で知ってるのよおおおお!」
マガレッタが、今をときめく当世風の華やかな恋愛小説好きだとバレているらしい。
「前の月に、城下町の裏通りの本屋で見たよ。山程新作の恋愛小説を選んでたよね」
「変装してたのにいい!」
「何で屋内で羽根帽子目深に被ってんの? って噂の的だったよ」
「顔を隠す為だったんですのよおおお!」
「感情の起伏激しいよね、レティ」
ニコニコと見つめられて、マガレッタは顔を真っ赤になっているのか真っ青になっているのか分からない。
「わたくし知ってますわ、本で読みましたもの! この、おもしれー女に興味のある軽薄な殿方のあしらい方は……えーと!
お、おもしれー女枠は御免ですわ!」
「オーモシレーオン? 何だか分かんないけどさ。レティ。俺達秘密を分かち合った仲だろー?」
「ご、ご勝手に捲し立てて、暴かれたんでしょう!」
「そーなんだけど、交渉ってこーゆーもんじゃん?」
ニカッと笑われる顔が様になる。マガレッタは毅然と立ち向かう為に眉間に力を込めた。
「ケンマを嵌めて、レレンレーノに縋って行きたいだろ?」
「……協定を組めと仰るの?
貴族の務めでしたら、仕方有りませんわね」
「流石、模範となる伯爵令嬢マガレッタ嬢」
「不埒ですわ! お手をおはははは!」
「ははははは?」
だが、毅然と対応出来なかった。
真面目を脱ぎたい時もある真面目令嬢マガレッタです。でも、バレるのは嫌な模様。




