関係者が待っている
お読み頂き有難う御座います。
婚約者のお連れ様が誰かに捕まったようですね。
可愛くて、大人気なアタシ。
栗色の髪はクルクルフワフワで、睫毛だってバサバサ。花よりもキレイなほっぺ。唇だってプルンプルン。
手足だってスラッとして、腰だって細い。
男の子からオッサンまで、村のみんなはアタシに夢中。
それにね、なんと、お姫様にもなれるエライ人の血を引いてるんだって。
でも窓から見える空は、濁っている。
昔のこと、母親が言っていたことを、チャンミーは思い出していた。
でも、その後の言葉を、すっかり忘れていたのから。
職業訓練学校に行ったら、直ぐに貴族に見初められるという誰かの甘言に乗ってしまった。
必死に止める母親を振り払って、村を出たから。
「男爵令嬢ミナナ・エーハ。レレンレーノ家のゴルグ元令息の毒牙に掛かった哀れな1人かー。
何処かの浮気三昧女と違って慎ましーくしてた割には、その娘は随分と不出来だなー」
チャンミーは冷たい牢獄に捕まっていた。
つい先程まで、贅沢をさせてくれる貴族令息と一緒にいたのに。
ちょっとした小屋でドレスを見つけたり、何処かの池の近くで美味しい葡萄酒を飲みながら、火の周りでコッソリ踊ったり、面白かったのに。
チョロい貴族を選んで色々吟味したが、あのケンマ・バレトンネが一番マシだ。まさかケンマの母親に紹介されたのはギョッとしたが、全力で猫を被って誤魔化してきた。
チャンミーにとって、人生は楽勝の筈だった。
可愛く甘えて、ちょっとハメを外して、おだてて掌で転がせる真面目ぶったお金持ちを軽ーく落として、将来楽をするつもりだったのに。
「さーて、罪状だがこりゃヒデー。あっちこっちの領地で無銭飲食に無賃乗車に美人局、コレでもかと積み重ねてるなー」
チャンミーの眼の前の男は軽薄な調子の上、何故か道化のような仮面を被っていた。この暑い最中、毛糸のようなもので固められているモサモサした仮面だった。
「手配書見る? 白黒で描かれてる割に中々似てるよ」
「ムグ……ガ……」
チャンミーは口に何かを突っ込まれたらしく、舌が痺れて喋れない。
此処へ連れて来られて直ぐに手足に鎖を付けられ、喋れなくされた。
「で、何だっけ。入婿予定の阿呆の愛人志願だっけ?
何で?」
「むぐ、うが……」
「平民でも分からないかなー? 例えば、大店のお嬢さんの婿に愛人ってどういう結末になるか、知らない?」
「おぐ……」
「大体の処理は食い逃げ犯と一緒。叩き出して追い払われるよー」
アタシはとっても可愛いから、そんな負け犬とは違う。そんなドジは踏まない。本妻なんて、いずれ追い出してやるんだから。
チャンミーは眼の前の男にそう言ってやりたかったが、喉で潰れたような唸り声しか出ない。
「汚い泥の付いた手で、余所のヤツにベタベタ触られるとね。どんなに良い見た目でもね、ゴミ。
どっちの家にとってもゴミになるんだよ。
人様の物を無理矢理奪うのは泥棒、そーゆーもんなの」
「むぐーーー!」
「そんなに欲しいなら泥沼の泥人形くらい、与えてやっても良いんだけどねー」
「ぐお……ぎ……っ!」
チャンミーの喉からは、獣のような音が出るのみ。舌だけではなく、口も痺れてきた。
力が入らなくて倒れ込もうとしても、鎖が邪魔をして腕や足に喰い込んだ。
「寝るな。
その片目。田舎でも都会でもあんまり見ない色だろー? は……バレトンネのネズミ女に褒められたな?」
ネズミ女とは、誰だろう。バレトンネ、とはチャンミーが手に入れた令息の名前で……。
その母親に、チャンミーの瞳の色を執拗に褒めて貰った気がする。
実の母親に隠しなさいと言われた、右目。
赤に近く光る、ピンク色の瞳を。
「さーてさて……。本当に親子は変な所で似るものなんだなあ……。
アレの気味悪いレレンレーノ家への執着も、バレちゃうじゃないかー。ま、いっか」
道化の仮面を付けた男は、肩を竦めてフラフラとし始めたチャンミーを眺めた。
「でもまあいいやー。君が真面目ぶった阿呆に手を出してくれたお陰で、可愛くて真面目なお嬢さんが手に入る訳だから!」
何を言われているか、誰なのか。そもそもコレは現実なのか、幻なのか。
朦朧とし始めたチャンミーには何も分からなかった。
「じゃ、その内君の親戚筋が来ると思うけど、達者でねー」
親戚筋、とはなんだろう。
チャンミーが結ばれた鎖はとんでもなく重かった。
チャンミーのお母さんは、ごく真面目な人だったようですね。




